真相
いつもの居間へと進み、僕らがちゃぶ台の前に座ると、ボケじいは対面する形で座り、一枚の写真を机の上に置いた。
写真はこの前ボケじいが隠した、駅員と少年の写ったものだった。ボケじいが
「この駅員がワシで、少年が海くんのお父さんじゃよ。」
「じゃあ、ボケじいが・・・、古谷さんが・・・」
慎が言いかけたところで、ボケじいが
「今まで通りの呼び方で構わんよ。
君達の思っている通り、わしがこの町の前の前の市長だった古谷善治じゃ。力くん達の育った施設を残すために、勝手な条例を作り、海くんのお父さんにすべての責任を押し付けてしまった、ダメな元市長じゃよ。」
「そんなことねぇよ。ボケじいのおかけで俺らは出会えたし、何より俺たちみたいな子どものために頑張ってくれたんだから、ボケじいはダメじゃねえよ。」
力が否定するがボケじいは首を横に振り、
「政治というものは、何年か後になってその是非が問われるものらしい。今、海くんのお父さんが批判されていることは全てわしの責任じゃ。」
「でも、海のお父さんが批判されてるのは、おじさんの生い立ちが原因なんだよね、ボケじい?」
太一が聞くと、ボケじいは悲しそうな顔で、
「自分の育った施設に市のお金を多く回せば、私利私欲のために権力を濫用したと考える者もいたし、市長になるためにわしの政策を引き継いで人気集めをしたかったのだと言った者もいたよ。
でも、彼のしてきたことは、きっと後世に残っても恥じるようなものではなかったと思っている。」
「じゃあ、ボケじいの政策が間違っていたっていってる人もいれば、良かったっていう人もいるんでしょ?」
慎が聞き、ボケじいは小さく首を横に振り
「わしのしたことは、きっと間違いばかりじゃったと思う。幸せにできた子どもがどれ程いたかもわからない。何より、今わしの回りに子ども達がいなくなったことが、その証明じゃよ。」
「でも、ゆみちゃん達がいるし、僕らも・・・」
慎は一生懸命にボケじいは間違っていないと言いたいようだった。僕は今朝のことを思い出して、
「父は、ボケじいに恩返しがしたいといってました。」
ボケじいは驚いた顔で僕を見て、聞いた。
「お父さんから直接聞いたのかい?」
「いえ、父と母が今朝、そんな話をしていたので・・・。
でも、今までのボケじいの話から、父がボケじいに感じてる恩が何なのかも、ボケじいが父の人生にとって大事な人だということもわかった気がします。」
「そんな、大層なものでもないよ。
わしは、ただの知り合いのおじさんくらいでしかないよ。」
「そんなことないと思います。この間、図書館で父と話したとき、父はませたガキだったから友達と言えるのは 二十近くはなれたその人だけで、その人が一番の理解者だって言ってました。
父がそこまで言うのはたぶんボケじいだけだと思います。」
「そうかの。そうだとするとわしの最大の理解者は海くんのお父さんのなのかもしれないな。」
「きっとそうだよ、ボケじい。」
力が立ち上がって勢いよく言う。慎があきれた顔で
「そうだと思うけど、力が興奮することじゃないと思うよ。」
「そうだね。力、座ろうか。」
太一に言われて恥ずかしそうに力は座った。
ボケじいはその様子を楽しそうに眺めてから、
「他に聞きたいことはあるかな?」
僕は少年の話が父のことだとわかってから、ずっと思っていた疑問をぶつけた。
「どうして、この話を僕にしたんですか?」
ボケじいは笑顔で、
「海くんが、お父さんとうまくいってないのも知っていたし、わしがお父さんは本当はいい人なんだと言っても信じてくれなかったと思うんじゃ。
彼は一度親に捨てられて、その事でいじめられもしたし、今でも本当の両親のことを許してないかもしれない。
里親になってくれた人、海くんの知ってるおじいちゃんやおばあちゃんは、本当に彼を大事に育ててくれたが、最初は彼もどう接していいかわからずに悩んでいたそうじゃった。
そんな中で子どもを育てるということは何なのか、自分は子どもをしっかりと愛せるだろうかと悩んでいた。愛情の伝え方もわからないが、彼はわしの家に来ては、海がはじめて立ったとか、はじめてしゃべったのがママじゃなく、パパだったとか、楽しそうに話していたよ。」
ボケじいは懐かしそうに、まるで孫の成長を聞かせてもらったおじいちゃんのように優しい笑顔だった。
「おじさんにとって、ボケじいが本当のお父さんみたいな感じだったのかもしれないね。」
慎が言い、力が少し涙ぐみながら言った。
「きっとそうだよ。そうに決まってんだろ。」
「ボケじいが、僕と父との関係について修復するためにわざわざ、昔話に見立てて、話してくれたと言うことですか?」
「いいや、わしは本当にあったことをわしの目線と奥さんの目線で語ったにすぎないよ。彼が何を思い、どうしてその行動に出たのか、それはお父さんに直接聞いてほしい。
人は人と話すことで、互いを理解し、そしてわかりあえるんじゃよ。
あの人は嫌いだから言うことを聞かないというのは、その人のエゴじゃ。
人にはその人の考えがあり、自分の考えを主張することで、友達ができ、愛する人と出会い、そして、わかりあえなければ敵になる。
世の中にもっと会話が増えて、皆が相手の考えを尊重しあえたなら、きっと世界は平和になるんじゃないかの。」
ボケじいの話はスケールが大きすぎて、今の僕らでは理解できなかった。おそらく、それを察したのかボケじいが
「今はわからなくても、いつか、大人になったときにわかってくれればいいし、わしと同じ考えになる必要もないよ。
みんな違うから、社会は成り立つのじゃ。同じ人ばかりでは成り立たないのが、世界であり、国であり、人なのじゃから。」
ボケじいは笑顔のままだが、少し苦しそうにも見えた。
「父と話して、父を理解するための材料が、あの昔話ですか?」
「どうにでもなるよ。ニンジンがカレーになったり、肉じゃがになったりするように、材料で何を作るかはその人次第じゃよ。」
「僕、頑張ってみます。」
「そうして、あげてくれるとわしも嬉しいの。」
ボケじいは笑顔でそういった。
僕達は、ボケじいに色々とお礼を言って、家を出た。
「あっ、ボケじいに写真もらうの忘れたよな、海?」
ボケじいの家をでて、公園に近づいた辺りで力が言い、
「また、明日貰えばいいよ。」
僕が言い、慎が
「また、明日おいで、だね。」
「明日も楽しみだね。」
太一が言い、皆で明日が来るのを待ち遠しく感じた。
待ち遠しく感じた『明日』が2度と来ないとも知らずに。




