父
ボケじいの家に向かう途中、先程の両親の話を思い返す。父の市長解任までもう時間がないこと。父が市長という仕事に対して未練がないのだということ、そして、ボケじいが古谷さんだとしたら、父はボケじいに何か恩を感じていて、それを返すために市長になったということだった。
いろんな思いが交錯するなか、僕はボケじいの家に到着した。既に他の全員が来ていて、僕の表情が暗かったのか慎が聞いた。
「海、どうかした?」
「何でもないよ。ボケじいはまだ?」
慎は納得はしていないが聞いても無駄だと思ったのか、僕の問いに「まだだよ」と答えた。
「おや、待たせてしまったかの?」
ボケじいが散歩からではなく、家から出てきた。こんなことは今でなかったと思っているとゆみちゃんが
「今日はお散歩行かなかったの?」
「寝坊してしまってね。さぁ、話を始めようかな」
少し焦った感じで、ボケじいは話を始めた。
駅員さんが市長を辞めた後、青年は国を動かす国家公務員第一種試験に合格して、この町を離れ、東京で働いていた。
彼の担当する仕事は子どもの生活を助けたり、家庭環境の悪い家庭への支援等を行う仕事をしていた。彼は自分が孤児だったことを周囲に隠して、自分と同じような子どもに支援を行っていた。
彼は・・・・・・
ボケじいの話が突然途切れ、全員がボケじいを見る。ボケじいは何かを考え込むように「うーん」と唸り、そして
彼は、10年ほど東京で働いた後、この町に戻ってきて、市議会議員になった。駅員さんの政策を引き継ぐために。
だが、駅員さんはそれを喜ばなかった。自分の作った条例が、その時点であの施設を残すためだけに、作られたものだということが公になっていたからじゃ。
自分の間違いの責任を青年に押し付けることはできなかった。
もう反対したが青年は、市議会議員になり、実績を重ね、彼は市民から慕われる存在になり、そして・・・・・・・、彼は・・・。
ボケじいがまた黙り込んでから、力強く、
「彼は市長になった。」
と言った。その時点で、いや、ボケじいの話の途中くらいから僕はこの話の青年が誰なのかがわかった気がした。
ボケじいは、まっすぐに僕を見つめて、
「この話は、海くんのお父さんの、今の市長さんのお話じゃよ。」
全員が僕を見ていた。僕はボケじいをまっすぐに見つめていた。
ボケじいは「ふう」と息を吐き、
「じゃあ今日はここまでにしようかの、明日からは別の話をしようかな。それじゃあ、また明日おいで。」
ゆみちゃん達が寄せ書きのために、ボケじいに挨拶をして走り去って行った。
ボケじいは僕達をまっすぐに見つめて、
「それじゃあ、うちに上がってくれるかな。」
そう言って、ボケじいは家の扉を開けた。この先に待っているものがなんなのかもわからないまま、僕らはその扉へと進んだ。




