駅員さん
少年がこの町に戻ってきたのは、少年が中学二年生になったときじゃった。少年を養子に迎えてくれた家族が転勤でこの町に来たからじゃった。
少年は施設に挨拶に行き、そして駅にも行った。」
ボケじいが、少年の話をはじめ、ゆみちゃんが
「施設に挨拶に行ったのはわかるけど、なんで駅にも行ったの?」
「少年が駅で寝てしまった時に連れ帰ってくれた駅員さんが、まだいるかなと思ったんじゃろうな。
お世話になったからお礼を言いに行ったんじゃな。」
「駅員さんはいたの?」
裕太くんが聞き、慎二くんが
「でも、転勤してるんじゃない。同じとこにずっといるのかな?」
「それじゃな、転勤する人もいたが、その人はこの町の駅でずっと働いていたんじゃ。少年が彼にお礼を言うと、駅員さんも少年にお礼を行ったのじゃ。」
「どうしてですか?」
慎が聞き、力が
「わざわざお礼を言いに来ると思ってなかったからだろ?」
「まぁ、それもあったが、少年との出会いがあったから、駅員さんは人生で一番大切な人に出会えたからじゃよ。」
「どういうこと?」
ゆみちゃんが聞き、ボケじいが優しく笑いながら
「施設で働いていた女性と結婚したんじゃよ。」
「つまり、少年を施設に送り届けてたことで、女性と出会って、そこから結婚したんですね?」
僕が聞くとボケじいは頷いた。ゆみちゃんが、
「じゃあ、その男の子は恋のキューピッドだったんだ。」
「そうじゃな。結婚を機に彼女は仕事を辞めていたが、少年と仲良くしていたので、駅員さんの家にご飯を食べに行くこともあったのじゃ。」
ボケじいは、何かをためらうかのように少し沈黙し、
「少年が大学生になる頃、駅員さんはこの町を変えるために、市長選挙に出た。」
「何で?」
慎二くんが聞き、ボケじいが
「孤児院には、様々な事情がある子ども達が集まっていたが、それを理解せず、なくせという人が増えたからじゃ。
行き場のない子ども達が身を寄せあって、貧しい中でも幸せに暮らしていたのに、なにも知らない人の勝手な意見でなくそうとすることに反対したからじゃ。
幸い彼には、応援してくれる人が多かったし、彼の意見に賛同してくれる人も多かったから選挙自体は問題なく当選した。」
僕は図書館についての話も同じだと思ったし、その駅員さんが今のお父さんの立場なのかとも思った。力が
「じゃあ、その駅員さんのおかげで、俺らはあの施設で育てて、それで、海や慎とも会えたんだな。」
「確かにそうだね。」
慎が言うと、裕太くんが
「お兄ちゃん達も孤児院で暮らしてたの?」
慎が
「そうだよ。海以外二人ともあそこで育ったんだ。」
「まぁ、なくなるってなった時は悲しかったな。」
力も言い、
「住んでいたところを離れるのは寂しいし、悲しいものじゃな。
海くんの学校の先生もきっと同じ考えかも知れないの。」
ボケじいがそう言って笑うと、慎が力に向かって
「ボケじいもこう言ってるよ。」
「慎、お前以外に根に持つよな。」
力が笑いながら言うと、この話がわからない子ども達は不思議そうに2人を見ていた。
「僕の学校の先生が宿題を出した意味はなんなのかって話をしてた時に、慎がボケじいと同じようなことを言って、力がそんなこと思うの慎だけだって言ったんだよ。」
僕が説明すると3人は納得したみたいで、
「先生も色々と考えてるんだね」とゆみちゃんが言い、
「そうだね。」と裕太くんと慎二くんが言った。
「さて、今日はここまでにしようかな。」
ボケじいが言い、ゆみちゃん達は挨拶をして走り去っていった。
僕達もボケじいに挨拶をして3人で公園に向かって歩いた。
ボケじいは、3人の後ろ姿を見ながら、
「彼らには、もうわかってしまうかもしれないの・・・」
とひとりつぶやき、空を見上げた。目に写るのはきれいな青空と雲に飲み込まれていく太陽だった。




