「宿題」
学校内でも僕に話しかけてくる人はいない。
家から少し離れた学校の為、地元の友達もいない。
入学してから友達作りもせず、部活もしていなかったし、何より学校にあまり来ないのに試験の成績が上の下くらいを取っている事が他の人からしたら気に入らないのだろう。
主なサボり方は駅まで行き、時間を潰して帰るそんな感じの繰り返しだが先公がバラさない限り親にバレる事もなかったが、2年の冬の三者面談で一度バレたが、結局、親の気にすることは「どのように生活しているか」ではなく「どこの大学なら行けるか」ということだった為、試験の成績が良いため特に怒られることもなかった。
昼休みも終わり5限の授業の時に問題が起きた。
授業は現社 先公の一言で僕の人生はまた1段としずむことになる。
「夏休み宿題出しまーす」
明るい声で楽しげに言った先公は次の瞬間3分の1に縮むぐらいのブーイングを生徒から受けた。
「受験勉強しなくちゃいけないんだよ」
「めんどくさーい」など高3の生徒の正当な文句が教室を埋め尽くした。
しかし先公は開き直り、
「2学期それやったら、私の授業全部受験勉強の時間にしてやるから頑張れよ。でもやってこなかったら欠点つけるからな。」
「マジで!じゃあいいかも」
「そうだな」単純な奴らだなと思ったが、あのブーイングから開き直ったところに少し尊敬したが次の一言で僕の体中の血が凍る。
「まぁ、お父さんとかおじいさんに地元の昔話を聞いてまとめるだけだから難しいものではないだろう。」
うちは祖父母が早世しているし、母は遠い所から嫁いできているし、父と話すくらいなら欠点を取った方がいい。
こんなことを考えているうちに5限が終わり、6限が終わり帰路に着く。
電車に揺られながら僕はどうすればいいのか分からずにいた。近所の人に聞けばいいと思ったがある事件のせいでうちの家族は市内でも浮いた存在となっているから無理だなと考えて目を閉じた。
「この町に昔3人の強いお侍さんが居ったそうじゃ。3人は最初仲が悪く会うたびにケンカをしていたそうな。しかし1人の小さな子どもと出会い3人はその子を中心に仲良くなったのじゃ」
誰かがこの町に伝わる昔話をしている。誰だか見ようとするが見えるのは子供の背中や後頭部ばかりでその人が見えない。
「・・・じゃあ、今日はここまでじゃな。この続きが聞きたい子はまた明日おいで。」
話が終わった「また明日おいで」この言葉が僕は大好きだった。
「・・・駅です。次は~駅です、お降りの方はお忘れ物のございませんように・・」僕は目をあけ、いつの間にか寝てしまったことに気づき、降りる駅の少し前に起きたことに奇跡を感じた。
「また明日おいで」僕の頭にふっと浮かんだ言葉が5限からずっと悩んでいたことに答えをくれた。
電車の扉の前に立ち、明日が土曜日であることをうれしく思い明日の予定を決めて歩き出した。
ボケじいに会いに行こう。