再会(2)
ボケじいの家を出たところで、力が何かを決意したように「よし」と言ってから、
「海、この後のなんか予定あるか?」
「別に、図書館に行って勉強するくらいだけど?」
「お前、すごいな。じゃあ、一緒に来てくれないか。」
「どこに?」
「すぐそこの公園だよ。」
「あの公園?」
「ああ、あの公園だ。」
「わかったけど、誰との約束?僕も一緒にいていいの?」
「お前の知ってるやつだし、一緒でいいかはわからないけど・・・、とにかく来てくれ。」
力の必死さに負けてそれ以上聞かず、一緒に公園に向かって歩き出した。道中、無言のまま公園までたどり着くと、木製の古いベンチに誰か座っている。
そう言えば昨日も同じ場所に座っていた後姿だと思い、力を見ると、力もベンチの人を見つけたのか、
「もう、来てたのか。少し早いな。」
そう言ってベンチに近づいて行った。僕もそれに続く。
「よう、早いな。」
力が声をかけると、座っていた人が振りかえる。僕と同じくらいの少年、物静かそうな落ち着いた感じの顔立ち、僕が思い描いたままの成長を遂げている慎がそこにいた。慎も僕を見て驚いているようで、力に向かって
「何で、海がいるんだよ。」
少し、語気の強さを感じ、慎が怒っていると感じた僕は、
「ごめん、僕は邪魔だよね、帰るよ。」
そう言ってベンチから離れようとすると、力が僕の腕をつかみ、
「いいから、そこにいろ」
力は僕を見ずに慎のことをじっと見つめながら、
「海には、誰と会うか伝えずに一緒に来てもらった。俺があの時、馬鹿な勘違いさえしなければ、きっとお前らはもっと早く会えてたし、海も慎ももっと楽しく暮らせてた。」
「何言ってるんだよ。別に力は何も悪くないよ。全部僕が悪かったんだから」
僕がそう言うと、慎が
「違うよ、あの時は誰が悪いとかじゃなかったし、あの場にいた全員が子どもで、わかってなかっただけだったんだよ。」
「でも、僕のお父さんのせいで・・・」
続きを言う前に、慎が
「それも違うよ。海は自分のせいって言うし、原因が海のお父さんだと思ってるけど、海のお父さんは僕ら施設の子どものために一生懸命に色々してくれたし、それが海に頼まれてだったことも今ならわかるんだ。
だから、今、海がお父さんと仲良くできてないのも、僕や力のせいなんだよ。」
「それは・・・」
僕が言いかけたところで、また力が僕の言葉を遮った。
「海のおじさんは、施設を残すために資金の援助とか色々してくれたけど、それをわかってなかった俺らは、何もできなかったって責めちゃったし、海にも八つ当たりしたし、本当にごめん。」
力はそう言って頭を下げた。
「や、やめてよ。何もできなかったのは事実なんだから。」
僕が言うと、力は頭を下げ続けていて、慎が
「あの時、施設に援助とかしたから、海のお父さんは今大変なことになってるんだよ。
お母さんが言ってたけど、あれまでは市民から慕われる市長だったのに、あの件以降、批判が集中するようになったらしいよ。」
「お母さん?」
僕が聞くと、力が
「慎は、本当のお母さんと今住んでるんだよ。施設に迎えに来てもらえてさ。」
「そうなんだ。でも、何で批判されるようになったかわかる?」
僕が聞くと、慎は首を横にふり、
「お母さんも、この町を離れてる時のことだったから詳しくはわからないって言ってた。」
「そうなんだよな。何で人助けして文句言われなきゃいけないんだよって感じだよ。」
力が少し怒っているような口調で言った。
「ところで、力は何に悩んでたの?」
僕が聞くと、力は何かを思い出したように、
「慎、お前がさっき海に言ったように、海のおじさんが悪いんじゃないように、慎のおばちゃんも悪くないんだよ。」
僕は話についていけずに二人を交互に見ていると、力が
「慎は今、自分の部屋に引きこもっててさ、俺と会うときぐらいしか部屋からでないんだよ。
お母さんに一回捨てられたってことで、なかなかお母さんとうまくいってないのが原因みたいなんだよ。」
力が教えてくれると、慎は
「確かに、迎えに来てくれた時は嬉しかったけど、その後、どう接していいかわからないし、そんなこと考えてたら顔をあわせるのが怖くなっているんだよ。」
「そこまで、わかってるなら素直にそう言って、話し合えばいいだろ。俺は完全に捨てられたけど、慎は迎えに来てもらって一緒に住んでるんだから。」
力の言葉は少し、寂しさがにじんでいるように聞こえた。
「ごめん。」
慎が、力に向かって謝るが、力は笑顔で
「俺はいいんだよ。本当の親より尊敬できる親父に出会ったし、職場の兄貴達もいい人ばっかだしな。
毎日のように親父と喧嘩して、ぶつかり合ってるから、親父が俺のことを本気で考えてくれてるのもわかる。だから、慎からぶつかりに行けよ。おばちゃんは一回そうゆうことをしてるから、罪悪感で自分からは慎に、ぶつかれないんだからさ。」
「力に言われなくても、わかってるよ‼」
慎が大きな声を出した。僕は急なことに驚いたが、力は動じずに、真っ直ぐ慎を見て、
「俺は、本当の親に真っ正面から、お前はいらないって言われたよ。
あの時ほど人を殺したいと思ったことはなかったよ。
でも、そうしなかったのは俺より先に飛び出してくれた馬鹿な人のおかげだよ。
俺はまだまだ未熟で、あの人に認められてないけど、それでもいつかは、いつかはって前見て歩いてるよ。
慎、お前はどうする気だよ。過去のことを見続けて、ずっと後ろ見て歩く気なのか?俺に言われたくないってお前言ったけど、俺は前に進んで、お前はずっと同じとこにいて、どっちがいいかは、言わなくてもお前ならわかるだろ。」
慎は黙って下を向き、うなだれている。力は僕の方を見て、
「海もそうだよ。俺らのことがあって、まだ止まってるんじゃないかと思うんだ。原因である俺が言うのもなんだけと、もっと前見て歩いてほしい。
今日、二人を会わせようと思ったのも、仕事の休憩時間に抜け出して、短い時間で説得続けるより、いいと思ったからなんだ。」
力はかなり迷っていたのか最後の方は次第に声が小さくなった。
僕は、まささんが力を追いかけていた理由を思いだした。確かに休憩が長いと言っていた。その理由が慎に会っていたからだったとは予想もしていなかった。
「海に会ったから、僕が変わるとは限らないだろ。」
「悪かったな。俺はお前らみたいに頭よくないから思いついたことしかできないんだよ。」
力は笑顔で言った。慎も諦めたように笑い、
「昔からそうだったよ。そうだよね、海?」
「そうだね、力は変わってないよ」
「馬鹿言うなよ。お前らより身長が高くなっただろ?」
「いや、力はあの頃から誰より大きかったよ。」
僕が笑いながら言うと、慎も
「全く話を聞いてないよね。内面の話してるのに見た目の話するとことか。」
「まぁ、俺は俺だからな。」
その後3人で久しぶりに笑った。
「この町に戻ってきたのは、2年前かな。海に会いに行くのも考えたけど、どんな顔で会えばいいかわからなくて。」
3人でご飯を食べることにして、ファミレスに入って席につくと、慎が言った。力は笑いながら、
「慎は考えすぎなんだよ。もっと楽に考えればいいのにさ。」
「この前、力と再会した時も、最初にあったときの再現だったよね?」
僕が言うと、力は慌てて、
「海、それは・・・」
「もう遅いよ。力も色々考えてるじゃないか。」
恥ずかしそうな力を見て、僕と慎は笑った。
それからはお互いにあったことなどを話して、とても楽しい時間だった。帰り道で力が
「太一は今どこでどんな暮らししてるのかな~。」
「会いたいな」僕が言うと慎が
「3人そろっただけで奇跡なのに、太一とも再会するなんてあり得ないよ。」
「そうだよね・・・」僕が言う、
「わかんないだろ、二度あることは三度あるんだぞ」
力が言う。確かにそうかもしれない。この3人が揃うことなんて、もう夢の中だけだと思っていたからだ。
「明日・・・」
僕が言いかけてやめると、慎が
「なに?」
「いや、いいよ。僕が言うが、力が
「明日の朝、8時にボケじいのところに昔話を聞きに行く。慎も一緒にどうか?だろ。」
力が代わりに言ってくれた。
「ボケじいの話を今も聞きに行ってるの?」
慎が聞き、僕は宿題の話をして
「小学校の宿題みたいだね。」
慎がそう言うと、横で力がニヤニヤとしながら、
「みんなそう思うんだよ。」
と言った。慎は力の言った意味がわかったのかしまったという顔をして、
「まぁ、大学に進んだり、就職すれば地元を離れる人もいるから、地元を知っておくことも、必要かもしれないね」
「そうか、そうだね。ただの面倒な宿題だと思ってたけど、先生はそういうことも考えてたのかな。」
「いや、そんな深いこと考えるの慎だけだって。きっと何か宿題出さないといけないから適当に出しただけだろ。」
力の自分の意見を曲げたがらないのは相変わらずだなと思いながら、慎を見ると、慎も同じことを思ったのか僕の方を見ていた。
その様子を見て、力が聞く。
「どうしたんだよ?」
「別に、ねっ海。」
僕は笑いながら「そうだよ、何もない。」と言った。
不満そうな力だったが笑顔になって、
「まあ、いいか。」
その後もくだらない話を続け、最後に力が慎に向かって
「明日8時だからな、絶対来いよ。」
「わかったよ。力も寝坊してこないとかしたら絶交だからね」
「大丈夫、大丈夫。」
力のその言葉が少し自分に言い聞かせるような雰囲気があり、僕と慎は心配になったが、口には出さずに別れた。




