図書館
図書館で勉強をし、昼になったのでコンビニにでも行こうと外に出ると、スーツ姿の人や作業着を着た人が図面を見ながら話していた。
その中に父の姿が見えたので立ち去ろうとすると、
「海、待ちなさい。」
と父の声がしたので振り返ると、父は周囲の人たちに、
「お昼になりましたし、皆さん昼食をとってきてください。私は少し息子と話がありますので、そうですね、一時に再開ということにしましょうか。」
「そうですね、長丁場が予想されますし、少し落ち着くのにもいいかもしれませんね。それでは、一時にここで」
そう言って、周囲の人達はばらけていった。
「何か用ですか?」僕が聞くと、
二人きりになったのでいつものようなこわばった表情をしながら父が、
「とりあえず、あそこのベンチまで行こうか」と言って歩き出した。
仕方なくついて行き、二人で並んで座ると父が、
「図書館の建物が古くなってきたので、建て替える計画があってな。今日はその視察できていたんだ。」
聞いてもいないのに仕事の話をいきなりしだしたので、普段はそんなことありえないことで驚きを隠せずに父の顔をみると、
「この図書館は、父さんが生まれるよりもずっと昔からあって、子供の頃よく、一人で本を読みに来ていた。小学校の四年生になる前に転校でこの町を離れてしまったが、それまでは毎日のようにここで本を読んでいたよ。」
「友達と遊んだりはしなかったんですか?」僕が聞くと父は、
「昔から、性格がひねくれていたからな、友達と言える人はいなかったかもしれない。」
「すみません。」
僕が何か聞いてはいけないことを聞いてしまった気がしてつい謝ってしまった。
「謝ることはないし、勘違いしないでほしいが遊びまわる友達はいなかったかもしれんが、友達だと思っていた人はいたよ。」
「どんな人ですか?」
会話が途切れると気まずくなるのでとりあえず何でもいいから会話しようと僕は質問をすることにした。
「年は私より、20近く離れていたよ。ませたガキだったから同年代には友達ができなかった。まぁ、今も昔も、その人以上に私の理解者はいなかったといえるだろう。」
懐かしそうに空をみあげている父の横顔が今まで見たこともなかったのではないかというほど穏やかに見えたが、一瞬で真顔になり、
「古くなったから建て替えればいいとか、利用者が少ないからなくてもいいという者までいる。
そういうことを言う奴は、きっと子供のころに図書館を使ってこなかった奴なんだろうと思う。
無駄だからやめますというのは簡単で、楽だが、それは、だれにとって無駄で、だれが楽なのかという話が前提となってくると私は思う。利用者が一人でもいるなら、なくすことを優先的に議論するのではなく、どうしたら利用者が増えるのかを議論すべきだ。利用者の多くは仕事を退職した人や子育て世代の母親で、一日中役所にこもって仕事をしている役人ではないのに自分たちの楽な手段を取ろうとする者が多いことにあきれている。」
父の話は当然のことであるように思えるが、今まで僕の持っていた父の政治家像とは大きくかけ離れているようで何も言えず、黙って父の話を聞き続けていた。
「私の子供のころは、テレビやゲーム等が充実していなかったので、子供は外で遊んだり、図書館で本を読んだりしていた。40年近く経って、社会は変わり、図書館で本を読んでいた子供がおじさんやおじいさんになり、子育てをしていた母親がおばあちゃんになり、今度は孫に本を読み聞かせ、本を読み聞いた娘が自分の子供たちに本を読む。全ての利用者には、何かしら図書館という所に思い出があり、自分の楽しかった思い出を後世に残していきたいと思うものではないかと私は思う。海、図書館利用者としてのお前の意見が聞きたい。」
そんなこといきなり言われても・・・・と思ったが、
「僕も一人で本を読みに来たことはあるし、友達と来てた思い出もあるから、なくなるのは寂しいと思うし、使いもしない人たちの意見で無駄だと決めて欲しくはないかなとは思います。」
「この図書館も昔はこんなに古くなかった。みんなが集まる憩いの場だった。
この辺には、家が建ち始めて、いろんな家族が住み始めて、活気づいていたし、近くに公園があるだろう?あれも40年位前に市民が増えて、憩いの場を増やそうと作られたものだった。
公園の中央付近に古い木製のベンチがあるだろ。あれは公園ができたころからあって、私は本を読むのに疲れたらあそこで休憩して、また、本を読むみたいなことを夏休みはよくしていた。」
僕も同じことを同じ場所でしているっと思ったが、さすがに恥ずかしくて言い出すことはできなかった。
「さて、そろそろ、私も行かなくてはな。」と言って、父は立ち上がった。
「あっ。」
「どうした?」
思わず声が出てしまったが何か言わないといけない気がして、
「なんで、そんな話を僕にしたんですか?」と聞いた。
「私の理解者は多くないし、私の話を聞いてくれる人も最近は減ってしまったからな。誰かに話を聞いてほしかったのかもしれない。」
そう言って、父は仕事に戻っていった。その後ろ姿はとても寂しそうに見えた。




