職業選択の自由とは
一話だけ。
酒場…冒険者ギルドの入り口に備え付けられた解放感あふれるスイングドアを開け、俺とイツキは建物の中に足を踏み入れた。外にいても聞こえていた音楽と、いかにも体格のよいであろう方々の笑い声がより一層大きく聞こえ、その活気に少々及び腰になる。
「たぶんあの奥にいるNPCだな。正にギルドマスターって風格じゃないか。」
大音量の喧騒に、いつもより多少声を張ってイツキが俺に話しかける。俺はイツキが話す内容を聞き漏らさぬようにイツキに近づき、イツキの指差す方向へ視線を向けた。その先にいる人物、おそらくイツキの言うように威厳たっぷりな顎髭に老体とは思えない程の筋肉質な体格、その顔にある無数の傷跡はちょっとした恐怖心さえ芽生えるほどであった。そして、彼の頭上には、最早ここが現実だと思える程の世界に、激しく違和感を覚えるクエスチョンマークが浮かんでいた。
「頭の上にアイコンが出てるし、きっとうそうなんだろうなー。」
俺とイツキはお互いに顔を見合わせ、ギルドマスターの元へと歩みを進めた。俺たちが奥へ進むにつれ、不思議と喧騒が小さくなっていくのはそういう仕様なのか否か…。心なしか視線が集まるようでどうにも居心地が悪い思いだ。
「何だお前たちは。儂に何か用か?」
入り口から一直線に向かってくる二人組に気づいたのであろうギルドマスターは、こちらを見定めるようにギョロリと睨み、威圧的に問いかける。それと同時にクエスト開始を告げるシステムメッセージが出現した。
≪冒険者登録試験≫
冒険者となるべくこの世界に降り立った貴方は、冒険者ギルドに辿り着き冒険者としてギルドマスターから承認を受けなければなりません。これより、冒険者登録試験を開始します。
システムメッセージに表示された内容を目で追い、内容を頭の中で復唱し、イツキの様子を伺うとイツキも同様のメッセージが表示されているであろう空間へ目を向け、なにやら思案顔をしていた。
試験…ねぇ…。などと考えている内に、俺の斜め前に立っていたイツキの全身が光に包まれ、その光と共に少しの痕跡も残さず消えてしまった。
「ええっ!?」
突然の事態に困惑していたが、どうやらこれはクエストの一環であるようで、今度は俺自身も光に包まれ、例の如く視界が真っ白になっていった。
「さて、それでは冒険者としての適正を判断する試験を始めよう。」
光が消え、目を開けると先ほどの酒場ではなくどこかの一室、おそらくギルド内にある部屋の中にいた。しかしここに居るのはギルドマスターであり、厳つい容姿の老人と俺、つまりイツキは別の場所へと移動しているのであろう。
「なに、試験とは言っても適性を判断する簡単な試験だけじゃ。身構えずとも良い。」
先ほどまでの威圧感が嘘のようになくなり、こちらを見つめるその顔には面倒見のよい、どこぞの親方のような雰囲気さえ感じる佇まいに、狐か狸にでも化かされた様な感覚を覚えた。
「冒険者には様々な職業があることは知っておるな?そしてその職業というのはそれぞれ得手、不得手というものがある。その足りない部分を補い、長けているものを伸ばしていくのが仲間であり、友じゃ。まあその辺はおいおい自分自身で体験していくじゃろう。そうじゃな…お前さんに向いていそうな職業は」
俺はギルドマスターの話す内容をただ黙って聞き、この後自分にどんな職業を提示されるのか期待と不安の入り交ざった気持ちでその答えを待っていた。後でわかった事ではあるが、この職業紹介はあくまで紹介であり、どのような職を選ぶかは当然プレイヤー次第なのだそうだ。一部例外があるようだが。
「あー…。お前さんはちと特殊な才能を有しておるようじゃな。それであればお前さんに示すことができる職業はこれじゃ。」




