キャラメイキング
予めリンクギアにセットしておいたアラーム機能、その単調な電子音が、今か今かと待ちわびていた時刻を告げた。
アラームを解除した俺は一度大きく息を吸い込み、肺に溜まった空気をゆっくり吐き出してから、音声認識プログラムを使い、公式サービスをスタートさせたはずのソフトを起動する。
「Eternal Fantasia Online起動、リンク開始。」
≪音声認識確認しました。該当アプリケーションの起動を開始します。≫
起動ワードを唱えると、頭部を覆うように装着されたリンクギアの側面、両の耳辺りに備え付けられたスピーカーから、音声によるアナウンスが流れ、キイインと、飛行機の滑空音にも似た耳鳴りのような感覚が生じ、同時に体全体の感覚が消え視界が真っ白に染められていく。
「ようこそEternal Fantasia Onlineへ。私はキャラメイクサポート担当のリラです。これよりプレイヤー様の分身体となるキャラクターの作成を始めます。ご準備はよろしいですか?」
白光に支配された空間のどこかで澄んだ声、人のものに限りなく近いが、ノイズの様な違和感の混ざる作り物のような声が聞こえる。ゆっくりと、視界を覆っていた真っ白な光が消え、視界が開けていく。
そこは何もない真っ暗な、それでいて視界は鮮明な空間が広がり、宇宙をイメージして作られたであろうと思われる空間には、大小様々な光を放つ星が辺り一面に散りばめられていた。
そして、俺の真正面には、自身をキャラメイクサポート担当と名乗ったNPC、つまりは人工知能が操る一人のキャラクターが、ただこちらをじっと見つめている。
「あっ、えーっと……準備はよろし、大丈夫です。」
準備はよろしいです。と言いかけ、慌てて言い直すがそれでも妙な言い回しになってしまった。目の前に存在するのは人間ではなくら予め行動をインプットされた人工知能だというのに、なぜか妙な気恥ずかしさを感じる。無意識に頬を掻こうとして、自分の体に生じたある変化に気づいた。
「うわっ!体が透けてる……。」
現実の世界では、到底ありえない状態の右手がそこに有った。
半透明な膜で形成されているように透けていて、その輪郭すら不鮮明で朧気な右手を握っては広げ、上へ下へと動かしてみる。
「現在の状態はキャラメイクが完了しておりませんので、体を構成する情報がなく半透明な体となっております。これよりメイキングを開始しますので、まずはキャラクター名を教えてください。」
リラは物珍し気に自分の体を動かす俺を見て、一瞬小さく微笑えんだように見えた。
しかしもう一度目を向けると、先程までと同じ、無機質な表情のまま、空中で両手の指先で何かを操作するように動かし、こちらの返答を待っている。
「そうだなー、名前はハルで。」
安直ではあるが、キャラクターネームを自分の本名《瀬野 春》からそのまま取って、カタカナでハルと名付けることにした。
まぁ、ハルなんて名前珍しくもないし、大丈夫だろうと高を括っている訳だ。
「了解しました。キャラクターネームは《ハル》で登録します。次に種族を設定してください。」
このゲームには、人間以外にも様々な種族があり、選んだ種族によっても若干パラメータの差があるらしい。その辺はあまり詳しく知らないので、自分の好みで問題ないだろう。
リラの横に表示された、薄青色のウィンドウには選ぶことのできる種族がリストアップされており、詳細も記されている。
「人族、エルフ族、ドワーフ族、小人族に、獣人族か。」
現在実装されている種族としてはこの五種類に分類されている。ゲームの世界なんだから獣族とか、エルフなんてのもいいけど、キャラメイクが大変そうだな……。
「じゃあ、人族でお願いします。」
「了解しました。種族は《人族》で登録します。人族の体格はベースの情報として、現実世界の情報を基に構成されます。多少のメイキングは可能ですが、大きく変更することはできませんのでご注意ください。」
この辺は公式情報にあった通りだ。どうやら大きく変更すると現実世界とこちらで認識に不具合が生じ、キャラクターの動きに違和感を感じてしまうらしい。
高身長キャラだとか、ムキムキなマッスルボディだとかといった極端な変更は行えないように調整されていると書いてあった。他の種族は設定云々の兼ね合いがどうこうと、とにかく難しい事はよくわからないがそういうものなんだろう。




