これは、ただのゲーム
本日の投稿です。
今度は大丈夫、動ける! やれる!!
そう自分に言い聞かせ、相手が見せる一瞬の隙を見つけるため、全神経を目の前の相手に集中させると、ドクンドクンと心音が外に漏れだしたかのように聞こえ、締め付けられるような痛みを感じる。大きく息を吐き、相手の動きを一瞬たりとも見逃さぬよう、一歩、また一歩と慎重に距離を縮めていく。
「ガアアアアアアッ!!!!!」
追い詰められ、恐怖に負けた野犬は自らを奮い立たせるように唸り、地を蹴った。この勝負に打ち勝つため、大きく開け放った両の顎に生える鋭利な牙、その強靭な咬合力で相手の喉を食い破る。己の持つ最大の武器で、相対する俺を打ち倒さんとする。
ここで組み付かれれば小型のモンスターとは言え、引き倒された挙句に、その鋭い牙で喉を潰されるであろう。そうなれば、後は全身をズタズタに食い破られる未来しかない。ここで焦ったら負ける! まだ……まだだ!!
「うおおおおおおおっ!!」
相手の動きに合わせ、やや前方に出した左足に力を込め、体全体を前へと押し出す。それと同時に、左手に握った盾を身体と野犬の間に構え、その顔面へ全体重を乗せて打ち付けた。
カウンター気味に放たれた一撃は、ガアンッ! と鈍い衝突音と共に、野犬の突進力と相まってその身体を突き抜ける、大きな衝撃となり、激突の反動で野犬は地面に叩きつけられ、その場に倒れこむ。
「今だ!とどめを刺せっ!やれっ!!」
アンジーは、俺と野犬が対峙している間に自分の担当する野犬を倒し、こちらの様子を伺っていたようだ。そしてこの絶好のチャンスを逃す手はないと指示を飛ばす。その指示が先か、動くのが先か、既に俺は倒れこんだ野犬に向かって走り出していた。
「これでっ!終わりだあああっ!!」
全力で間合いを詰め、まだ起き上がれず横たわる野犬へ向かって大きく跳躍する。そして逆手へ持ち替えた剣に、己の体重乗せて深々と突き刺した。
「ギャアアアアアアアアン!!!!!」
ブツッ! と何か弾ける感触、そして、ズブリと柔らかく、それでいて何か筋張った肉質に食い込むような、嫌な感触が剣を握る右手へと伝わり、最後に硬い地面の感触に変わった後、剣は止まった。
熱を持たない無機質な金属が、己の皮膚を食い破り、肉を深く抉る強烈な痛みに大きく仰け反り、その血走った眼は恐怖と激しい憎悪に見開かれ、断末魔と共にその命の鼓動を停止させ、ゆっくりと地面へと倒れていった。
握ったままだった剣を放し、鉛のように重たくなったその身を骸から引き剥がし、目の前に横たわるリアルな死を、今はもう光を灯さなくなった暗い瞳を、ただ呆然と見つめていた。
これが、ゲーム……。
初めての戦闘で、勝利した達成感と、目の前に横たわる骸への恐怖心が入混ざり、不思議な感覚のまま立ち尽くしていると、命の灯を散らした骸が光を放ち、天へと消えていく。
初めからそこに生命は存在していなかったかのように、そこには何も残らない。
そこにはただ、墓標のように十字を作る、1本の粗悪な剣が地面へと突き刺さっていた。




