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人と熊、襲われる

2本目行きます。

 アンジーの発した声が開始の合図となったのか、単なる偶然だったのか、それと同時に二体の野犬は一気に草原を抜け、その強靭な脚力を持って間合いを詰める。あまりにも精巧に作られた動きは最早現実と言われても疑う余地もなく、そのリアルな敵意に晒され一瞬判断力を失い、身が固まってしまった。

 そして、その一瞬の隙を狙いすましたように、その二体はアンジーを周りこむ形で、後方に位置する俺に迫っていた。


「あっ…。」

 何とも情けのない小さな悲鳴をあげ、俺は左右から迫る獣にどう対処していいのかわからず、ただ茫然としていた。しかし相手にとっては絶好のチャンスであり、見逃してくれるような相手ではない。あっという間に間合いを詰め、片方の野犬が地を蹴り、情けなく剣を握る右手を食いちぎらんとし、弾丸のような速度で飛び掛かる。


「うおらあああああああっ!」

 右側から迫っていた脅威に対し、怒号と共に何かが振り下ろされ、空中で回避の取れない野犬は側面からその一撃を食らい、激しくその身を地面に打ち付け横たわる。


 アンジーは周りこまれた瞬間に相手の動きを読み、まさに絶好のタイミングで手斧を振りかぶったのだ。そしてそれは見事に直撃し、俺はひと先ずの危機を脱した。しかし、逆側にはまだ無傷の、こちらの隙を狙う野犬が間合いを図っている。


「大丈夫か!?冷静に対処すれば大丈夫だ。相手は素早い野犬とはいえ、攻撃は直線的だ。特に飛びかかってくる最中は奴らも回避ができない。そこを狙うんだ!!」

 一方の野犬をけん制しつつ、今まさにダウンから起き上ろうとする、もう一方への警戒を怠らず対峙するアンジー。その隙のない動き、流石は現実世界で訓練を積んだ者である。


「ごめん!ちょっとビビった!」

 少しだけ虚勢を張りつつ、アンジーにこちらの無事を伝え、俺は残された方の野犬を正面に見据え、盾を構えた。右手に握った剣を下ろし、じりじりと間合いを詰めていく。


 この野犬たちは、瞬時に判断していた。どちらを攻撃するべきか。いや、どちらがより弱いのか。

  弱肉強食の世において弱者が捕食されその身を強者に捧げるのは自然の摂理だ。当然狩る側においても、確実に倒せると判断できる者を襲う。この場合、俺は野犬にとって弱者と認定されたわけだ。


 しかし、その弱者を仕留めるために仕掛けた奇襲は失敗に終わり、もう一方の野犬と分断され、冷静さを取り戻した俺と対峙する野犬は、次の一手を繰り出せずにいた。先手必勝の切り札を失敗し、冷静さを取り戻した俺の隙が減り、身動きが取れないのだ。

  所詮は獣、人間とは違い高度な心理戦などできるはずもない。一対一、後はもうどちらが強いか、倒されるのはどちらかしかのガチンコ勝負だ。

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