熊型人間
本日の投稿。
自己満足で始めた執筆ですが、少しずつブックマークして頂いている方が増えるのは、中々に嬉しいものですね。本当にありがとうございます。
これからもなるべく毎日投稿できるよう頑張って書いていきますのでよろしくお願いします。
-鳩 三郎-
「人…間…?」
俺は、このゲームの仕様である一つの設定に思い当たった。それは最初のキャラクター作成で決める一つの設定、種族だ。この種族には俺やイツキのように、容姿が現実と変わらない≪人族≫の他に、人族に近いが細部で違いのある≪エルフ族≫、そのエルフ族よりさらに人族に近いが、その全長をかなり縮めた容姿の≪小人族≫、これまた人族に近いが小柄でズングリむっくりな≪ドワーフ族≫などがある。そして最後に、人族とはかなりかけ離れた容姿の種族、≪獣人族≫だ。これに関しては作成段階でどの種族にするか、かなり悩んだのでしっかりと記憶に残っている。
「んん?俺は人間だぞ。あ、いや、この姿だと獣人族ってやつになるが、中の人はちゃんと人間だ。」
目の前に立つ二足歩行の熊は流暢に人の言葉を話し、大きく両手を広げてアピールするが、それはもう熊が獲物に襲い掛からんとする姿にしか見えない。間近にみると更に威圧感が凄い。しかしこの熊は、俺を襲う様子もなく、どうやら友好的なようで、俺の心を支配する恐怖心も徐々に薄らぎ、周囲に目を向ける余裕もできてきていた。冷静になって対面する人物を見れば、それが獣人族の容姿なのだと判断できる。なぜなら熊は常時二足歩行しないし、服も着ない。そして武器を携えることもない。まあ、これは現実世界での話に限るが。
そしてもう一つ、この熊がプレイヤーである決定的な証拠、それが彼の頭上に浮いているアイコンだ。俺をこの地に飛ばしたギルドマスターのようにクエストアイコンでもなく、敵対を示す赤色の逆三角形でもない、この森に茂る草木の様な、緑の逆三角形のそれがプレイヤーを示すアイコンである。ちなみにクエストを与えるNPCではない普通のNPCのアイコンは青色逆三角形なので、この熊がそれらではないことも同時に判別できる。
「はあー…、人間か、死ぬかと思った…。」
フィールドに飛ばされ、即死亡なんていう馬鹿げた不運を回避し、心から安堵のため息を漏らす。多分これが現実で起こった出来事であれば気絶するか、漏らしているであろう。この仮想世界では状態異常としての失神はあるが漏らす事はないので、その心配はないが。
そしてもう一度視線を対峙する熊、もといキャラクターに戻し、彼の言った言葉を思い出し、彼もまたこの地に飛ばされてきた開拓者なのだろうか、それともまた別の職で、街の近くを探索していたのだろうか、などと考えていた。もし後者なのであれば、サービス開始直後という事もあり、この地は町からさして遠くない距離に位置することがわかる。ならば一旦街に戻る事もできるので、イツキとの合流も叶うのだが、どちらであろうか。
「あの、取り乱してすいません。なにせいきなり熊が現れたもので…。俺はハルって言います。貴方は街からこの辺に散策に来られたんですか?」
強張った顔の筋肉をどうにか動かし、一応友好的であるとアピールのための笑顔を作りつつ、今一番気になっている事を確認するため、彼に問いかけることにした。
「俺は、ゲームを始めて職業選択したらこの場所に飛ばされたんだ。ここが何処かなのもわからんし、周りには誰もいなかった。なので、周囲を確認するために少し歩き回っていたんだが、見ての通り周りは森だ。街なんて近くにはなかったよ。完全に孤立だ。ガハハハッ!」
「はあ…。てことは貴方も開拓者に選ばれたって事ですか。」
どうやら予想していた前者のケースのようだ。と言う事は、遭難の状況は変わらないという事であり、この状況を打開するにはより多くの情報が必要となりそうだ。
「ああ、すまん。まだ名乗ってなかったな。俺は≪アンジー=ベア≫って名前だ。アンジーと呼んでくれ。」
アンジー=ベア。その名が示すとおりに彼は熊だ。熊が大好きなのろうか…。まあ、その辺の事は置いておこう。それより今はもっと聞かなければならないこともある。
「えーと、アンジー…さん。」
「さんは要らん。アンジーでいいぞ。」
初対面の人を呼び捨てにするわけにもいかず、さん付けで呼んでみたのだが、どうやら彼はそういった事は気にしていないらしい。まあ現実世界ではないので、堅苦しいのは好まないという人も多いであろう。それに彼の実年齢も知らないし、彼にとってもそれは同じなのである。ここは彼のいう事に従っておこう。
「じゃあアンジー、改めて聞きたいんだけど、あんたは開拓者になってこの地に飛ばされたんだよな?」
「そういう事になるな。そして最初にこの地で出会ったのがお前だ。まさか驚かせることになるとは思わんかったがな!いや、すまんすまん。」
バツの悪そうに後頭部をガシガシ搔きながら、アンジーは俺と焚き木跡を挟んでドッカと腰を下ろす。彼もまた情報を持たずこの地に送られた身であり、この地を開拓する任についた者なのだ。お互いにとっても情報交換は必要と判断したのであろう。




