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カオティックアーツ  作者: 日向 葵
第三章
74/74

72:新し願いを込めて

突然ですが最終回です。ごめんなさい……。

Я(ヤー)、時空系魔法により、武器を摘出します」


 そういったあと、リリーの手元が歪んだ。そこに手を突っ込んで、取り出したのは禍々しい大きな鎌だった。女の子には不釣合いに大きくて、死を呼び寄せそうな大鎌を、リリーは楓に向かって構える。


 リリーの楓を睨むその瞳は、微かな怒りを感じさせるほど力強く、楓は少しうろたえた。

 だけど、あることに気が付く。人工的に作られた魔女。そして既に死んでいるはずのものには絶対にありえないその瞳。もしかすると彼女は生きているのでは……とすら思わせる。

 だけど、淡々と動くその雰囲気は、完全に機械的で、心のない人形そのもの。


 楓に襲いかかるリリーは、焦った表情をしながら、大鎌を振り切る。それをギリギリで避けながら楓は【インフィニティ】による反撃を繰り出す。

 弾はバリアを突き抜けて、リリーを襲うのだが、装備している防具を突き抜けるだけの威力はなく、微かに傷をつけるだけで終わってしまう。


「…………何か変だと思ったけど、なるほどな」


 戦いの中で感じた、リリーの微かな感情。それは紛れもなく人のようで、人形や死人がするものではない。

 人体を強制的に魔女という存在に帰られているため、間違いなく肉体的に死んでいるだろう。

 非人道的な実験でも行わない限り、人を別の存在にすることなど不可能で、だからこそ既に死んでいるとわかったわけだが、一つだけ見落としていた。

 それは、楓の元の世界に実在するある論文に記載さされている、魂についてだ。


 昔、魂は肉体とは別の精神体として言われてきた。だけどそれは違う。とある魔道書により解明したことだが、魂とは情報の集合体だ。精神とは人間の心であり、それを作り出すのは己自身。そして自分という人間を構成する情報全てが魂であり、精神体というものだ。だったらその情報は一体なんなのか。

 それはとても簡単なことで、人間がどうやって生きており、どうやって考えているのかを知っていれば分かること。


 そう、電気である。


 肉体には電気をやり取りする機能が備わった器と考えるべきだ。脳はニューロンという細胞が複雑に絡み合い、一定にしきい値を超えるニューロン同士がシグナルを発報し、つなぎ目に存在するシナプスが微弱な電気の伝達をおこなう、実はとっても単純なものとなっている。

 単純なものなのに、魔道書が見つかるまで脳の全てが解明できなかった理由、それは単純でありながら、それで言って複雑な動きをし、心を作っていく原理がまったくわからないからだ。


 魔道書が見つか前までは、脳の原理こそ分かれど、人の心がどういう形で構成されているのかわからなかった。

 だが、悪魔の原理と人間の心の原理は近いものがあった。

 複雑に絡み合った電気的なやり取りが、外部の新たな刺激を加えることに学習していき、また複雑に絡み合う。


 人それぞれの経験は違っていて、構成されて行く物自体が変化する。

 だから心は人の数だけ存在する。


 さて、リリーの話に戻るのだが、もし、電気的な信号が複雑に絡み合った情報体、つまり魂がリリーの中に残っていたらどうなるのだろうか。

 それはつまり、彼女は肉体的に死んでいても、精神体として生きているということになるのではないのだろうか。


 だとしたら、改造されて、人間としての死を迎えた体と電気的な信号の全てを接続する事で生き返るということに繋がるのではないか、楓はそう考えた。


 なら、やることは決まってくる。


「お前を止めること……それが第一優先事項ってか」


 リリーに放った【インフィニティ】による攻撃は防具により防がれてしまう。だが、防具が絶対に完璧であることはありえない。

 防具で体の全てを守ることは不可能なのだ。そんなことをすれば、防具をつけるだけで身動きができなくなってしまう。だからこそ、狙うべきは、動けるようにするために作られている関節部分。ここを狙えば、絶対に攻撃が通る。

 だけど、それは針に糸を通すようなもの。相当な集中力と精密な射撃の腕が必要になってくる。

 ただの研究者である楓では不可能であったが、このウトピアに来るまでにやってきた経験がそれを可能にさせた。


 数発放った弾は、リリーの防具をすり抜けて、ダメージを与える。

 それにより、膝をついて隙を見せてしまったリリー。そのチャンスを逃すほど、楓は愚かではない。


「一旦眠ってくれ」


「ーーーー!」


 声にならない叫び声をあげるリリーに対して【ハーフ・エナジー・グラトニー・マークⅡ】によりバリアを破壊、それで得たエネルギーを【インパクト・マークⅡ】に受け渡して、吹き飛ばそうとした。

 だけど、それはできなかった。


 突然きた痛み。それにより、楓は崩れ落ちる。血が次第に広がって、視界が真っ暗になっていく。

 一体何が起こったのかわからない。ない力で顔を動かして、何が起こったのかを確認する。

 楓が居た場所の後ろに位置する場所。そこには黒い男が立っていた。


「はは、あはははははは。これがお前の作ったカオティックアーツというものか。なるほど、これはなかなか興味深い。これを作れるお前は一体何者だ?」


「ーーーーっ」


「まぁ、そんな状態じゃ話すことも難しいな。何、こんな素晴らしいものを作ってくれたんだ、安らかな眠りを与えようじゃないか」


 そう言って、黒い男は楓に向かって【インフィニティ】を放った。

 この場で、最後に楓が聞いた声は……クレハの叫び声だった。







******







 楓が目を覚ますと、知らない天井が目に映った。確かに殺さたはずなのに……なぜか生きている。それについて整理がつかず、状況を確認しようとして、痛みが走った。

 夢であって欲しかった。あの地獄絵図。それら全てが夢であったなら。だけど、この痛みが本当に起こったことであると、言っていた。


「およ、目が覚めたか」


「……レヴィア」


「はいはい、レヴィアちゃんだよ~っだ。今はそんな気分じゃないけどさ。とりあえず、なんとか生き延びたな」


「……他のみんなは」


「知らない……あのあと、楓がやられてから状況が変わってさ、黒い男はすぐにいなくなった。状況的にはどうにかできる可能性があったんだ。だけどクレハたちが……」


「取り乱してそれどころじゃなくなったのか」


「ああ、そうだな。それでウトピアはほぼ壊滅。私は最強の悪魔だから殺されることはないけど、他の魔女たちがさ。国は潰れても、人が生きていればまた作り直せる。そう叫んだアクアは、あそこで生きていた連中全てにランダムテレポートを行いやがった」


「じゃあ、みんなは、みんなは生きているのか!」


「それはわからない。私がまだこの世界にいられるってことは、それをつなぎとめているクレハが生きているってことだ。だけどどこに行ってしまったのか、それがわからない」


 それでは再び合うことが難しい、楓はそう思ってしまった。手がかりがない以上、どうしようもない。カオティックアーツも奪われてしまった。楓たちは負けたのだ。


「まぁギリギリで生きていた前が私と一緒の場所に飛ばされたのは幸運だね。私じゃけりゃ死んでたぞ」


「ああ、本当にありがとう」


 そう言いながら、楓は拳を握り締める。悔しくて、悔しくて、どうにかなってしまいそうだった。守りたいものを守れず、助けたい人すら助けられない弱い人間。こんな奴が、人を幸せにできる、いろんな人に役に立つ技術を作れるのか。そう自分を問いただす。

 結果はもちろん無理だ。

 俯いて、黙り込んでしまった楓に、レヴィアは「はぁ」とため息を穿く。

 ここで潰れてしまうには惜しい人間だ、そのぐらい大悪魔のレヴィアは楓のことを気に入っていた。だから、希望の言葉を楓にかける。


「ランダムテレポートの時、アクアが念話で『生き残った者は魔族が住まう暗黒大陸で落ち合おう』とか言っていたな」


「本当か!」


「うわぉ、びっくりした~ 傷口に響くからあまり叫ぶな。あとそれは本当だ。だからさ、さっさと怪我を治して、そこに向かおう。クレハたちにも再び会えるかも知れないしさ」


「ああ、そうだな」


 そう言いながら楓はほろりと涙を流す。まだ全てが終わったわけではない。みんなが再び集結できる希望が見えたから。そして楓は心の奥に、負けた戦いを刻み付ける。もう二度と、助けられない悔しさを味わいたくないから。そして、オルタルクスの危険性を再確認する。あれは……この世界にあってはならない組織だから。

 だからこそ、決意する。再びみんなと出会い、オルタルクスを壊滅させて、迫害されているみんなが幸せに生きられる、そんな世界を目指して。

 そのために、まずは怪我を治そう。

 そして、みんなと出会うんだ。そう想いを込めて、拳を強く握り締めた。

俺達の戦いはまだまだこれからだエンドにしました。


書き始めて間もない頃にいきなり長編に手を出してしまった結果がこれです。

初心者によくある大失敗です。

続きを書くためには、今まで書いたもの全てをプロットに落とし込んで、情報整理し、全てを書き直さないと、色々ぐちゃぐちゃになってしまうと思ったので、このような形にしました。もう既にぐちゃぐちゃなんですが……。

本当にすいません。

ある程度書き慣れて、プロットをちゃんと書いている傭兵や自由気ままはそんな事にならないので、ご心配なく。

これまで読んでいただきありがとうございました。

他の作品もよろしくお願いします。

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