71:人工魔女
燃えるウトピアに唖然とする楓たち。いたるところから悲鳴が聞こえた。戦場となっている中心部に向かって走ると、ガチャガチャと音を鳴らして走る集団と出会う。
「魔女がいたぞ、教えに従い、討伐するぞ!」
リーダーらしい男が声をあげる。その騎士が身にまとう鎧に楓は見覚えがあった。
「まさか……聖騎士?」
「ぼーっとしてるとやられちゃうぜ!」
レヴィアが手を銃のような形にして「バン!」と声をあげる。すると、鎧に大きな穴があき、そこから血が溢れ出す。
それに驚いた聖騎士たちは、楓たちを親の敵でも見るかのような表情になって襲いかかる。
「俺が前線を押さえる。あと剣で戦えるやつは俺……っていないよな。しかたない。俺が全部抑えてやるから、みんなは魔法で援護してくれ」
そう言って、ブラスは剣を持って駆け出した。元聖騎士であるブラスも、数の暴力には手出しできない。それでも抑えるといって駆け出してくれたのだ。それに答えないものは、ここにはいない。
「ブラス、ちょっと大きめの防御魔法を使うから。少しだけ耐えて」
「おう、なるべく早く頼む、クレハ」
ブラスはそう言って敵と切り合う。楓は【インフィニティ・マークⅤ】で、ティオは【ガーンデーヴァ】を構えて、ブラスに近づく敵を討つ。
後ろからも敵はやってくる。それはアクアとヴィヴィの水と雷の魔法によって蹴散らしていく。だが、倒しても倒してもキリがない。
それに、長距離攻撃をもっているのは楓たちだけではない。敵は空からも襲ってくる。それを対応しているヴァネッサとフレアは数の多さに苦痛の表情を浮かべる。
そんな中、ひとり暇をしているのがレヴィアだ。最初の一撃以外何もしない。
ただ、まっすくと空を見つめていた。
「レヴィア、あなたも戦ってよ!」
「ほれ、魔法を使うためにもっと集中してよ。それより、ちょっと気になることがあるんだよね~」
そう言いながらまっすぐ見つめるレヴィア。その視線の先に一体何がいるのか気になりながらも、クレハは防御の魔法を唱える。ウトピアに来て、こっそりフレアから教えてもらった閃光魔法。
「閃光よ、大いなる災厄を振り払う守護の聖域を【クレラオ・アミナ・カタフィギオ】」
守護の防壁が展開されていく。クレハの魔法に気が付いたブラスは、敵を吹き飛ばして結界の中に入る。
しかし、このままではジリ貧だ。いつか結界を壊されてなだれ込まれる。そう思った楓は次なる作戦を考えるが、何も思いつかない。
結界の外では激しい攻撃を繰り出している聖騎士たち。だけど一斉に攻撃が止まる。聖騎士たちが横にどいて、まるでモーゼが海を割ったように、道ができて、そこからひとりの男がゆっくりと歩いてくる。
その男はかつてライトワークを壊した聖騎士、ブラスの仲間だった男、ドルフだった。
「久しぶりだな、お前たち」
「隊長……一体どうして」
「どうしてもこうしても決まっているだろう。俺は聖騎士だ。そして復讐者だからさ」
「復讐者?」
ドルフの言葉にブラスの声が詰まる。かつて【オルタルクス】をクソッタレと言いながら戦っていたドルフ。【オルタルクス】に何かをされて、復讐心がそっちに向くならまだしも、恨まれる筋合いはないと思っている。それは楓も同じこと。だけど、楓の頭にはかつてドルフが言っていた言葉がよぎった。
『俺が負けると、家族が、娘が連れて行かれるんだよ【オルタルクス】にな。だから、俺は負けるわけにはいかないんだ!』
戦っているとき、確かにドルフはそう言った。そんな非人道的なこと、普通ならするはずがない。だけど聖騎士の上にいる組織は【オルタルクス】。あの組織ならありえると楓は思っている。
突如、空からレーザーのようなものが降り注ぐ。それはクレハが張った結界を砕くだけの力があった。それを知っていたのか、レヴィアが魔法を使い、守ってくれる。
攻撃が止むと、ドルフの隣にひとりの少女が舞い降りた。
白い純白の服に身を包むクレハと同年代と思われる少女。だけど体のところどころが機械的で、目が死んだ魚のように虚ろだった。
「リリー……」
「Я、my master。ご命令を」
ドルフの前に跪く少女を悲しそうな顔で見つめるドルフ。そんな表情が理解できないのか、無表情で見つめるその姿はまるで人形のようだった。
「お前たちに逃げられて【オルタルクス】にしてやられたさ。それがこの結果だよ。見ろ、俺の娘の姿を」
「む、娘……」
「ああそうだよ。俺は言ったよな。あの任務に失敗したら娘が実験に使われるって。だから必死に戦ったさ。だけど負けは負け、あのクソったれどもが見逃してくれるはずがねぇ。
だけど……まだ希望があるんだよ……
お前らを殺してでも連れ帰れば、リリーをもとに戻してくれるってな」
楓は見ただけでわかった。もうリリーと言われる少女は死んでいることに。どういう原理かわからない。しかしあれはもう人じゃない。何かしらの原動力によって可動するロボットのようなもの。ただ、魔法というものがあるこの世界によって作られたものだから、機械的ではなく、本当に人間に近いものだ。
だけど本当にそれだけ。形だけ真似たただの人形。それがリリーという少女の正体。
「俺は……これに希望を賭けてお前らと戦っているんだよ。絶対に、絶対に殺して捉えてやるからなあぁぁぁぁぁぁ」
ドルフはそう叫んで駆け出した、それが合図になったようで、ほかの聖騎士たちも一斉に駆け出す。だけど、ほかの聖騎士たちは魔法により足止めをくらった。
このウトピアに住まう魔女たち。それを指揮するアクアとウィウィ、ヴァネッサによって。
「あたいらが周りをなんとかする。因縁の相手のようだからな。だけど気をつけろ。あいつは強敵だ」
「うん、ありがとうヴァネッサ」
「本当は手助けしてやりたいんだけど、すまないな。勝ってこい、クレハ!」
ヴァネッサに背中を叩かれて気合を入れたクレハは魔法を唱えようとする。
それを邪魔するかのようにリリーが雷の魔法を放つ。
「ま、魔法を使うのか……っち」
楓は咄嗟にクレハを押し倒す。そのおかげで直撃は免れたものの、体制を崩してしまう。そこにつかさず斬りかかるドルフ。楓がクレハの前に立ちふさがり、盾になろうとする。振りかぶった剣が楓を切り裂こうとしたとき、ブラスが飛び出してドルフの剣を受け止めた。
「リリーは人工的に作られた魔女だ……。目には目を、歯に歯はを、魔女には魔女をだとさ。俺の大事な娘が……絶対に救ってやるっ」
力強いドルフの押しに、ブラスが押されていく。楓とクレハはその間に距離をとって攻撃をした。
魔法と楓のカオティックアーツがドルフに襲いかかる。
剣を振りかぶり、後ろに下がるが、楓たちはすでに次の攻撃を準備していた。さらにティオ、フレアも加わて攻撃を放つ。
ドルフは防御の構えを取るが、それでは無理だ。銃を生身の人間が受け止められないように、楓たちの攻撃もまた強力なものだった。
そのドルフの前に白い影が降ってくる。リリーは前にでてドルフを守るように雷の盾を作った。
その盾がドルフとリリーを攻撃から守る。
「Я、対象ロック、殲滅を開始します」
機械的な少女の声が響き、りりーと名乗る人工魔女は楓たちに襲いかかった。
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