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カオティックアーツ  作者: 日向 葵
第一章
7/74

7:金色の獣

今日は遅れてすいません。

昨日ちょっと忙しかったので遅れて投稿です。

今日もよろしくお願いします。

 「畜生。なんでこんな奴がいるんだよ!」


 ボロボロになった男は走る。

 生きるために必死で走る。

 でも、その望みは叶わない。

 ズドンと会わられた獣に、男は押さえつけられる。


 その獣は金色の瞳、金色の毛並みをしていた。

 そして、怪しげな痣がうっすらと光っている。

 苦しそうな表情の獣。


 「だれか、だれか助けてくれ……」


 ガサガサ。

 茂みが揺れる。

 男は、「もしかしたら助けが…」と思ったが、出てきたものに絶望した。


 茂みから現れたのは、男を襲っている獣と同じ、金色の瞳と毛並みをしている小さな獣。


 「ああ、神よ。私を救ってくれ」


 そんな願いも叶わず、獣によって男は殺された。


 「ガァァァァァァァァァ」


 獣の咆哮が森の中に響く。

 獣は狩った餌を口で加え、子供を引き連れて、森の中に姿を消した。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「ちょっと、楓。こっちも手伝ってよ」

 「今日はお前の当番だろ。俺は新しいカオティックアーツの制作で忙しんだよ」

 「いいじゃない。ちょっとぐらい…」


 初めての討伐依頼を終えた日から、楓とクレハが親しくなった。

 魔女と人間が普通に生活しているのは、この世界でありえないことなのだが、それを全く感じさせない。

 楓が異世界の人間だからというのもあるが、親友と言っていいぐらいに親しい二人を見て、フレアが複雑そうな顔をする。


 「お前たち、一体何があったのよ」

 「別に、何にもないですよ?」

 「楓は、なんで私だけ敬語なのよ」

 「いや、フレアさんだからとしか……」

 「ちょっと、ひどいんじゃない? フレアさんだって仲間でしょ」

 「いや、仲間なんだけど。なんか、友達のお母さんって感じがして、自然と敬語になる」

 「最初はそんなこともなかったような? 時々敬語じゃなかった気がするんだけど?」

 「……ゴホン。クレハと話し始めるのもいいが、私を忘れないでくれ」

 「「ごめんなさい」」

 「それに、楓には一つ言っておきたいことがある」

 「……それはなんですか?」

 「私はまだ二十代だ! 誰が母親か!」


 クレハとティオの面倒を見ているため、お母さんと思われがちなフレアだが、まだ年齢は二十代。

 お母さんと思われてショックを受けたフレアに、なんて言ったらいいのかわからない楓は、「ごめんなさい」と一言謝って、自分の作業に戻る。

 クレハはクレハで、「ははは」と笑いながら、完了した依頼書の整理に戻った。


 複雑な思いをしながら、フレアは未完了の依頼書の整理を始める。

 だが、お姉さんではなく、母親だと思われていたフレアは、ショックだったのか、涙目になっていた。


 フレアの瞳はちょっと潤んでいたことを、二人は見なかったことにした。


 ガチャリ、と玄関が開く音がする。


 「ただ今帰りました」


 村に買い出しに行っていたティオが帰ってきた。


 魔女である、フレアとクレハはあまり買い出しにいかない。

 魔女を悪とする、教会のものに見つかれば正体がバレる恐れがあるからだ。

 なので、買い出しは、ティオか楓が行っている。

 いつもなら、このあとティオが料理をしてくれて、昼食になるのだが……

 今日は奇妙な客? が来ていた。


 「がうがう~」


 現れたのは、金色の瞳、金色の毛並みをした小さな獣。

 その獣はリビングにやってくるなり、クレハに飛びついた。

 それは、攻撃的なものではなく、まるで親しい人に懐く魔獣みたいだった。


 「ん? 人に飼いならされた魔獣なのかな? ちょっと可愛いな」


 クレハは小さな獣を優しく撫でる。

 撫でられることがきもちいのか、目を細めて安らぐ小さな獣。

 そんな様子を全く知らないティオが、慌てた様子でやってきた。


 「カノン! ちょっと待ってよ。いきなり入っていったらみんなが驚いちゃうよ」

 「がうがう! がう~」

 「もう、ちゃんとしてよ」

 「がう~」


 まるで小さな獣と話しているようなティオ。

 小さな獣はクレハのもとを離れ、ティオに駆け寄っていく。

 小さな獣が離れていくことに、シュンと落ち込むクレハ。

 可愛いものが好きなクレハには、何かくるものがあったのかもしれない。


 「この子は迷子みたいなんだ。だから、親が見つかるまで世話をしたいんだけど……ダメかな?」

 「危険がないんだったら別にいいぞ。人に慣れているみたいだしね。ところでティオはその獣の言葉がわかるの?」

 「うん、なんとなくわかるんだ。こんなこと今までなかったのに」

 「もしかしたら、ある程度知能が高い魔獣じゃないとダメなのかもしれないな」

 「そうなの? お兄さん」

 「いや、詳しくはわからない。俺たちは、この魔獣の言葉がわからないからな。あくまで推測だ」

 「で、どうするのフレアさん。私はこの子を家に置いておきたいんだけど」


 クレハは目を輝かせながらお願いをする。

 この幼い感じにグッと来たクレハは、どうしても家においてあげたいとか考えているのだろう。

 そんなわかりやすいクレハに苦笑しながらも、「別にいいよ」とフレアは言った。


 ティオもクレハも大喜びである。

 楓もなんだかんだで、こんな小さな獣を放り出せるほどひどい人間じゃない。

 だた、金色に輝く毛並みに興味が惹かれ、小さな獣に近づこうとした。


 「がるるるるるるる」


 威嚇された。

 楓のあとにフレアが近づいたが問題はなかった。

 フレアにもクレハにも、小さな獣は甘えるようにしていた。

 さっきのは気のせいだと思い、楓はもう一度近づく。


 「がるるるるるるる」


 どうやら気のせいではなかった。

 楓だけが威嚇される。


 「がうがう~」

 「うん、うん。でも大丈夫だよ。お兄さんは悪い人じゃないから」

 「がう? がうがう!」

 「そっか。ありがと」

 「ティオ、それはなんて言っていたんだ」

 「お兄さん。この子はカノンって名前があるから、名前で呼んであげて。それで、カノンが言っていたことなんだけど」

 「ん、カノンが言っていたことは?」

 「なんか、へんな匂いがするから、怪しいって言っていたよ」


 その言葉が、楓にグサッと刺さる。

 ショックを受けたのか、少しよろめいて椅子に座った。

 楓は、自分はそんなに臭うのかと思ったのか、匂いを嗅ぎ始める。

 しかし、異臭なんてしなかった。

 どうやら、小さな獣・カノンの嗅覚がが鋭いから感じられたことらしい。


 「あ、へんな匂いっていっても、臭いとかそういうのじゃないよ。ただ、感じたことのない未知の匂いがしたって言っていた」

 「そうか。もしかしたら、この俺の世界の匂いなのかもしれないな。数日経ったとはいえ、俺は異世界人だ。その世界の匂いが完全に消えているとも限らないな」

 「そうだね。でも、カノンもお兄さんが悪い人じゃないってわかってくれたから、もう大丈夫だよ」

 「そっか、じゃあ俺も撫でてみようかな」


 カノンの毛並みが気になって、触りたい衝動が激しかったが、なんとか気持ちを抑えつつ、カノンを撫でようとした。


 ガブ!


 「いってぇ…って思うほど痛くなかったけど、なんでいきなり噛むんだよ」

 「そ、それはわからないけど……」

 「きっと楓が怖いのよね。私は優しいよ。だからおいで」

 「がうがう~」

 「ほら、よしよし。いい子だね」

 「……なんで俺だけ……」

 「カノン、なんでお兄さんはダメなの?」

 「がう、がうがうがう」

 「え、そういう理由なの。じゃあ僕はなんで?」

 「がうがうがう」

 「そっか、よしよし」

 「がう~」

 「で、俺についてはなんだって……」


 ティオは苦笑しながら楓を見る。

 申し訳なさそうにしながら、楓に説明した。


 「この子は女の子で、見知らぬ男にいきなり撫でられるのはやなんだって。僕は、迷子の手助けをしているからいいよって言ってくれたけど」

 「それは楓が悪いね」

 「そうだな。楓が悪い。女の子は優しくするもんだぞ?」


 クレハとフレアは、カノンを愛でながら楓に言ってきた。

 カノンが可愛すぎて仕事のことなんか忘れているようにも見えた。

 楓は「はぁ」と小さくため息をついたが、ここで諦める楓じゃない。

 要は、まだ知り合ったばかりだからいけないのだ。

 この子の親が見つかるまでは時間がかかるだろう。

 楓にもチャンスはある。

 カノンと親しくなってやる、そのためのカオティックアーツも作ってやろうと意気込む楓だった。


 今日、この日、【ライトワーク】に新たな仲間が加わった。

 それは、小さな獣・カノン。

 親が見つかるまでの期間限定だけど、大切な仲間なのは変わり無い。


 この時、カノンを悲しませる出来事が起こるなんて思ってもいなかった。

呼んでいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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