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カオティックアーツ  作者: 日向 葵
第三章
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67:やってきたぞ、レヴィアちゃん

 サンダーバードの姿に変貌したアブホースは、クレハとヴァネッサを狙って、雷を放つ。

 クレハは咄嗟に、月光の防御魔法【ムーンライト・フェアタイディグング】を唱えた。


「くぅ、これまた凄い威力……」


「いま、あたいがなんとかしてやる。行け、【アロケン】、焼き尽くせ!」


「FAAAAAAAAAAAAA」


 【アロケン】が叫ぶと、口元に魔力が集まりだす。それは次第に炎となって、アブホース目掛けて放った。

 ゴゥと音を立てて突き進む炎弾は、若干黒を混じっており、それに気がついたクレハは、咄嗟に振り返った。

 すると、ヴァネッサが歪んだ表情をしながら、何かに耐えている様子。


「ヴァネッサ!」


「だ、大丈夫だ、クレハ。これは、【アロケン】が侵食しようとしているだけだ。まだ耐えられる。あたいも【アロケン】をそんなに長くは使えない。だからこれをお前に渡しておく」


 ヴァネッサは、琥珀色に輝く宝石をクレハに投げる。

 それを掴んで見てみると、クレハの魔力に呼応するように輝きだした。


「これは……」


「こっそりと作成したカオティックアーツだ。楓と共同開発して、魔道具よりのものを作成した。あたいのルビーと同じで、それを媒体に召喚魔法を使えるようになる。その宝石は、ガーネットって言うんだ」


「ガーネット……」


 クレハは、手に持ったガーネットを見つめる。宝石から溢れ出す魔力に、ゴクリと喉を鳴らした。

 これを使えば【アロケン】のような強力な悪魔を召喚する事ができる。だけど、その代償に心を侵食される可能性がある危険な代物。

 魔力の増幅等の機能は楓でもどうにかなったが、魔法に関することは専門でないので無理。召喚に関することは、ヴァネッサの手で行われたが、心の侵食はどうしても止められなかったようだ。

 クレハの心に不安がこみ上げてくる。


「ぼーっと突っ立ってるな。来るぞ」


 ハッと顔を上げると、【アロケン】の炎により、ヴィーヴルに姿を変えたアブホースが突っ込んできた。

 纏う炎は風に乗り、熱風として襲いかかる。


「くぅ……、風よ。嵐になりて、我が敵たちを切り裂け【ヴァン・シュナイデン・シュトゥルム】」


 クレハが唱えた魔法により、風が嵐のように吹き荒れて、熱風を追い返す。

 風の魔法をもろにくらったアブホースは体を引き裂かれるが、傷口から、ドロリとしたスライム状に何かが溢れ出し、体を包み込んだ。

 そして、イタカの姿に変わる。


 イタカとは、歩む死、風に乗りて歩む者で知られる凶悪な魔物だ。一部の地域では神としても扱われている。人間に似た輪郭を持つ途方もない巨体、人間を戯画化ぎがかしたような顔、鮮紅色せんこうしょくに燃え上がる2つの目を持ち、足には水かきがある。目撃者の中には、眼のある紫の煙と緑の雲、と表現した凶悪な魔物。

 暴風を纏ってクレハとヴァネッサに襲いかかった。

 ただ歩くだけ吹き荒れる、体に傷が付くほどの強力な風。

 【アロケン】でも太刀打ちできない状態まで進化したアブホースを止められなかった。


「クソ……」


「ど、どうしよう、ヴァネッサ」


「お前の……そのガーネットに託すしかない」


 未だ、輝くだけの宝石ガーネット。膨大な魔力を持っていることだけは肌で感じられる。

 だけど、クレハは召喚魔法など使ったことがないので、どうすればいいのかわからずにいた。


「心の奥にある想いを持って呼び出せ。そうすれば、反応してくれた悪魔が召喚される」


「想い……」


 クレハは瞳を閉じて、自分に問いかける。

 いましたいこと、やらなければいけないこと。


(楓を助けに行かないと。ウィウィに何をされているかわからない。早く……わたしが)


 助けたいという気持ちは本物だった。でも、ガーネットが答えてくれない。これよりもつよい想いが眠っているということ。

 いま、楓がどんなことをされているのか、そう思ったとき、ガーネットがさらに強く輝き出す。


(ウィウィと楓がふたりっきり。なんて羨ましいシチュエーション。もし、楓とイチャイチャしてたりしたら……、あーもう、イライラしてくる)


 その思いは嫉妬と独占欲。

 楓とふたりっきりの環境にいるウィウィに嫉妬して、楓を取られたくないという想いが心を染める。

 楓が知らない誰かといちゃついていると考えるだけで、煮えくり返そうになった。


「ああああ、ウィウィめ。楓にちょっかい出して、許さないんだからぁぁぁぁぁ」


 紡いだ言葉は呪文にすらなっていない。だけど、それに反応してくれた悪魔がいた。

 ガーネットが強く、また強く輝き、クレハの魔力と合わさって魔法陣が形成される。

 吹き荒れる魔力の嵐が、イタカを一歩後ろにさげさせるほどに。

 魔法陣が輝き、そこから現れたのは、不自然な女性だった。

 出るところが出過ぎていて、へっこむところがへっこみ過ぎている。ぼっきゅっぼんではなく、ドンベコドンのようなその体型。青色の髪を靡かせて、女性はクレハを見つめた。


「ほう、ソナタか……我を呼びだ……」


 クレハに何かを言いかけた時、アブホースが、恐怖からか風の魔法を放った。煙が吹き荒れて、謎の女性を覆い隠す。

 アブホースも攻撃を直撃させたことによる安心か、再びクレハたちを襲おうとしたが、突然体が硬直した。

 その場にいた誰もが動けなくなるほどの膨大な魔力が、煙の奥から溢れ出す。


「イタタタタ、なんなのよもう!」


 煙が晴れると、そこにいたのは小柄な少女。黒に近い水色の髪、アクアと同じぐらいの身長の小さな子供。だけど、瞳が龍のようで、睨まれただけで、恐怖に震えそうになる程の威圧感を持っていた。


 少女は、タッタッタとクレハに駆け寄る。死の恐怖を感じるクレハに、場違いなおさない声が響いた。


「えへへへ、久しぶりに呼ばれたから張り切っちゃったよ。あんたが召喚者?」


「う、うん。多分そう」


「むむむ、反応が微妙……。だけどいいや。

 私の名前はレヴィアタン。気軽にレヴィアちゃんって呼んでね!」


 ニコニコと笑う少女、レヴィア。

 その明るくて無邪気そうな笑顔をしているのに、死が間近に感じられたクレハは震えだした。


「もう、そんなに震えないでよ。私だって傷ついちゃうぞ。

 まぁでも、あんたの嫉妬は美味しかったぞ!」


 その言葉に、アクアが「あ」っと言葉を漏らす。


「アクア、アレがなんだか知っているのか」


「ああ、フレア。あいつはとんでもない大悪魔だ。嫉妬を表す大罪の悪魔の一柱。あいつは……、危険すぎる」


 アクアでも怯えるほどの強大な力を持つレヴィア。アブホースも危険を察知したようで、黒い風を纏って防御体制に入る。


「ねぇ、名前は?」


「私はクレハよ。よろしく、レヴィアちゃん」


「うん、よろしく」


 ニカッと笑うレヴィアはクレハに抱きついて頬を擦り付ける。気が付くと、クレハは震えが止まっていた。

 なんか、子供になつかれた気分になり、優しく撫でてあげると嬉しそうに微笑んだ。


「ねぇクレハ。ちょっと聞いてよ。

 ずっとネトゲ三昧な生活をしてたんだけど、だんだん飽きてきてさ……。

 久しぶりに暴食なベルゼちゃんのところに行こうとしたらいなくって。探ってみたら、あいつ、別の世界で魔王なんかやっちゃって、平和な世界を謳歌してやんの。むかつくでしょ。怠惰なベルフェちゃんもどこにもいないし、強欲なマモンのクソッタレや傲慢なルシファーのバカ野郎のところに行ってもやることないからね。色欲なアスモちゃんはエッチなことしかしてこないから行く気起きない。憤怒なサタンなんか遊びに行くだけで怒るんだよ。

 やることなくて暇してたんだけど、面白そうな事してるから……、来ちゃった!」


 テヘッと可愛らしく言うレヴィア。だけど、話に出てきた悪魔は全てやばいものしか出てこなかった。そんな悪魔たちを気軽にちゃん付けできて、呼び捨てでクソッタレと言えるほどの大物。

 それだけでクレハは、レヴィアの危険性を理解できたが、にへらと笑う姿があまりにも可愛らしいと思ってしまい、なんだか微笑ましいと感じた。


 我慢の限界が来たのか、防御体制をとっていたアブホースが、クレハとレヴィア目掛けて、風の刃を放つ。


「クレア、危ない!

 【アロケン】、クレハを守れ!」


「FAAAAAAAAAAAAAA」


 【アロケン】がクレハに攻撃が当たらないように、炎弾を放つ。

 風の刃と消滅させるために放った炎弾だったが、スッパリと炎弾を切り裂き、クレハに襲いかかる。


「クレハぁぁぁぁ」


 叫ぶヴァネッサ。だけど、どうしようもない。今からじゃ止められないのだ。

 アブホースが放つ風の刃がクレハに襲い掛かり、首を跳ねる……はずだった。


 突如掻き消えた風の刃。そして、怪しげに光る瞳で、アブホースを睨みつレヴィア。


「ゴミ虫が……、私がクレハと楽しくしているのに邪魔しやがって……、ぶち殺すぞ」


 怒りに満ちた、重たいレヴィアの声が響き渡った。

読んでいただきありがとうございます!

次回もよろしくお願いします!

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