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カオティックアーツ  作者: 日向 葵
第三章
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66:研究所の化け物

 クレハ達一行は、誘拐された楓を取り戻すため、ウィウィの研究所に向かうのだが……。


「ねえ、ヴァネッサ。ウィウィの魔法研究所ってどこにあるの」


「あたいも知らん。しらみつぶしに探せば見つかるだろう。必死で探し……」


「それで手遅れになったらどうするの!」


 走りながら大きな声を出したクレハは、息が詰まりそうな苦しさに見舞われる。それでも、楓を助けたい一心で、必死に走った。

 まさか、ヴァネッサが知らないとは思ってもいなかったようで、楓奪還作戦は、最初っから躓いていた。


「きっとなんとかなる!」


「その自信はどこから来るのよ、ヴァネッサ!」


 ヴァネッサに呆れながらも、それっぽいところを探しているクレハ達。情報もないので、しらみつぶしに探すしかないので、とりあえず、走った。


「まて、お前ら。どこに行こうとしておるのじゃ!」


「何、アクア。早く探さないと!」


「じゃから、なぜ正反対の方向に行こうとしておるのじゃと聞いておる!」


「「……えっ」」


 クレハとヴァネッサは、呆けた表情をして立ち止まった。

 そういえば、アクアもいたっけ、と今更長気が付く二人は馬鹿なんだろう。

 それでも、ウィウィの居場所を知っているアクアが近くにいたことはありがたい。

 アクアは見てのとおり子供体型。立派な十二歳だ。

 ヴァネッサがアクアを肩車して走った。

 なぜ、ヴァネッサが肩車をするのか、それはアクアにねだられたからだ。


 イラっと来て、燃やそうかと一瞬考えたヴァネッサ。だけど、楓のためにと、こらえて、アクアを肩車して走ったのだ。


 辿り付いた場所は、大きな屋敷がひとつだけあり、あとは周りに何もない、寂しいところだった。

 いや、小さな小屋なら、たくさんある。だけど、それは人が住むには、ちょっと小さい。

 それに、ボロボロの小屋は、まるで廃墟のような雰囲気を漂わせている。


「ねぇ、本当にここなの?」


「何を言っておるかわからんのう。ワシを信じられんのか、クレハ」


「いや、そういうわけじゃないんだけど、ここって何か……」


 「出そう」と言う前に、小屋から何か溢れ出す。それは、赤くてどろっとしたスライム状の何か。形状が不安定で、ぽこりんゼリーのようにプルプルと震えていた。

 それが、全ての小屋から出てくる。ざっと数えても15件ぐらいある小さな小屋。溢れるように出てきた赤いものは、ブヨブヨと体を揺らしながらひとつにまとまっていく。

 次第に不安定だったものが形になってきた。


「あれは……」


「ヴィーヴル……」


 体は大蛇のように巨大で、コウモリのような羽を生やした、目が宝石の化け物。炎を纏って、威嚇する姿は、まさしくヴィーヴルのようであったが、それをアクアが否定する。


「あれは、アブホースじゃ。ウィウィが作成した魔法生物。純粋な魔法のみで、誕生した生物じゃのう。ウィウィはあれをたいそう気に入ってのう。いつも楽しそうに可愛がっておるのじゃが。主人思いのためか、敵対者には容赦しない変幻自在のバケモンじゃ。心してかかれ」


「え、アクアは」


「我は見物じゃ。それに、フレアやブラスも戦うなよ。楓に危害を加えることがないのはわかりきっておる。ブラスとフレアなら、あれに対処できるだろうが、クレハは難しいじゃろう。それに、ヴァネッサは、内なる黒い炎がまだ宿っておるかもしれんからな。力じゃなくて、心を鍛えるのじゃ。これも修行の一環だと思え!」


 ブラスはもちろん騒ぎ出したので、フレアが締め上げた。そして、アクアとフレアは、ブラスを引きずって後ろに下がった。

 手を出すつもりはない。

 アクアも、ウィウィが可愛がっている生物が、仲間を殺さないことはわかっている。それに二人は研究者。話したいことはたくさんあるだろう。

 フレアにだけ、ここらへんの事情は説明済みのため、簡単に後ろに下がってくれる。

 クレハとヴァネッサがさらに強くなるための、強敵との戦いが突如として始まった。


「ぐふぁああぁぁおあぁあおああおあ……」


 声にならないような音が響き渡る。アブホースは大きく息を吸うと、喉の奥から炎が漏れ出した。ブレスを吐く予備動作だと感じたヴァネッサが、炎弾による攻撃を繰り出した。

 しかし、相手は炎を纏った化け物。ヴァネッサの攻撃は容易く消滅する。

 そして、アブホースが勢いよく炎のブレスを繰り出した。


「ここは私が、月光の祝福により、我らを守り給え【ムーンライト・フェアタイディグング】」


 月光のような優しい光の壁が、クレハとヴァネッサを包み込む。クレハの月光魔法【ムーンライト・フェアタイディング】が、アブホースの炎と衝突する。


「なんてつよい炎なの。このままじゃ、壊れちゃう」


「あたいに任せろ!」


 ヴァネッサは、懐から、宝石を取り出した。深紅のルビーは、ヴァネッサの魔力に反応して輝き出す。

 ヴァネッサの魔力を増幅させる深紅のルビーを用いて、あの魔法を繰り出した。


「あたいが、密かに特訓していた取って置きだ。

 赤い獅子は炎の瞳を持って全てを焼き尽くす悪魔。我がもつ深紅の魔力を糧として、裁きの炎を撒き散らせ【アロケン】」


 ソロモンに封印された序列第52位の大悪魔【アロケン】が姿を現した。


「FAAAAAAAAAAA」


 【アロケン】が、アブホースの放った炎を喰らい尽くす。すると、【アロケン】の炎の火力が増した。


「ヴァネッサ、あれって……」


「ああ、私が黒い心に飲み込まれた時に使った魔法。あれを改良したものだ」


 ヴァネッサの言ったとおり、前に現れた【アロケン】はどす黒い炎をまとっていたが、今の【アロケン】は、真紅の炎を纏っている。

 悪魔のはずなのに、神秘的な雰囲気があり、クレハはとても頼もしく感じた。


 【アロケン】が纏った魔力を炎の玉に造り変え、一斉放射する。

 一つ一つは小さいので大した威力とはならないが、数が多いため、アブホースが呻き出す。

 そこをチャンスだと思った、クレハが魔法の詠唱を開始した。


「雷よ。我が敵に災厄を降り注げ【フードル・カラミティ】」


 空が輝き、アブホース目掛けて雷が落ちる。

 それに気がついたアブホースは、避けることもしないで、まともに攻撃を食らった。


「よし!」


 クレハがガッツポーズをするが、ヴァネッサは、今の光景がおかしく見えた。

 ウトピア一番の魔法研究者であるウィウィが作り出した化け物、それが攻撃を目の前にして避けることすらしないのはおかしい。

 その考えは悪い方に的中する。


 雷が落ちたことにより、激しい炎と煙が舞い上がった。

 それが風に流されて、現れたアブホースの姿は、鷹や鷲を彷彿とさせるが、それよりはるかに大きい体格。目や口から漏れ出す雷。

 アブホースは進化と適応の化け物。クレハの攻撃により、雷に耐性があるサンダーバードに姿を変えたアブホースは、再びクレハ達に襲いかかる。

読んでいただきありがとうございます!

次回もよろしくお願いします!

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