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カオティックアーツ  作者: 日向 葵
第三章
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65:楓誘拐事件?

 ウトピアに来てから数日後。ライトワークの承認がおりた次の日に、拠点が出来上がった。

 あまりの速さに、楓は驚いたが、アクアやヴァネッサたちから言わせれば、魔法があれば楽勝、である。

 よく考えてみれば、カオティックアーツでも同様のことができるため、楓は納得する。


 拠点の中は、受付カウンターと待合室のような椅子が設置されており、気楽に休むため、机なども置いてあった。

 楓的にはいらない仕様。誰が受付嬢をやるんだ……と思う。受付の一番奥の隅っこは扉があり、中に入るとリビングのような生活臭漂う空間が広がっていた。

 フレアが言うに、こっちが本物の拠点で、受付はそれっぽく作ってと適当にお願いしたら、こうなったらしい。


「んじゃ、あたいもこれからお世話になるよ。ウトピアで同じような仕事をしているんだ。合併したほうがいいだろうと思ってさ。

 だから……よろしくな」


「ああ、ヴァネッサ、歓迎するよ、って言っても、ここまで一緒に旅をした仲間だ。だから、現状なにか変化があるってわけじゃないけどな」


「そう言ってくれると嬉しいよ、楓」


 とまあ、ヴァネッサが本格的にライトワークに加わった。

 新しくライトワークのメンバーが増えたことで、この場に活気が……と言いたいが、そんなことはなかった。

 フレアは、アクアと一緒になぜかぐったりしていた。


「……楓、水をくれないか……」


「わ、わしも頼む……」


「あ、ああ、分かった」


 楓はクレハとアクアに水をあげる。ライトワークの承認がおりる条件に、アクアの仕事を終わらせるというものがあった。それをフレアが手伝って、地獄のような目にあいながらなんとか終わらせたそうだ。

 楓は、経緯を知らないので、ライトワークのために、とフレアに対して感動的な気持ちになった。真実を知ったらどうなることやら。


 そして、もう一つ。ライトワークに変化があった。


「お姉ちゃん!」


「おお、ティオ。元気でやってるか」


「うん! 今日はどうしたの?」


「あたいも、これからここ一緒に仕事するんだ。よろしくな」


「ホント、嬉しいな」


 とまあ、異常なほどに、ヴァネッサとティオが仲良くなっていた。

 最近仲が良くなったのか、カノンが拗ねて、楓の頭まで上り、ぐったりとだらけた。


「がう」


「どうしたんだ、カノン?」


 楓は、頭の上にのるカノンを持ち上げて抱っこした。片腕でカノンを支え、もう片方の手で、喉を撫でてやると、気持ちよさそうに目を細める。


「あ、楓、カノンと遊んでいるの。私も撫でさせ……」


 カノンを触ろうとしたクレハをカノンが噛んだ。別に本気で噛んでいるわけではないが、それでも痛かったようで、クレハが若干涙目になっている。


 そんな日常的な光景が広がっているライトワークの拠点に来訪者が現れる。


 カラン、と音を立てて扉が開く。受付に誰もいなかったので、楓が対応するために行こうとすると、部屋のドアが開かれた。

 そこから現れた魔女の姿を見て、アクアとフレアがビクッと反応し、ブラスが息を荒げる。


「み~ん~な~、元気~……くぅ」


 現れたのは風雷の魔女と呼ばれ、名のとおり雷と風を操ることのできる上位の魔女、ウィウィだった。


「おい、こんなところで立ちながら寝るな」


「っは、私~寝てないよ~多分~」


 ゆったりとした口調。体を揺らしながら、のんびりとした雰囲気を漂わせているのに、全く隙がない。細めた目をそっと開き、ウィウィは楓に近づいた。そして、突然匂いを嗅ぎだした。


「ちょ、何してんのよ!」


「え~、匂いぐ~らい~いじゃ~ない?」


 当然クレハが引き離そうとする。でも、ウィウィは楓にくっついて離れようとはしなかった。


「この子~から~、しらな~い~匂い~が~いっぱい?」


 知らない匂いとは、きっと元の世界のことだろう。だが、楓はここに来て結構立っている。匂いとはそんなに残るものだろうか、と楓は疑問に思った。


「魔力~とは~違う~エネルギーの~匂い~がただよ~ってる~よ~」


 どうやら、ウィウィは、楓の持つ基礎技術の一つ、暗黒物質のエネルギー化に対して、匂いで何かを感じ取ったようだ。

 腕を恋人のように絡ませて、楓のウィウィは楓の耳元で囁く。


「私の研究に協力してくれ」


「え……」


 さっきまでの、のんびりとしていて聞き取りにくい言葉とは違い、はっきりとしたその言葉に、楓は唖然とする。

 そして、コクっと縦に頷いた。

 ウィウィは魔法関連の研究者である。ということは、カオティックアーツにさらに詳しい魔法技術の知識を取り込んで、さらに進化したカオティックアーツの作成ができるかもしれない。そんな期待を込めて、楓は頷いたのだ。

 ウィウィは、その楓の返事に喜んだ。


 だが、傍から見たら、楓とウィウィがいちゃついているようにしか見えなかった。


「ぬぬぬ、ウィウィめ。あたいたちを差し置いて……」


「むむむ、私たちの方が一緒にいる時間長いのに、すっごく親しそう。なんか複雑な気分……」


 クレハとヴァネッサがすね始め、それをティオが慰める。この時ばかりは、カノンも同情しているようで、クレハの頭の上に乗り、頭をぽんぽんと叩いた。

 そんな可愛らしい仕草にも、クレハやヴァネッサは落ち込む一方。よく見ると、泣いているように見えないこともなかった。


 そんなふたりを見て、あらあらといった表情をするウィウィは、ちらりとフレアとアクアを見た。それだけで、緩やかだった笑顔が、硬くなる。

 次第に、怒っていたときのような睨みをきかせ、すぐに穏やかな表情に戻った。

 どうやらなにか思いついたようで、口元がにやりとしていた。


「か~え~で~は~頂いて~行きます~ね~」


 そう言うと、楓の姿と一緒に、突然姿を消した。その場にいた一同は、驚いて目を擦った。さすがのウィウィも、瞬間的に転移を発動させるなんて不可能だろうと思ったからだ。だけど、何度見返しても、楓の姿はどこにもない。本当にどういうことだ、と外を見て確認するが、周りを見ても見知らぬ魔女しかいない。


「ど、どうしよう。楓が誘拐されちゃった」


「ウィウィめ、あいつは何もしないって思っていたんだけどな」


「ヴァネッサ、あいつは何者なの」


「あいつの名前は知っていると思うけど、ウィウィっていう風雷の魔女で、この国のお偉いさんの一人。そして、この国の魔法研究の主任だ。あいつしかいないけどな」


「魔法研究?」


 クレハはヴァネッサの言葉に首をかしげた。

 魔女ならば、魔法を使えて当たり前である。その当たり前を研究することになんの意味があるのだろうかと、クレハはそう思った。

 だけど、実際に魔法について楓にレクチャーしているとき、魔法のことがよくわからないということも、クレハには分かっていた。

 そして、クレハは楓をよく見ている。楓も研究馬鹿だ。研究のためならどんなことでもする。ただ、マッドではないので、其処らへんは考慮していたが……

 そう思うと、クレハの心の中を不安が支配した。


「きっと楓のことを研究に使おうとしているのかもしれない」


「ああ、急ごう」


「僕も行くよ!」


 そして、三人はライトワークを出ようとして、後ろを振り返った。三人は大きな息を吸い、声を張り上げて言った。


「「「みんなで助けに行くんだよ!」


 この声にビビった、アクアとフレアは立ち上がり、ブラスを引きずってついていく。

 ブラスも途中で起き上がり、自分の足でついていくことにした。

 楓奪還のため、クレハたちが先陣切って、ウィウィの研究所を目指す。

 そのあとに、フレアたちがついていく感じで、ウィウィのもとを目指した。

 全ては楓奪還、ただそれだけのために!。

読んでいただきありがとうございます!

次回もよろしくお願いします!

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