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カオティックアーツ  作者: 日向 葵
第三章
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62:ウトピアを見て回ろう①

ウトピア観光第1弾

楓とクレハの話です!

 ブラスを埋めた楓たちは、目を覚ました宿屋の魔女っ子を宥めて、おいしい朝食を堪能した。

 魔女っ子が作る料理は、目玉焼きとベーコン、オルスマウンテンで取れたであろう野菜達はどれも美味しく、思わず笑が溢れるほどだった。

 クレハとヴァネッサが渋い顔をしながら朝食をとっていったので、「こんなに美味しいのに、なんでそんな顔をするんだ」と聞いたところ、「すごくおいしんだけど、こんなもの作れる気がしないからなんか複雑」とのこと。乙女心は難しいと楓は思う。


 食後に入れてもらった紅茶は香りが良く、とても美味しい。なんでもウトピアで最も高級な茶葉を使っているのだとか。

 ゆったりとした時間を過ごし、このまま部屋にでも戻ろうと思った辺りで、本来話すべき内容を思い出した。


「フレアさん。魔女の国に来た目的は、俺たちが襲われずにいられる場所でライトワークをやり直すために来たんですよね」


「まぁそうだな。仕事をしてお金を稼がないと生活ができないし、みんなもあの場所を取り戻したいだろ?」


 フレアの言葉に、ティオもクレハも頷く。拠点が変わろうとも、ギルド『ライトワーク』であることは変わりない。思い出の場所はなくなってしまったかもしれないが、また新しい仲間と共に沢山の思い出は作れる。それに、ずっと旅を続けて行くことは困難だと全員わかっていた。危険の付き纏う旅は必ずどこかで限界が来てしまう。最悪、仲間の誰かが死ぬことだってあるかも知れない。

 そんな旅を続けるより、やっとたどり着いた魔女の国『ウトピア』に拠点を構えて、平和に生活する方が無難だろう。

 そのために何をしなければいけないのか相談しなければと楓は思っていたのだが。

 その話は、フレアの一言で終了する。


「だが残念だ。一応昨日の内に聞いたんだが、ウトピアのトップであるアクアに話を通さないといけないらしい。アクアのやつ、今何していると思う?」


「仕事だな」


「仕事だね」


「仕事しかねぇ」


「仕事だよね」


「がうがう!」


 この場にいる全員が、ウィウィという魔女にアクアが連れ去られる瞬間を見ているので、満場一致で仕事をしているという結論に至った。

 フレアが言うには、アクアと話し合ってどうするか決めなければいけないが、肝心のアクアが缶詰状態で仕事をさせられている。

 つまり、今できることは何もない。


「というわけで、二人一組でウトピアを観光しよう」


「分かったわ。楓、一緒に観光に行こう!」


「いや、クレハではなく、あたいと一緒に!」


「ちょっと、ヴァネッサ! 邪魔しないでよね」


「それはこっちのセリフだ!」


 「ガルルル」と唸り声をあげているかのように、にらみ合うクレハとヴァネッサ。二人一組という言葉に過敏に反応し、どうしても楓と一緒に観光したい二人は、勢いに任せて楓に迫った。

 だが、楓の反応は……一歩後ろに下がって距離をとっていた。

 どうも、料理大会にクレハとヴァネッサがしでかしたことが、楓の若干トラウマみたいになっていたので、つい後ろに下がってしまったのだ。

 これが二人の心を傷つけたようで、笑顔のまま泣き出す始末。


 そこに埋めたはずのブラスがやってきて、ヴァネッサとクレハを指を指して笑った。


「はは、ざまぁない。あんな料理を作るからだ!」


 確かに、その通りではあるが、態度と物言いがやり過ぎた。更に、魔女っ子がまだいるにも関わらず、堂々と入ってくる立ち入りを禁止されているブラスを問答無用で吹き飛ばした。

 もちろん、楓がカオティックアーツを使ってだ。


 最近のブラスはどこか壊れてきているようで、楓は塩一撮み分ぐらいは心のどこかで心配している。


 それは本当に些細なことなので、クレハとヴァネッサをどうやって宥めるかという思考に塗りつぶされて、ブラスは忘れ去られる。

 いつものことながら、哀れなブラスであった。


 少々泣いたものの、二人一組の観光は心の傷に浸るよりも重要なことなので、気を取り直して拳をあげ、「最初はグー」と掛け声を出す。ブラスと楓を除く、恒例のじゃんけん大会が始まった。


***


 楓はウトピアの中央付近にある商店街らしい場所にクレハと一緒に来ていた。


「えへへへ~」


「ほらクレハ。子供みたいにはしゃいでいると転ぶぞ」


「大丈夫だって、うわぁ」


 転びそうになったクレハの腕を掴み、楓は支えて上げた。


「あ、ありがとう……」


 楓に支えてもらったのが嬉しかったのか、それとも子供っぽくはしゃいで転びそうになったのが恥ずかしかったのか、クレハは茹でタコように顔を赤くして俯いた。


(あう、転びそうになるなんて恥ずかしいよ……でも、楓に支えてもらて嬉しいかも!)


 どうやら両方であったようだ。

 じゃんけん大会に勝利したクレハは、年端もなく歓喜の声をあげて喜んだ。そして楓を引っ張ってこの商店街に来たのだが、別にどこに行くか考えていなかったので、これからどうしようかな……と考えていた。

 でも、楓には筒抜けで、「あ、こいつなんにも考えてないな」とぼやいたが、楽しげなクレハにはなんにも聞こえない。

 また、魔女の国というわけなのか、少しばかし特殊なものが取り揃えられているウトピアの商店街。見るもの全てが新鮮で、キョロキョロしているクレハの姿を見る楓も楽しげに微笑んだ。


「あ、楓。あっちからいい匂いがするよ。行ってみようよ!」


 そう言って、楓の手をさりげなく握って連れて行こうと企んでいたクレハだが、楓はさっと避けて、一歩後ろに下がった。


 ガクブルと震える楓を見て、またしても悲しい気持ちになるクレハは、「ねぇ、大丈夫だから……あんなこともうしないからゆるしてよおおおぉぉおぉぉ」と、人目を気にせずに叫んだ。


 まぁ、今回は楓の冗談なわけだが、それが全く伝わらないクレハの様子と今にも泣き出しそうな表情から、ちょっとやり過ぎたか、と罪悪感が湧いてきた。


「ご、ごめんって、冗談だから、本当冗談だからな。もうなくなって」


「もう、バカバカバカぁ、ふえぇぇぇぇん」


 駄々っ子パンチみたいにぽかぽかと叩くクレハだが、拳に力は入っておらず、泣き喚く一方だ。次第に周りの視線が痛くなる。

 ひしひしと感じる、女の敵だという感じの鋭い視線に胃が痛くなってきた楓は、逃げるようにこの場を立ち去り、一軒の店に入った。


 そこは喫茶店であり、入った瞬間に紅茶の良い香りを感じた。少しうっすらとしたオレンジ色と明かりは、心を落ち着かせてくれる。

 クレハも次第に落ち着きを取り戻す。


「いらっしゃいませ……ってあら、楓さん。それにクレハさんも」


 店員さんの顔をどこかで見たことあるようなクレハは、頭をフル回転させて、うんうん唸る。


「クレハ……この人は料理大会にいた審問官の魔女さんな」


「あ、あの時料理大会で戦った!」


「ええ、途中退場されたクレハさんと、あの場所で料理をしていた魔女です」


 ニコッと笑う店主の魔女。クレハの表情は次第に青くなる。

 そして震え始め、泣きそうになるのを必死でこらえるが、溢れる涙を止められなかったようだ。号泣するクレハにどうしようと楓は悩む。

 そして、クレハの頭を少し雑に撫で回し「落ち着け」と言った。コクっと頷き、クレハは落ち着きを取り戻す。


「あ、あの、もしかして私がいけないの。どうしましょう、どうしましょう」


 オロオロとする店主の魔女を見て、クスッとクレハと楓は笑ってしまった。


 落ち着きを取り戻したクレハと楓は店内に案内されて席に付く。時間的にほとんどいない時間なので、お客はクレハと楓だけだった。


「これ、この店で人気の紅茶なんですよ。よかったらどうぞ。サービスといいますか、私が泣かしてしまったお詫びです」


「え、すいません。こちらが勝手に騒いだだけなのに」


「いえいえ、なんか私のせいな気がしまして」


 そう言ってクレハの方に振り向く審問官もといい店主の魔女。視線が自分に向いたことに気がついたクレハは一瞬ビクッとする。


「クレハ……お前一体どうしたんだよ」


「えっと、それは……」


 クレハから事情を訊いた楓と店主の魔女。料理大会を退場させられたあと、別室で大会の様子を見ていたらしい。映された店主の魔女の料理を見て、とっても美味しそうに思ったクレハの脳裏にフレアの言葉が蘇ったそうだ。それは楓と出会う前にフレアに言われた言葉。


「もし好きな人ができたら胃袋から掴むんだ。だから料理はしっかりできないとダメだぞ」


 料理当番の時、希に言われていたらしく、それを思い出したクレハは店主の魔女が作った料理を見て焦った。


(どうしよう……このままじゃ、楓が取られちゃう!)


 一度そう思ったら、不安がこみ上げてきて、心の中を侵食する。でも、ウィウィの登場により、楓が料理を食べなかったことを知り、少しだけ安心していたのだ。なのに、この場で出会ってしまった強敵。もし、ここで店主の魔女の料理を食べたら、楓がいなくなってしまう。

 そんなことを思ってしまい、クレハは泣き出したという。


「はぁ、お前ってやつは……」


「うう~」


 少し呆れつつも、クレハが不安がっていた事実を知った楓は「そんぐらいでいなくならないよ」と呆れ顔で呟いた。

 その言葉が嬉しかったのか、笑顔になるクレハ。もし、しっぽとが生えていたならば、盛大に振っているように感じられるほどの喜んでいた。


「ふふ、あの大会に参加したのは、ちょっとした娯楽みたいなものなので、あなたから楓さんをとったりしませんよ」


「そ、そうなんですか?」


「私たちは魔女ですけど、誰でもいいってわけではないですし」


「でも、拘留所で楓に変な質問をしていたとか!」


「うう、それは申し訳ないです。出会いが少ない、いえ、全くないもので。この期に交流を深めようと思ったのも事実です……」


「や、やっぱり……」


 申し訳なさそうにする店主の魔女とそれを睨みつけるクレハ。若干修羅場な感じがする楓は逃げ出したい気持ちでいっぱいになる。

 でも、それは杞憂だったようだ。


「クレハさんみたいな可愛らしい彼女さんがいることを知ってしまったら、ねぇ」


「か、彼女じゃないです!」


「え、違うのですか!」


 顔を赤くして否定するクレハ。それに驚く店主の魔女は、少しばかし困惑したあと、「ああ、なるほど」と言ってひとり納得したようだ。


「ねぇ楓さん。クレハさんを少し貸してくださらないかしら?」


「え、それはどういうことです」


「ん~それは女の子の秘密ってことで」


 ふわりとした笑みを店主の魔女が浮かべたので、少しドキッとした楓。それに気がついたクレハは、あわあわとうろたえる。


「ほら、クレハさん。こっち、こっち」


「え、あ、ちょっと!」


「あ、楓さんは少しだけ、待っててくださらない?」


「ん? ああ、分かった」


 クレハは店主の魔女に連れられて、店の奥に消えていった。


***


 それから一時間以上過ぎた頃だろうか。

 フリルのついた可愛らしいエプロンを身につけたクレハがお盆に料理を乗せてやってきた。

 持ってきたものはトマトケチャップによって赤くなっている、少しばかしの野菜と鶏肉が入ったチキンライスの上にふわりとしたオムレツが乗っている料理。楓の目の前にお皿を置き、おどおどしながらも、チキンライスの上に乗っているオムレツにナイフを刺した。

 スッと切れ目を入れると、オムレツはパカッと割れて、チキンライスを覆い隠す。

 ふわとろのオムライスが楓の目の前で完成した。

 食欲をそそる美味しそうな匂いに、楓はゴクリと喉を鳴らす。


「えっと、楓。よかったら食べてみて?」


「え、ああ。いただくよ」


 ちょっと事情が見えない楓は、言われるがままにスプーンを手に取り、オムライスをすくって口に運ぶ。

 口の中に広がるケチャップの酸味と野菜の旨み。それを包み込んで優しい味に仕上げるふわとろのたまごの味が口に広がり「うまい」と無意識に呟いた。


「ほ、ホント。やった」


「良かったわね。クレハさん」


「うん。ありがとうね」


 クレハを褒める店主の魔女に喜ぶクレハの顔を見て、ようやく事情を察した楓。

 おそらく、店主の魔女に教わりながらクレハが頑張って作った料理がこのオムライスなんだろうと察した。


「この子、料理の技術はいいのだけど、突拍子もない考えを持っているから変なものを作るみたいなのよね」


 苦笑いしながらも、まるで妹を可愛がる姉のような店主の魔女を見て、楓はこんな日常も悪くないなと思いながら、クレハのオムライスを堪能した。


 店を出るとき、クレハは当分この店に通い、料理の練習をすると言ったので、頑張れと口には出さなかったが、心の中で応援する楓だった。

読んでいただきありがとうございます!

次回もよろしくお願いします!

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