56:獣の王
最近更新が遅くてすいません。
月明かりに照らされた静かな森の中。
この先を進めばオルスマウンテンに入るのだが、楓たちの目の前には聖騎士団の拠点が形成されていた。
オルスマウンテンは野菜が豊富にとれるため、手軽に食料が補充できる重要な拠点となっている。
まさか、魔女の国がオルスマウンテンの頂上にとは思っていないものの、重要な拠点であることは変わりないため、厳重な警備がされている。
また、食料を手に入れるために魔女がやってくると考えられているらしく、聖騎士団が陣取っている事も多い。
魔女の国に一気に行く魔法が使用できないので徒歩で行くしかない楓たちは、聖騎士団の拠点を突っ切っていかなければならなかった。
「よし、みんな。準備はいいか?」
「こっちは大丈夫だよ」
「わかった。クレハ以外はどうだ」
楓がそう聞くと、全員が頷いた。
そして、カオティックアーツ『ステルスカーテン』を起動させ、バレないように聖騎士の拠点を駆け抜けた。
『ステルスカーテン』とは、文字通り透明になれるカーテンのことである。光の屈折などを利用して、光の情報が相手に伝わらないようにし、姿を隠すことができるカオティックアーツである。しかし、光が届かないということは、自分自身も周囲が見えなくなるということであり、楓が作った割には残念仕様なカオティックアーツだった。
周りが見えなくなるのは困るので、目だけは対象外になっている。
明るい時に遠くから見ると、目だけが浮かんでいる不思議な何かが完成するが、今は夜。
これなら発見されないだろうという見込みがあり、聖騎士の拠点を突破する作戦を実行することにした。
最初は失敗するのではと思っていたが、こっそり突破する作戦も順調に進み、一度も交戦せずにオルスマウンテンに侵入することに成功した。
「ここまでくれば大丈夫か……」
「お疲れ楓。それにしても、お前が作ったカオティックなんちゃらってすげーな」
「ヴァネッサ。カオティックなんちゃらじゃなくて、カオティックアーツな」
「そう、カオティックアーツ。こんな便利な道具があるなら、魔女の里にも欲しいよ」
「ほら、ヴァネッサ! 楓とイチャイチャしないでよね」
「何がイチャイチャだ」と突っ込んでやりたい楓ではあったが、ここは黙っておくことにした。
一応『ステルスカーテン』を使用しなくても追いつくことが難しい領域まで入ったので、少しだけ安心した楓はホッと一息ついた。
まさかここまで上手くいくと思っていなかった楓は、このまま問題なく魔女の国に行ければいいなと思った。
「あとはもう楽勝だろ」
「ブラス、一応気を引き締めろよ。万が一っていうのもあるんだからな」
「大丈夫だよ、楓。普通の聖騎士でも、ここまで来れば安心だろう」
「そうだといいがな、ははは」
この時、楓たちは油断していた。相手が普通の聖騎士なら問題なかったと。
突然、後ろの茂みが揺れだす。音に驚いた楓たちは、音のある方に振り向くとガロフがいたのだ。
「やぁ、皆さん。こんばんわ」
「ガロフ……なんでこんなところに」
「俺は正直会いたくなかったかな」
ガロフはなにか嫌そうな表情をした。
そして、大きくため息をついた。
「俺は鼻がいいんだよ。いくら不可視の魔道具とか使ったとしても、俺の鼻はごまかせない」
「がうがう!」
「カノン……すまないな。これも仕事なんだよ」
「うそ……」
カノンがガロフにいった言葉にティオが驚愕する。楓たちの中で、正確にカノンの言葉を理解できるのはティオだけだ。ティオは、今にも泣きそうな表情をしながら、楓にいった。「カノンがあの人をお父さんって」と……
「楓とクレハには言ったが、俺の名前はガロフ。オルタルクス特殊聖騎士団の団長、獣王のガロフだ」
「獣王……もしかして、この前の奴か」
「理解が早いな。そうだ、この前襲ったのは俺だ。
楓のところにカノンがいるってわかったら、なんかやりにくくてな。ハンボルの町では見逃したけど……ここを突破しようとする敵から武器を回収しないといけないんだよ」
「どういうことだ。何を言っているんだ!」
「そう叫ぶな、楓。お前が作る道具はオルタルクスの連中の注目しているんだよ。上の連中はお前などいなくても道具さえ回収できれば、解析することができると考えた。このあたりには魔女の国があるらしいからな。ここで待ち伏せをしていればいいというわけだ」
「だが、お前は俺の見逃した。それは一体……」
「それは、俺の最愛の娘、カノンがお前のパーティにいたからだ。俺はオルタルクスの連中の生体実験により魔改造された【ライオネイラ】という魔物だ。魔物だといっても、家族の愛情はある。だから、できるだけ娘を悲しませたくない。俺だって戦いたくないんだよ。でも、でもなぁ!」
そう叫んで、ガロフが上着を脱いだ。それを見た楓たちは驚愕する。
ガロフの肩が黒く禍々しい光を放っていたからだ。それは、一度見たことがある忌まわしき光。
カノンの母親を苦しめた、聖呪痕だった。
「俺のこの痣が、殺れ、殺れと言ってくるんだよ。俺にはこれを抑えられない。だから俺はお前と戦うしかないんだ!」
聖呪痕による濁った魔力がガロフを包み出す。
カノンの母親の時は、侵食しようとしていた感じであった。だが、ガロフの聖呪痕は既に体に馴染んでしまい、濁った光が体の一部と思えるぐらい自然な感じだった。
そして、ガロフの筋肉が膨張し、金色に光る毛が生え、牙や爪が鋭く尖る。
前に楓立ちのことを襲撃した獣王がそこに立っていた。
「サァ、カリノジカンダ。オレハオレヲオサエキレナイ。オマエラゼイインコロシシテヤル。ダレカオレヲトメテクレ」
獣王の言葉に楓は困惑した。それは、止めて欲しいという言葉と、楓たちを殺すという言葉があったからだ。
獣王は心を失ったわけじゃない。殺戮と破壊の本能と、子を守りたい、誰も傷つけたくないという想いが葛藤している状態なのだ。
つまり、肉体は聖呪痕に侵食されているが、心までは侵食されていない。カノンの母親の時よりも確実に実力がついた、今の楓たちになら、ガロフを救う方法を編み出せるかも知れない。
だけど、それでも、今の状態で救うことは不可能なのだ。
聖呪痕を解呪するために必要な魔法道具を作っていないのだ。
「畜生。また、また救えないのか。カノンの家族を……」
「がうがう」
カノンの呼び声にはっとした楓は、迫り来る獣王の攻撃を避けようと横に飛ぶ。
だが、楓の反応が遅かったのか、獣王の攻撃が早かったのか分からないが、楓の回避が間に合わないのは確かだった。
獣王の鋭い爪による攻撃が楓を襲ったとき、その間にブラスが割り込んで、獣王の攻撃を止めた。
「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAA」
「楓、お前は俺が守ってやる。だからこの状況をなんとかする方法を考えろ。クレハも、ヴァネッサも、みんながあいつを止めてやる。
だから、仲間を救う方法を考えろ!」
ブラスの言葉が胸に響いた。楓は自分が何を考えていたか、もう一度胸に問う。楓は仲間よりも先に、ガロフを救うことを考えてしまった。
たしかに、カノンの父親であるガロフを助けたい。でも、チャンスはこれっきりなのだろうか。
それはない。生きている限り何度でもチャンスはある。
だったら、この場を一旦乗り切って、もう一度、救うために立ち上がればいい。でも、あの魔力は危険だ。あのまま濁った魔力を使い続けたら、心までなくなる可能性がある。
だったら……
楓はやるべきことが見えてきた気がした。
だからこそ、ガロフのことを睨みつけて叫んだ。
「ガロフ、俺のカオティックアーツで、お前の心を汚さず、お前を殺さず、この場を切り抜けてやる」
読んでいただきありがとうございま。
最近、本当に眠過ぎて、投稿頻度が遅くなってすいません。
もう少し早くできるように頑張ります!
次回もよろしくお願いします!




