53:オルタルクスの刺客
翌日
嫌味により心に負った大きな傷も、宿で休んだことでスッキリした楓は、これから出発するべく、宿のロビーに向かった。
楓が行く頃には、クレハ意外全員が集合しており、クレハ待ちとなった。
まぁ、ただ待っているのもあれだったので、ヴァネッサに自己紹介をしてもらうことにした。
何を隠そう、酔っ払った上に大泣きしたヴァネッサは、宿で酔いつぶれてしまい、自己紹介どころではなかったのだ。
海上で戦った仲であるが、これからは仲間として魔女の国まで旅をするのだ。
そのためにしっかりと仲を深めたほうがいいと考えた。
「……という訳で、お前たちの案内を務めることになった、ヴァネッサだ。よろしくな」
そんなヴァネッサの自己紹介に納得いかなかったフレアは、ヴァネッサにあることを確認すべく、こっそり聞いた。
「なぁ、ヴァネッサ……」
「えっと、あんたはフレアだったよな。何だよ、耳元でこそこそと」
「お前、楓が好きなのか?」
「ぶふぉぉ、ななな、何を言いやがる」
「ほうほう、なかなか面白いネタが生まれたよ。楽しいな!」
「べ、別にそんなんじゃねぇよ。だけど、あの時救われた気持ちになったのは確かだ。だから、感謝している。ほ、本当にそれだけなんだからな」
「ふ~ん。でも、楓を狙うなら、ブラスとクレハを蹴散らすんだね」
「まて、クレハは納得するけど、ブラスって、あの大男だろ。なんで奴が……」
「あいつは楓が大好きだからな」
「ーーっ、ゲフン。変なところに入った……
そういう、男同士のネタは、魔女の国についたらアクアにしてくれ。あいつは、すごいんだが、腐っているところもあるからな」
「ほう、同士がいるのか。楽しみだ。
あ、そんなことを言うってことはお前もいける感じか!」
フレアの目が輝く。今まで、同じ趣味をもつ相手がいなかった為、語りたかったのだ。
そんなフレアとは正反対に、ヴァネッサの目が死んだ魚のように濁っていく。
「もうやだ……腐った話なんて」
フレアと内緒話をしていたヴァネッサは、若干涙目になりながら愚痴を言った。
それもそうだろう。腐った話は、嫌というほど……ではなく、「もうやめてくれ!」と発狂しても語られ続けられると言う地獄を見たことがあるヴァネッサにとって、男同士の話を聞くだけで泣きたい衝動に駆られるのだ。
どんどん顔色が悪くなるヴァネッサに気がついた楓が、ヴァネッサに声をかける。
「おい、大丈夫か?」
「う、うん。あたいは大丈夫だよ。それよりも、もうひとり遅いな……」
「ああ、そうだな……って、お前、顔が赤いぞ。熱でもあるのか?」
楓は、ヴァネッサのおでこを触り、熱があるか確認する。
そんなことをされたことがないヴァネッサの顔はどんどん赤くなっていった。
そんなタイミングで、クレハが登場。
当然、発狂した。
ヴァネッサとクレハの取っ組み合いのケンカが始まってしまったのである。
ちなみに、ブラスはフレアのアドバイスにより、参戦しなかったが、ハンカチを咥えて悔しがったのは言うまでもない。
一通り騒いだあと、ようやく出発した。ヴァネッサが言うには、魔女の国は、街道を曲がり道になってようが、崖になっていようが、まっすぐ進むと魔女の国につくのだという。
楓たちが進む先には、大きな山が立っている。多数あるうちの一つに魔女の国が存在するとヴァネッサは言った。しかも頂上に……
山の頂上に建設された理由として、アクアが高いところが好きだという。
あいつは馬鹿なのか……と楓は思った。
そんな話は置いておいて、レミニカと魔女の国の中間地点に当たる町、ハンボルを目指すことになった。
道中、楓たちは町を目指して歩いていると怪しげなものを見た。
「ぽこぉ」
「ぽこぽこ」
「うう、なんて可愛らしんだ。でもぽこりんだし……うう」
「ぽこ!」
「しょうがないなぁ、もう!」
ぽこりんが人間に媚を売り、餌をもらっている瞬間だった。
楓は、ぽこりんはゴミクズだな……と切に思った。
「あ、ぽこりんだ~」
「クレハはあんなのが好きなのか。ゴブリンみたいなことをしているあれが」
「ヴァネッサはわかってないね。あのぷよぷよした顔が可愛いんじゃない。ゴブリンはダメよ。あれは可愛いだけのゴミクズだから。とっても汚いから」
「それ……ぽこりんも変わらないんじゃ……」
「ぽこりんが汚れているのは心だけなの。体は綺麗だから大丈夫!」
「一体何が大丈夫なのか……」
ヴァネッサは頭を抱えた。クレハがぽこりんに目がないことについて頭を抱えた。
クレハとヴァネッサの話について、楓は一つ気になることがあった。
それは、この世界にいるいうゴブリンについてだ。
余りにも気になったので、ティオに聞いてみた。
「ティオ、ゴブリンってなんだ」
「あ、お兄さんは見たことないんだよね。ゴブリンっていうのは、ぽこりんと違った意味でひどい魔物だよ。
ぽこりんは、心が山賊のようなゴミクズさなんだけど、ゴブリンは違った意味でゴミクズ。
まず、ゴブリンはとっても汚いです。
そして、ゴブリンは半端な知能により、自分を神だと思っています。そのため、人間に媚を売るんじゃなく、神である私に餌を献上するですとか言い始めるの。
ゴブリンを一匹見たら、近くに1000匹いると思えっとか言われているんですよ」
「あ、うん。そうなんだ」
楓はゴブリンってゴキブリみたいだな……と思った。
そんなこんなで、人間に媚びているぽこりんを眺めていたら、それは突然現れた。
この世界に獣人と言う種は存在しないのに、それはまるで獣人のような化物だった。
「ガァァァァ」
「ヒィィィ」
獣人のような化物は、ぽこりんを切り裂いた。それにビビったぽこりんに餌をあげていた人は、一目散に逃げていった。
楓たちも、ここは引いたほうがいいと判断したのだが……
「ワレハジュウオウ……オルタルクスノメイニヨリ、オマエラヲコロス」
敵はオルタルクスの刺客だった。
いつか来ると思っていた。だからこそ、準備もしてきた。
だけど、その警戒が仇となる。
オルタルクスの名前が出て、一瞬逃げるのをやめてしまったのだ。
それが致命的な間となった。
獣王の筋肉が膨張し、駆け出した時に爆発音のような音を立てて、楓に向かって飛んだのだ。
そして、鋭い爪を持った腕を楓に振り下ろした。
「がうがう!」
楓の首筋に赤い雫が流れる。獣王の爪は、首に少し傷をつけ、止まった。
でも、なぜカノンの声で止まったかわからない。
「がうがう、がうがうがう」
「ナゼ、オマエガ……ック」
獣王は何やら悩んでいるように頭を抱え、カノンから逃げていくように去っていった。
「畜生……オルタルクスにはあんな化物いるなんて」
下手すると死んでいた楓は、今のままでは準備不足であることを感じた。
「大丈夫か、楓」
「クレハ、邪魔だ。俺が楓の面倒を見る」
「『バーストフレア』」
「「ぎゃぁぁぁぁぁ」」
「楓、大丈夫か?」
「それより、ヴァネッサ。お前が攻撃した二人を心配したらどうだ」
「あれなら大丈夫だよ。ツバでもつけとけば治る」
ヴァネッサが放った突然の攻撃に笑うフレアと攻撃を受けてダウンしているクレハとブラスにより場が和んできた。
それでも、獣王に襲撃されたことに変わりない。
獣王の対策をするためにも、早くハンバルの町につかなければと楓は思った。
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