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カオティックアーツ  作者: 日向 葵
第二章
52/74

51.5:特別編 カノンの一日

本編とズレた、ある日の日常です。


 アパダリアに戻った楓たちは、冒険者ギルドに化物討伐を達成したことを報告した。

 その後、宿を借りて、しばらくゆっくりすることにした。

 理由としては、楓の怪我がひどいことと、船の再開にまだ時間がかかる為である。

 そのため、ライトワークが燃えてから久々にゆっくりする時間ができたので、各々がアパダリアを楽しむことにしたのだった。


 ゆったりと過ごすことに決めて、カノンは遊びたくて仕方なくなった。

 しかし、フレアとクレハは魔力の使い過ぎで疲れており、ブラスは化物を馬鹿をやったので、外に出て遊ぶほどの元気はない。

 ティオは楓たちのお世話をしていた。

 誰もカノンと遊んでくれなかったのだ。


「がうがう!」


「ん、どうしたのカノン?」


「がうがうがうがう!」


 だから、カノンは一人で遊びに行こうと思った。

 でも、何も言わずに勝手に出て行ってしまうと、楓たちに迷惑が掛かる。

 だから、ティオに言ってから遊びに行こうと思ったのだ。


「うん、行ってきていいよ。ごめんね。一緒に遊んであげられなくて」


「がうがう、がうがうがうがうがう」


「はは、そういってくれるとありがたいよ。 ちゃんと夕方には帰ってくるんだよ?」


「がう!」


 ティオの了承をもらったカノンは、勢いよく宿を飛び出した。

 そのまま走っていき、アパダリアの外に出て行った。


 アパダリアは海に面した港町だが、陸に面している方に少し進んだ場所に、草原があった。

 そこは、ぽこりんぐらいしか生息していない、割と安全な場所。

 アパダリアに住む子供たちの遊び場にもなっている場所だった。


 誰か遊んでくれる人がいるかもしれないと行ってみたカノンだったが、最近の化物騒ぎのせいなのか、子どもが全然いなかった。


 適当に歩いていると、やつらが群れて現れた。


 そう、ぽこりんである。


 ぽこりんたちは、ひのきのぼうと泥の盾を持って、カノンを威嚇した。

 カノンにとっては取るに足らない敵なので、無視して別の場所で遊ぼうと考えた。


「ぽこぉぉぉぉぉぉ」


 この場を去ろうと後ろを見せたカノンをぽこりんたちが襲い掛かった。


 ぽこりんたちは、ひのきのぼうを振り回しながらカノンに向かって走ったが、隣にいるぽこりんに、振り回したひのきのぼうがあたり、連鎖的に倒れていった。

 そして、大泣きしたのだ。


「ぽここここここここここ」


「がうがう」


「ぽこ?」


「がうがうがう」


 大泣きしてしまったぽこりんを慰めるように、カノンが声をかけた。

 すると、「え、励ましてくれるの?」的な顔をした。

 ぽこりんたちは、カノンのやさしさに触れ、笑顔になる。

 そして……


 ひのきのぼうで、カノンを叩きまくったのだ。

 心優しいカノンでも、この行動には怒りを覚える。

 いや、当然のことだろう。

 突然襲い掛かったぽこりんたちが、勝手に自爆して泣いたので、かわいそうだなと思い声をかけた。

 なのに、この仕打ち。

 ぽこりんはやっぱり最低である。

 カノンは、こんな生物が大好きなクレハの意味が分からないと思いながら、ぽこりんたちを切り裂いた。


 カノンは【ライオネイラ】とよばれる、強力な魔物の子供。

 ぽこりんの攻撃でダメージを受けるはずもなかった。

 圧倒的な防御力と鋭い爪による攻撃で、ぽこりんはたちは、儚く散っていく。


 カノンの戦いっぷりを見ていた別のぽこりんは、流すものを流しながら逃げて行った。


「がうがう~」


 やっと邪魔者がいなくなったと思ったカノンは、鼻歌交じりの声をあげながら、草原を進んでいった。


 気持ちい風がカノンの毛並みを揺らす。

 あまりにも気持ちよかったので、少しばかし眠くなってきた。


 ちょっと休もうと思い、よさげな場所がないか周りを見渡した。

 すると、ふわっふわの草がまとまって置いてある怪しげな場所を見つけた。

 どうせ、ぽこりんが何か企んでいるんだろうけど、大丈夫だろうと思ったカノンはその場所を目指した。

 そして……落っこちた。


 それはだいぶ深い落とし穴だったのだ。

 こんな古典的な罠にはまったカノンは悔しがった。

 そして、怒りを覚える。

 絶対に切り裂いてやると上を見上げると、ニタニタ笑う、ぽこりんキングがいた。

 その周りには、穴掘りぽこりんが三体、ぽこりん大臣が二体、ぽこりんプリンセスが一体、ぽこりん大賢者が一体、ぽこりん奴隷が十体、ぽこりん勇者が一体、ぽこりん騎士が六体いた。

 名前こそ強そうだが、ぽこりんという種族は基本的に雑魚しかいない。一体一体が赤子と同じぐらいの力しかないのだ。

 それを補うかのように、悪知恵だけが働くようになったぽこりんの上位種たち。

 ぽこりん奴隷たちは、死んだ魚のような目をしていたが、それ以外のぽこりんたちは下衆な笑みをうかべていた。

 そして、ぽこりんキングが号令をだし、穴掘りぽこりんたちが、カノンを埋めようとしてきたのだ。


「がうがう!」


 吠えたところで何も変わらないと分かっていても、カノンは吠えずにいられなかった。

 なんとなくだけど、クズなぽこりんに出し抜かれたことが悔しかったのだ。

 どうにかして打開策を……と考えていたカノンは衝撃的な瞬間を目にする。


 なんと、ぽこりんキングが吹き飛んだのだ。

 そして、次々に他のぽこりんたちが吹き飛ばされ、消えていく。

 残されたぽこりん奴隷たちは、瞳に輝きを取り戻し、逃げ出した。

 一体何事か、と思ったカノンだったが、何が起こったのか、すぐにわかった。

 ぽこりんエンペラーが現れた。


 ぽこりんエンペラーとは、冒険者の推奨討伐ランクがXXXと言われている、最悪の魔物だった。

 ぽこりんの最上位種でありながら、普通のぽこりんとは違い、桁違いの力をもつ最強の一角。

 古龍種とも対等に渡り合えるほどの実力をもつ魔物だった。

 そんな魔物であるのにも関わらず、世界に多数存在するぽこりんエンペラー。

 その理由として、とても優しいな魔物なのだ。

 敵意を持って攻撃してこない限り襲って来ることはない。

 それどころか、困っているものを見つけたら率先して助ける、魔物の良心とも言われる魔物。

 本当にぽこりんと思えない性格をしていた。

 だけど、ぽこりんのような可愛らしさはなくなっており、まるでエイリアンのような容姿から、初めてあったものから怖がられるという宿命を持っている。


 冒険者の間では、最も身近な災厄と言われており、ぽこりんエンペラーを怒らせると、国が10分で滅びるとまで言われている。


 そんな最強最悪の善良ぽこりんである、ぽこりんエンペラーにも、嫌いなものがあった。

 それは、エンペラー以外のぽこりんである。

 可愛らしい見た目と、下衆な考えしか持たない最低最弱な魔物、ぽこりんが大嫌いだったのだ。

 噂では、善良のため、虐げられていたぽこりんのみ、エンペラーに進化できると言われている。そのためか、ぽこりん嫌いが激しい。


 今回の場合は、カノンがぽこりんにいじめられていると思い、憎きぽこりんを吹き飛ばしたのだ。

 また、ぽこりん奴隷を開放したのは、ぽこりん奴隷は善良なぽこりんが多いことなど考えられた。


 ぽこりんエンペラーは落とし穴に落ちてしまたカノンを助けた。


「がうがう! がうがうがう」


 カノンは助けてくれたぽこりんエンペラーにお礼をいった。

 そして、一緒に遊んでと言った。


 カノンの言葉に、ぽこりんエンペラーは泣いた。

 醜い容姿のために、初めてであったものには泣かれるぽこりんエンペラーに向かって、カノンは遊んでと言ったのだ。


 ぽこりんエンペラーにとって、とても嬉しいことだった。


 だからこそ、ぽこりんエンペラーはカノンと楽しく遊んだ。

 近づいてきたぽこりんどもを蹴散らしながら。


 ぽこりんエンペラーと楽しく遊んだカノンだったが、日も傾いてきて、そろそろアパダリアに帰らなけれんばいけない時間になった。


 ぽこりんエンペラーもカノンも、お互いに友達にたったと思ったので、分かれてしまうのは悲しい。

 カノンはアパダリアにいる間は遊びに来ると約束して、アパダリアに帰還した。


「がうがうがう!」


「あ、おかえりカノン。結構泥だらけ? じゃないか。楽しかった?」


「がう!」


 とても楽しかったよ、と元気よく返事した。

 ティオとカノンが楽しくおしゃべりして、シャワーを浴びに風呂場に向かうと、クレハとばったりであった。


 クレハはカノンを見た瞬間、発狂した!


「いやぁぁぁ、ぽこりん、ぽこりんが付いてるよぉぉぉぉ」


「え、クレハ姉さん? 何言っているの」


「だって、カノンに付いているのって、ぽこりんを切り裂いた時に付着した、ぽこりんよ。カノン、なんでぽこりんを殺すのよ!」


「がうがう」


「ティオ、カノンはなんだって!」


「ん、襲われたから仕方ない。あと、ぽこりんエンペラーが助けてくれたって!」


「え、ぽこりんエンペラー? あのかっこいいの!」


「がうがう!」


「お友達になったけど、一緒に会いにいく?」


「うん、いく!」


「クレハ姉さん。それは明日ね。とりあえず、カノンを洗ってあげないと」


「それもそうね。その状態じゃあねぇ……ぽこりん……ぐすん」


「ちょっと、ぽこりんで悲しまないでよ」


「うん、そうだね。ちょっと楓のところに行ってくる」


「お兄さんは怪我しているんだから、無理させないようにね」


「わかってるわよ。じゃあね」


「本当にわかっているのかなぁ」


「がうがう~」


 ティオに心配される姉貴分のクレハを残念な目で見つめつつ、ティオと一緒に風呂場に向かった。


 アパダリアにいるあいだ、楽しく過ごせるお友達ができたので、上機嫌なカノンは、夕ご飯をしっかり食べて、ぐっすりと眠ったのだった。


読んでいただきありがとうございます!

今回はコメディ要素を色々と入れてみました。

カノンの話、ちょっと書きたかったんです……


次回から本編に戻ります。

目指せ、魔女の国!


次回もよろしくお願いします!

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