表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カオティックアーツ  作者: 日向 葵
第二章
50/74

50:海上戦 紅蓮の過去 後編

かなりの残酷描写が含まれます。注意してください。

苦手な方は***以降から読みすすめてください。

***以降は本編に戻っているので、残酷描写が消えているはずです!

申し訳ありません……

 ニタァとした笑いが、ヴァネッサの背筋を凍らせる。

 ヘブライアは血まみれだった。まるで、自分が大怪我したか、大量お返り血を浴びているような気がした。


 そして、家の中に転がっている肉塊。

 最悪の状況が脳裏に浮かんだ。


ーーこの肉塊はもしかして……


「なかなか早い帰りだね。ヴァネッサ」


「これは……一体何なんだ。どういうことなんだよ」


「あはは、理解が遅くて困りますね。ねぇ、プリシラ」


 ヘブライアは、そう肉塊に語りかけた。

 ヴァネッサは理解してしまった。部屋に転がっている肉塊がプリシラであることに。


 だけど、それでも、信じたくなかった。

 討伐依頼のために出かける前、「行ってらっしゃい」と笑顔で送ってくれた妹が、帰ってきたら無残な肉塊になっている状況など。

 そして、プリシラを殺したのが、ヘブライアであることを。


 短い時間だけど、一緒に暮らしていて楽しかった。

 家のことを手伝ってくれたり、何より、プリシラと仲良くやっており、魔物が現れたとしても、剣で守ってくれていたヘブライアが、プリシラを殺すなんて思いたくもなかった。


 だからこそ、頭では理解していても、心がそれを受け付けない。


 なんで、どうして、何もかもがおかしい。


 ヴァネッサやプリシラが魔女であるとしても、そんなことは関係ないと言ってくれたヘブライア。

 普通の人間と魔女が共存して、平和に暮らせる。そのための第一歩となると信じていたのに。


 瞳の奥が熱くなる。頬を濡らす感触がはっきりとわかる。

 ヴァネッサは涙を流していた。

 そして、腰を抜かしたかのように、その場に座り込んでしまった。


「たはは、なんなんです。最愛の妹がここにいるんですよ。ちゃんとしてくださいな。お姉さん?」


 ヘブライアはプリシラだったものを蹴り転がす。

 その肉塊が床を汚しながら、ヴァネッサの目の前にやってきた。


「プリシラ……プリシラ……」


 ヴァネッサは、プリシラだったものに触れた。いつも触っている、魔物の死体。それと同じような、肉の嫌な感触が伝わってくる。


「なんですか、なんですか。そんな姿になってしまったプリシラは愛せないんですか?

 やっぱり、あなたは魔女ですねぇ」


「なんでよ、なんでなのよ。あなたは魔女とか関係ないといったじゃないか。なのになんで、どうしてだよ」


 二タァと笑いながら、ヘブライアはあるものを取り出した。

 肉塊の部分になかったもの。

 プリシラの首だった。


 ヘブライアは、プリシラの口の部分を動かしながら、ヴァネッサに「あなたに本当のことを教えよう」と言った。


「俺はねぇ、ただの騎士じゃないんですよ」


「どういうこと……まさか!」


「やっと分かりましたか。俺が所属していた騎士団は、聖騎士ですよ。しかも、特殊なねぇ」


「特殊な聖騎士?」


「はは、どうせあなたも死ぬんです。その前に教えてあげましょう。

 私が所属している聖騎士団は、教会でも大きな権力をもつ、オルタルクスが特別に作った特殊騎士団の一つ【第十特殊聖騎士団】というところに所属していました。

 ここの騎士団に所属しているものは、みんな変わり者でしてね。

 俺のように、魔女を殺して、死体を弄ぶのが趣味のやつの集まりでしたよ。

 よりたくさんの魔女を殺せるように、より魔女の死体で楽しめるように。

 そういうことを追求してやってきました。

 オルタルクスの人たちも面白い人が多くてですね。

 いろんな道具や薬品をこちらに提供してくれるんですよ。

 それで、プリシラと楽しみましたしねぇ」


 特殊聖騎士。

 その言葉は、ヴァネッサも聞いたことがあった。

 教会の教えに従い、魔女を断罪する通常の聖騎士。魔女を殺すという点では変わらないが、それでも魔女の死体は丁重に扱う。

 聖騎士が断罪することで、魔女に染み付いた邪悪なものを取り払うという考えの持ち主が多いからだ。

 たまに、お金のためにやっているというものもいるが、それでも、魔女の死体は丁重に扱う。


 だが、オルタルクス直属のものは異常者が大量にいる。

 その中で、一番有名なのが特殊聖騎士団だった。


 魔女になら何をしてもいい。人体実験、拷問、剣術の幅を広げるための試し切り、そういった異常者が大量にいるのだ。

 魔女は人間じゃない。魔物とかと変わらない。だからこそなにをしてもいい。

 普通の人間が、動物実験をして、薬品などの性能を確かめるように……


「ああ、そういえば、プリシラは可愛かったですね。俺も楽しい時間を過ごせました。

 それもこれも、ヴァネッサが3日も家を開けてくれたおかげですねぇ。

 聞きたいですか? ねぇ、聞きたいですか」


 そう言いながら、ヴァネッサの顔を覗き込むヘブライア。だけど、ヴァネッサはプリシラだったものを見つめたまま、動かなかった。

 いや、動けなかったのだ。

 ヴァネッサは、ヘブライアの話を聞いて、後悔の渦に飲み込まれた。途中から、ヘブライアの話なんて耳に入ってこなかった。

 今では、泣きながら「プリシラ、プリシラ」と呟くばかりになっていた。


 そんなヴァネッサを、ヘブライアはつまらなそうに見ていた。

 だから、もっと楽しいことをしようと、ある道具を取り出した。

 それは、一本のナイフ。だけど、普通のナイフじゃない。

 異常者たちが楽しめるようにオルタルクスが開発した、痛覚倍増と負の心が沸き上がってくる聖呪具だった。

 それを、楽しそうにしながら、ヴァネッサに投げつけた。

 まっすぐ飛んだナイフは、バネッサの肩に食い込んだ。


「がぁあああぁああぁ」


 ナイフにより痛覚倍増あれ、激痛がヴァネッサを襲う。

 ヴァネッサが叫んだ瞬間、ヘブライアがヴァネッサのことを押し倒し、肩に刺さったナイフを押し込んだ。

 肉と肉が切れる感触。押し込まれるたびに、襲う激痛。ヴァネッサの横にあるのはプリシラだった肉塊。憎しみという感情が、心を塗りつぶしていくような感じがした。


「いいね、いいね、いいね。そそる顔だよぉ、ヴァネッサ」


「痛い、痛い、痛い。

 絶対に、絶対にお前を殺してやる。絶対に殺してやる」


 痛みながらも、湧き上がる憎しみを言葉にするヴァネッサを見て、ヘブライアは鼻で笑った。


「プリシラとは違う感じになりましたが、ヴァネッサも、ヴァネッサで面白いですねぇ。

 でも、何か物足りないなぁ。このまま拷問して、殺してくれと懇願するような状態に落とし込んで、自ら死なせるのも面白いと思ったんですけど、絶望が物足りないのかな。このままだと、憎しみだけで終わってしまいそうだよ。

 あ、そうだ!」


 何かを思いついたかのように、ヘブライアがパンっと手を叩いた。


「プリシラの話をしましょう。あなたが大好きで、大切なプリシラの最後をあなたに教えてあげましょう。

 もしかしたら、もっと深い絶望が生まれてくるかもしれない」


 不敵に笑うヘブライアを、ヴァネッサは、キッとした目で睨む。


 睨まれたヘブライアは、もう一本ナイフを取り出して、ヴァネッサを刺した。

 これは、対魔女用に開発された、魔法の発動を妨害する道具だった。


 プリシラを殺された悲しみと、激痛により、魔法を使うことができないヴァネッサだが、何かしらで魔法を使い、反撃されたら、ヘブライアでも、めんどくさいと感じてしまう。

 そんな状況になったら、自分自身が楽しめなくなってしまうので、封魔の聖具を使ったのだ。

 このナイフには欠点があり、上位クラスの強力な魔女には効き目がない。

 それは、封印できる容量を超えてしまっているからだ。

 だが、ヘブライアから見て、ヴァネッサは魔法を封印できるだろうと判断したので、ヘブライアは使うことにしたのだ。


「はは、これでもう魔法が使えませんよぉ」


 そして、ヴァネッサを拘束すると立ち上がり、歪な笑いをしながらヴァネッサを見下ろした。


「じゃあ、語ってあげましょうかねぇ。

 ヴァネッサが仕事のため、ここを出て行った翌日ぐらいですかねぇ。

 プリシラが俺に告白してきたんですよ。

 俺は、やっとこの時が来たと心が躍りました。

 だって、普通に痛めつけるのは面白くないでしょ?

 だから、俺は了承して、幸せの絶頂に至ったプリシラを………刺したんですよ」


 ヘブライアは、「これでね」と言い、ヴァネッサを刺したものと同じナイフの聖呪具を見せつける。


「もう、何も言わないでくれ……」


「いやですねぇ。ああ、その表情がまたいい。

 もっと聞かせてあげましょう。

 その後プリシラは、激痛で叫んだあと、どうして、なんでと呟いていましたよ。

 プリシラは魔法が全然使えない。

 だから、簡単に組み伏せられました。

 そして、最初にあれを使ってやったんですよ」


 ヘブライアがまた変なものを取り出した。

 それは、異常者たちが使用する拷問器具の一つ。


『苦悩の梨』


 それは、洋梨のような形状をした道具であり、内部から破壊する恐るべき拷問器具だった。


 苦悩の梨は取り付け部のネジやバネによって、先端から縦方向に3つか4つの部分に別れて拡張できる仕組になっている。


 作られた当初は、口に苦悩の梨をぶち込んで拡張させる。

 食事もままならない状態になり、飢餓感を与える拷問器具だった。

 それが、時代と共に口以外のところにいれて、拡張させ、体を内部から破壊する恐るべき拷問器具として使われるようになったのだ。


 それをプリシラに使われたと聞いて、声すら出せなかった。

 プリシラを守れなかった無念で頭がいっぱいになってしまった。


「はは、苦悩の梨だけでこれですか。でもこれだけじゃないんですよ」


 そう言って、ヘブライアは他の道具も取り出した。


『親指締め機』

『異端者のフォーク』

『ハゲタカの娘』

『九尾のネコ鞭』

『膝くだき器』


 その他、ありとあらゆる拷問器具が取り出された。

 それらは、魔女の存在が公になる遥か昔、異端審問と魔女狩りを行うために作られた拷問器具だった。


「古き時代のものは素晴らしい。このようなものを使って、魔女かどうかを判断していたんですから。

 いまじゃあ、罪人ぐらいにしか使っていませんが、本物の魔女に使う分には問題ないでしょう」


 そう言いながら、拷問器具を愛でるヘブライア。

 ヴァネッサは、ヘブライアの異常性に恐怖した。

 だけど、その感情だけじゃなかった。

 大切なプリシラを、そのようなひどい目に合わせたヘブライアが許せなかった。

 痛みを倍増させ、負の感情を増幅させるナイフがあったからか、ヴァネッサの心は憎しみと復讐心に塗りつぶされる。


「殺してやる、絶対に殺してやる!」


 しかし、そんな願いは届かない。魔法を封印されてしまい、何も出来ないヴァネッサには、ヘブライアに攻撃する手段が何も無い。




『力が欲しいか』


 ヴァネッサはそんな声が聞こえた気がした。

 空耳だと思ったけど、そうでもない。

 だから願ったのだ。あいつを殺す力が欲しいと。

 そしたら、濁った魔力が湧いてくるのを感じた。


「あははは、なにを言ってるんですかぁ。

 魔法も使えないあなたが。

 さて、あなたにはどれから使いましょうかねぇ」


 ヘブライアは、楽しそうに拷問器具を選び出した。だが、ヘブライアは、ヴァネッサの変化に気が付いてなかった。


 魔法を封印をされているはずのヴァネッサから、黒く濁った炎が溢れ出した。

 そして、ヴァネッサに使用されていた、聖具、聖呪具、拘束具が砕け散った。


 普通の炎なら、それ相応の温度に達しないと溶けださない。どんな炎を使ったとしても、砕けることはありえない。とても異常な壊れ方をした。


 ヘブライアが異変に気がついたのは、ヴァネッサが解き放たれた後だったのだ。


「許せない。あたいの大切なプリムラを。絶対に許せるものかぁぁぁぁぁぁ」


 ヴァネッサにはもう、周りすら見えていない。

 ありとあらゆるものを燃やし、暴走した。




 そして、気がついたら、村ごと全て焼かれ、焦げた大地だけが残った。

 草木は一本も生えてなく、全てが炭と化していた。



***



 もう、あんな悲劇を起こしてはならない。

 人間なんて信用しちゃダメなんだ。

 ずっと心に言いかけて戦ってきた。

 人間の魔の手から魔女を救ってきた。


 魔女を救うたまにあるのが魔法だと信じてきた。


 あの時出せた黒い炎は、あれ以来一度も出せたことがない。

 何故、炎が黒く染まったのか、あの声も何だったのか分からないが、黒い炎が出せたあの日から、ヴァネッサの魔法の威力が上がった。


 そして、魔女の国をつくっていると言った、一人の魔女が現れた。


「おぬしの力、魔女のために使ってみんか?」


 そう問われた。だから、魔法を魔女のために使うとヴァネッサは誓ったのだ。

 そして、魔女の国の国民になった。

 得た力を魔女のために使い続けたのだ。


 あの日出会った魔女は、魔女の国のトップとなったが、ヴァネッサとの思想と違うことを言い出した。

 それは、人間との共存。

 別に同じ場所に住まなくてもいい。

 魔女とはいえ、普通に生きている。

 国という枠に収まり、共に世界に生きていくものとして、かかわり合っていく。

 これも、一種の共存と言えるのではないか、と言ったのだ。

 そして、お互いのことを分かり合い、共に過ごしていく仲間となればいい。


 だが、世界の反応は思っていたのと違ったのだ。

 魔女の国の噂を聞きつけて、魔女を粛清しに来るものが多く現れた。


 だからこそ、魔女の国がある大陸に近づけなくするために、忌まわしき、【オルタルクス】が作った聖呪具を盗み出して、ヴァネッサが設置したのだ。


 だけど、ヴァネッサの思惑と違うことが起きた。

 まさか、魔女が討伐しに来るなんて思ってもいなかったのだ。

 だから、化物を処分して、魔女を助けようと思ったのに……

 そこには、魔女以外の者たちがいた。


 それを見て、ヴァネッサの心がチクリといたんだ。それを悟らせないために、ヴァネッサは話をした。


 魔女と人間が一緒にいることが許せなかった。どうしても、どうしても許せなかった。


 話をしていると楓という人間が、あろうことが「仲間を守るために」などと戯言を言いだしたのだ。

 あの、ヘブライアと同じようなことを。

 どうせ裏切るに決まっている。

 あいつも、どうせ同じだ。


 でも、もしかしたら……


 そんな考えが脳裏に浮かんでしまった。

 だから試したのだ。

 本当に魔女を守るのか。


 楓は、クレハを守るように動いた。


 ヴァネッサは、何故……という考えが浮かんでしまった。


 もし、口だけのやつなら、守る行動なんて取らないはずだと、ヴァネッサは思った。だからこそ疑問が浮かんだのだ。


 なんで守るんだと。


 そして、思い出したのだ。昔描いた夢を。

 プリシラと笑いながら描いていた夢を。

 村の人たちに魔女だと明かして、それでもなお一緒に暮らしてくれる。人間との共存の夢を。

 楓に守られているクレハを見て、ヴァネッサはある思いが湧いてきた。


 妬ましい。


 何故、自分のときはダメだったのか。

 何故、クレハたち魔女と楓たち人間が手を取り合っているのか。


 いや、そんなわけ無いとヴァネッサは気持ちを切り替える。

 認めたくなかったのだ。


 なのに……あろう事か、楓はヴァネッサのことまで救ってやると言いだしたのだ。


 その言葉が怖かった。また、騙されると思うと恐怖した。

 だけど、信じてしまいそうな自分が居ることに気がつき、嫌になった。


 だから、過去の出来事で生まれた、憎しみと復讐心で心を塗りつぶそうとした。

 そうすれば、心が少しだけ落ち着く。そんな気がした。

 そこに、新たに加わった嫉妬という名の感情。

 ヴァネッサは、纏う魔力が黒い感情に侵食されている感じがした。

 そう、あの日、あの時と同じように……


 ヴァネッサの炎が黒く染まっていく。

 黒く、濁った炎。だけど、ヴァネッサは直感でわかっていた。この炎は、憎しみでも復讐心でもなく、嫉妬により黒く染まった炎だと。


 妬ましい、妬ましい、妬ましい。


 でも、そんな感情は認めたくない、絶対に認めたくないとヴァネッサは思った。

 その矛先が、楓に向かう。


「お前を絶対に認めない。どうせあいつと同じなんだ。あたいは、お前を認めない!」


 認めない、そう言っているのに、なんでそんな目をするんだと、ヴァネッサは思った。

 嫉妬心のこもった炎。先ほどまでと全く違う黒い炎。威力も格段に上がっているはずだ。

 この変化がわからないはずないのに、楓の目は「お前を救う」と語っているように思えた。


 自然と体が震える。本当に、こんな人間がいるとしたら……人間と共存できる未来を作れたのではないだろうか。

 だとしたら、今までやっていたことは間違っていたのか?

 共存の夢を諦めたせいで、かけ離れていっているのではないのか?

 そのような考えが浮かんできた。


 いや、そんな考えは間違っている。絶対に間違っている。ヴァネッサは自分が行ってきたことを間違っていないと信じ込むことにした。

 そしてヴァネッサは、自分の考えを、心を惑わす楓を睨みつけた。


「お前みたいに、心をかき乱す奴がいるから、魔女が不幸になるんだよ。絶対に認めねぇ」


 睨みつけ、認めないと言っているのに、何故そんな目をすると思った。

 もう、泣き出したい、逃げ出したい。そんな気持ちも湧いてきた。

 ヴァネッサは、自分がこんなにも弱かったのかと呆れそうになる。


「お前に何があったのか、俺にはわからない。だけど、泣いているやつをほっとけるわけないだろ!」


 それは、反則だろ。もう心をかき乱さないでくれ、とヴァネッサは心の中で叫んだ。


「ーーーッ、そんなわけ無い。泣いてなんかいない。嫌だ。かき乱すな。お前さえ、お前さえいなければ」


 そう、お前さえいなければ、人間を憎み、魔女を守るために、救うために戦い続けることができるんだと、ヴァネッサは思った。

 だからこそ、楓を……殺すしかないと思ったのだ。


 ヴァネッサは、変な声を聞いたような気がした。

 『力が欲しいか』と。

 それは、あの日にも聞いたことがある声だった。

 また願ってしまった。『力が欲しい』と。


 そう願ったら、ヴァネッサの頭の中で、パズルのピースが合わさるように、魔法が浮かび上がってくる。

 その魔法は、全く知らない魔法。

 普通ならこんなことはありえない。

 悪魔にでも干渉されていなければありえないことだった。

 だけど、いまはどうでもいいと、ヴァネッサは思った。

 自分をかき乱すあいつがいなくなったら、いつもどおりでいられるとヴァネッサは思ったのだ。

 だから、負の感情と願いを込めて魔法を構築していく。


「赤い獅子は炎の瞳を持って全てを焼き尽くす悪魔。我がもつ負の心を贄として、悪意の炎を撒き散らせ【アロケン】」


 魔法により、纏っていた黒い炎が集まりだし、変化していった。

 赤い獅子、炎のような瞳を持ち、鎧を着た姿の悪魔。


「FAAAAAAAAAAAAAAAAA」


 ヴァネッサが使った魔法により、72柱が一つ、36の軍を率いる大悪魔【アロケン】が召喚された。

読んでいただきありがとうございます!

次は海上戦のクライマックス。

次回もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ