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カオティックアーツ  作者: 日向 葵
第二章
48/74

48:海上戦 魔女との戦い

よろしくお願いします!

 銃声と爆音が鳴り響く船上。

 船は大きく揺れており、落ち着きがない。

 その理由は、楓とヴァネッサが激闘を繰り広げているからだ。

 両者とも、自分の想いをぶつけるかのように戦っていた。


「か、楓。私が……」


「やめといた方がいいぞ。クレハ」


「ブラス。何を言ってるの!」


「自分の信じるもの、想いのぶつけ合いだ。邪魔するものじゃない」


「でも……」


 クレハは心配そうに、楓の方を見た。

 楓のカオティックアーツはスゴイが、楓自身の身体能力はあまり高くない。

 もしかしたら、と思うと不安になってくる。

 体が震えるほどの恐怖を感じる。


 ギュッとティオがクレハの手を握った。

 ティオも若干震えているものの、クレハのように加勢しようとは言わなかった。


「クレハ姉さん。大丈夫。お兄さんならなんとかしてくれる。

 だって、あの魔女さん。すごく悲しい顔している気がするんだ」


「なんでわかるの?」


「ただ、ただなんとなくなんだけど。何か大事なものをなくしたから、許せないように見えたの。

 なんか、カノンのお母さんが助けられなかった時のお兄さんに少しんている気がするんだ」


「それは……」


 クレハの目から見て、ヴァネッサは異常な殺意を楓に向けているように感じらる。

 そこに悲しさがあるようには見えなかった。


 クレハたちも敵だと言っていても、それを行っていた時の表情と今のヴァネッサの表情がまるで違う。クレハにはそう感じられた。

 クレハでも気が付けることなので、当然楓も気がついているのだろうと、全員が思った。


 楓に勝ってほしい……そう祈って、戦いの行く末を見守った。


***


「っち、なかなかしぶとい。これでどうだぁ」


 ヴァネッサが、無詠唱の炎の魔法を打ち出した。

 それを、楓は【ハーフ・エナジー・グラトニー】によって、かき消す。本当なら、【ブーストリング・マークⅡ】と連結させ、【インフィニティ・マークⅣ】の威力強化をしたかった楓だが、ヴァネッサの攻撃は激しすぎて、連結させる暇がない。

 あったとしても、エネルギーを受け渡す際に、吸収する機能が一時停止するため、ヴァネッサの攻撃を無効できなくなる。


 ヴァネッサが放つ炎の魔法が激しさを増す。

 打つたびに数が増えて言っているようだった。

 楓も、吸収し続けたが、ついに限界が来た。

 【ハーフ・エナジー・グラトニー】から煙が吹き出した。

 エネルギー供給高によるオーバーヒートだ。

 これ以上は使えないと判断し、楓は【インフィニティ・マークⅤ】を取り出した。


 インフィニティシリーズの5番目に当たるカオティックアーツ。

 形状は従来のと変わりないが、大きく機能変更している箇所がある。

 まず、エネルギー生成する機能を全て取り除いた。その代わり、新たに加えた機能が【ハーフ・エナジー・グラトニー】と同様の、魔法や聖法などの外部エネルギーを吸収する機能だ。【ハーフ・エナジー・グラトニー】より、吸収率は下がる為、全ての攻撃を吸収し続けることは不可能。

 しかし、ある程度吸収することで、相手の攻撃の一部を無力化できると楓は確信している。


 そして、もう一つ加えた機能が、威力調整機能である。

 今までは、火力重視の考え方であったが、低出力版を作成することにより、速度と火力の関係性を楓は思い知った。


 火力を高めようとすると、多くのエネルギーを消耗する。また、高密度のエネルギー弾にすることで、当たった時の爆発力は、一撃で凶悪な魔物を屠れることだろう。

 だが、一撃を与えるのに時間がかかりすぎるのだ。

 不意打ちで使うのなら最強かもしれないが、真正面から戦うのであれば話は別。

 相手には警戒され、本来の力が出せないであろう。

 その欠点を補うため、火力を抑えて、連射できるようにした。

 威力は下がるものの、素早く対応と攻撃ができ、正面から戦うことに適していた。


「変な武器を出しやがって。あたいの炎だって負けちゃいないんだよ!」


 ヴァネッサが、紅蓮に燃え上がった炎が球状とたる。

 それが一つだと良かったのだが、空を赤く染めるような、無数とも思われるの炎弾が現れる。


「アブソープション」


 楓の一声で【インフィニティ・マークⅤ】の吸収機能が作動する。


「何をやっても無駄なんだよ!」


「それはどうか、確かめてみろ」


 たしかに、無駄あがきなのかもしれない。

 それでも、諦めず、楓は炎弾の魔力を吸収して、吸収したエネルギーを吐き出すように攻撃を放った。


「早く諦めろ、ここから去れ。この先は、人間が来ていいところじゃないんだよ」


「じゃあ、何故、同じ魔女のクレハやフレアさんを襲うんだ。ここから遠ざけたいだけなら、同じ魔女を襲う必要性なんてないじゃないか」


「はん、わかりきったことを。あいつらは何も分かっちゃいないんだよ。

 あいつらが何をしているのか、その結果どうなるのなぁ」


 炎弾とエネルギー弾が飛び交う、激しい攻防の中、言葉で想いをぶつけ合う。

 炎弾のほとんどは海に着弾して、大きく船が揺れる。

 足場が不安定になり、楓は大きく転んだ。


「お前たちが魔女を不幸にする。そうさせる前に、あたいが地獄に送ってやる」


 ヴァネッサが3つの炎弾を放った。

 量は少なくなったが、一つ一つのエネルギーを凝縮させている。

 そのため、高火力になることが予想できた。


「っち、ガトリング」


 楓も負けじと、連射方式で攻撃を放つ。

 たしかに、ヴァネッサの炎弾に比べたら火力的に負けているかもしれないが、【インフィニティ・マークⅤ】の威力も充分高い。連射は若干威力が落ちるのだが、吸収したエネルギーが豊富だったため、従来の威力に近い状態で連射できた。

 連射したエネルギー弾と炎弾がぶつかり、総裁した。

 いや、一発だけ、ヴァネッサに向かって行った。


 その一発がヴァネッサの頬を掠る。

 ッーーと赤い血が垂れる。

 ヴァネッサは、頬に触れて、血を確認すると、表情が青くなっていった。

 何かを思い出したかのように、震えてきた自分自身の体を抱きしめるようにする。


 そのスキに、楓は起き上がり体制を立て直す。

 顔をあげてヴァネッサの様子を確認し、楓は何かがおかしいということに気がついた。

 楓が思うヴァネッサの第一印象は、魔女に誇りを持ち、それ以外を敵だと思っている、そんな奴だと思った。

 そして、魔女以外の人間を敵視していることを強く言っていた。

 人間に味方する魔女も敵だと……

 こちらの話を全く聞かずに……

 だから、ヴァネッサが間違っている。それを正さなければいけないと楓は思った。

 だが、よくよく考えてみると、やっぱりおかしかった。

 突如現れて化物を倒し、クレハに攻撃した。

 その時、微妙に攻撃がズレていたのだ。

 そのおかげで、楓がクレハを守ることができたのだ。

 そして、ヴァネッサが繰り出す攻撃のほとんどは、海に消えている。


 もしかして、ヴァネッサのことを勘違いしているのかもしれない。

 楓は強く思った。

 本当に敵視しているのなら、化物じゃなく、最初っから攻撃してくればいい。

 じゃあ、何故ヴァネッサは攻撃してこなかった。

 敵だと分かっているのなら、船ごと沈めてしまえばいい。

 クレハやフレアさんがいるからなのか? という考えが頭を駆け巡る。


「お前は、なんで魔女を守ろうとするんだよ。お前にとって、魔女は敵なんだろ?」


「そんなの決まっている。仲間のためだ」


「本当に、本当にそうなのか?」


「ああ、例え相手が魔女だとしても、俺の仲間を襲うようなら戦うさ。でも、殺したりはしない。殺して仲間が悲しむんだったら絶対にしてやるものか」


「……嘘だ」


 ヴァネッサが頭を掻き毟る。何かに怯え、何かに憤怒しているような、そんな雰囲気が漂ってきた。


「嘘だ、嘘だ、嘘だぁ。

 そうやって、お前らは、魔女を騙すんだ」


「俺は、そんなことしない。するわけがない」


「絶対に嘘だ。魔女よりも人間の方が悪魔さ。騙し、犯し、殺し、苦しめる。あいつのように、あいつのように。お前らの方がよっぽど悪魔さ」


 ヴァネッサの瞳に、一筋の涙がこぼれる。

 心の奥底から、苦しそうに、怯えながら、怒りながら、楓を睨んでいた。

 そして、ヴァネッサは楓にしか聞こえないぐらいの声の大きさで、呟いた。


「あいつも同じことを言って裏切った。だったらお前だって、お前だって。あたいは、魔女を守るんだ。そのために、悪役にもなってやる」


 燃え上がる炎と、殺意ある目、そして、今の言葉で、ヴァネッサに対するイメージが間違っていることを、はっきりと感じたのだ。。


 ヴァネッサは、クレハやフレアを見捨てようとしていなかったのだ。

 楓たちを仲間として信じている、クレハやフレアを、人間という魔の手から救う。そのために悪役を担う。そのため、わざと攻撃したのだ。

 そして、化物を倒したのも同じ理由だろう。


 ヴァネッサは魔女を守るため……

 楓は、仲間を守るため……


 守る対象は違えど、同じ想いを胸に抱いていたのだ。

 そして、ヴァネッサがつぶやいていた、「あいつも同じ」という言葉。

 おそらく、ヴァネッサも、クレハと同様、楓たちみたいな仲間がいたのだと、楓は思った。

 そして、裏切られたのだ。だからこそ、楓のことが許せないんじゃないだろうか。

 だからこそ、何かに怯えたような表情が見られるんじゃないだろうか。

 楓はそう感じたのだ。


 それでも、楓には譲れないものがある。

 クレハ、フレア、ティオ、カノン、ついでにブラス。

 仲間を失うこと以上に、悲しいものなんてない。

 だからこそ、楓は負けるわけには行かなかった。


「お前の考えが間違っている。それは訂正するよ」


「何……」


「戦っているうちに、お前の本音……気持ちがわかったような気がするからな」


「そうやって、あたいを惑わすつもりかい?

 あたいの気持ちがわかるわけないだあろう」


「まぁ、全てが分かるわけじゃないけどな。

 でも、お前にも守りたいものがあるように、俺にだって譲れないものがある」


「は、言ってろ。どうせ、心の中では魔女を殺すことしか考えていないんだろ」


「そんなわけない!

 クレハたちは、俺のことを拾ってくれた。

 俺に場所をくれた。俺の大切な仲間だ」


 そして、楓はこの世界に来たことを思い出した。

 楓はこの世界に新たな技術を求めてきたんだ……

 人のために、人を幸せにするために。

 魔物に襲われても生きていけるように、武器を中心に開発していたが、そうじゃない。

 楓が本来作りたかったのは、誰かを幸せにできる新たな技術だ。


 楓の目に映るのは、怒りと悲しみに飲み込まれたヴァネッサの姿。

 楓がやるべきことは……

 その答えが、見つかったような気がした。


「俺が……その怒りと悲しみを全て吹き飛ばしてやる。俺のカオティックアーツで」

読んでいただきありがとうございます!


あれ、今回で海上戦のを終わらせるはずが……

描写を考えて書くと、難しいです。

あと、心情描写は難しい……


次回もよろしくお願いします!

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