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カオティックアーツ  作者: 日向 葵
第二章
44/74

44:化物討伐研究会

よろしくお願いします!

「さて、こんなものか」


 楓、泊まっている宿の模様替えをしていた。

 ベッドなどの家具類をディメンションリングに押し込んで、机や解析用カオティックアーツ、測定機器などを取り出した。

 宿に来た当初の面影は無く、もはや魔改造というレベルで、部屋のレイアウトを変更する。

 宿屋の一室というより、どこぞの研究室というような状態になっていた。


「お兄さん……こんなことして、宿屋の店主に怒られたりしないよね」


「はは、ティオは心配性だな。

 楓がそのことを考えていないわけないじゃない。

 ねぇ楓!」


「いや、見られたら怒られるぞ、たぶん」


「「え……」」


 楓の言葉に硬直するティオとクレハ。

 もう怒られている時のことを想像したのか、二人は涙目になっていた。

 ティオならわかるけど、クレハは泣くなよ……などと、ひどいことを思っている楓だが、何も考えず、部屋のレイアウトを変えているわけじゃない。

 だから、怒られる心配もしていなかったのだ。


「大丈夫だ。ブラスがなんとかしてくれる」


「? よくわからんが、俺に任せろ!

 楓のためならなんでもしてやるよ!」


 楓のことを溺愛しながらも、楓の言葉の意味を何も分かっていないブラスは、俺に任せろと豪語する。

 ティオとクレハは何かを察したのか、悲しそうな目で、ブラスを見つめてた。

 カノンに至っては、ブラスを哀れんでいる。

 頑張れブラス、負けるなブラス。


「じゃあ、海の化物を討伐するために、情報整理して、武器の開発をしよう」


「やっぱり、討伐しなきゃダメなのかな」


「ダメだろう。目的の別大陸にいけないじゃないか」


「そこはほら、レインあたりがなんとかしてくれるんじゃない?」


「ああ、レインな。レインなら帰ったぞ。

 さっき挨拶に来た。

 クレハたちも知っているかと思ったが?」


 楓の言葉に首を横に振るクレハだが、ブラスとティオ、それにカノンまでが首を縦に振った。

 どうやら、知らないのはクレハだけのようだ。

 なぜ、クレハだけが知らないのかは、大体察しがつくと思う。

 クレハはぽこ派だったから、レインは来なかったのだ。


「あの、マナ派め!」


 唐突に立ち上がるクレハは、ここにはいない、マナ派のレインに向かって叫んだ。


 ドンドンドンと! っと、壁を叩く音が響き渡る。

 どうやら、宿の壁は少し薄目で、クレハの叫びがうるさかったようだ。

 隣の部屋に泊まっている人の、壁ドン抗議である。


「私は悪くないよぅ」


「いや、お前が悪いだろう」


 楓の言葉に頷く一同。

 クレハは、とっても落ち込んだ。


 海の化物討伐は船の上での戦いになるため、長距離武器を作成することにした。

 だが、本当に武器だけで討伐できるか、楓は疑問に思った。


「なぁ、領主の兵や冒険者が化物討伐に行ったんだよな。

 どうやって戦ったんだ?」


「えっと、船の上で聖法を放ったりして戦ったらしいよ?

 あとは剣での攻撃かな?」


「どうやって剣で戦うんだよ。

 相手は海の上にいるんだろ?」


 まさか、剣で海の化物と戦おうとするバカがいるとは思わなかった楓は、どうやって戦ったのか気になった。

 クレハが説明しようとしたとき、ブラスが手で遮った。

 どうやらブラスが説明してくれるようだ。

 クレハは、渋々引き下がる。


「楓、海の化物と、どうやって剣で戦うかってことなんだが。

 海の化物と剣で戦うのは諸刃の剣なんだ」


「ん? どういうことだ」


「化物が船を攻撃して、体の一部が船にめり込んだ時に剣で攻撃する。

 化物が倒れるか、船が沈むかの勝負となるんだ。

 で、船が沈めば全滅。

 諸刃の剣だろ?」


 馬鹿だろう……と強く思う楓だった。

 船の耐久度がない状態で、海の化物と戦う。

 海の化物相手に水中戦では絶対に勝てないだろう。

 地の利は確実に相手にある。

 だからこそ、船を壊されることをなんとしても阻止しなければならない。

 だが、ブラスの話を聞いていると、あえて船に攻撃をさせて、剣で無理やり化物を討伐しようとしている姿が目に浮かんだ。

 それでは絶対に勝てないだろうと楓は思った。


「予定変更をする。

 遠距離と防御に適しカオティックアーツを開発する。

 船が沈めば、俺たちの命はない。

 おそらく、今回の戦いでは、クレハ、フレアさん、ティオが攻撃、ブラスとカノンが化物から船を守るような感じになると思う」


「あれ、楓はどうするの?」


「俺は臨機応変に動くさ。

 長期戦は不利になるはずだ。

 船が壊れたらどうしようもならないからな。

 基本は攻撃に集中する。

 防御側が危険だと思ったら、防御側にまわるさ」


「わかったわ。そのことをフレアさんに話に行ってくるね」


 クレハは、おそらくお酒を飲んでいるであろうフレアのもとに向かった。

 部屋に残ったのは、ブラス、ティオ、カノンだ。

 楓が椅子に座りながら、新たなカオティックアーツを製作していると、ティオがカノンを抱えて楓の横に来た。


「ん、どうしたんだティオ」


「えっと、お兄さんがやっていることが面白そうだから」


「ほう、面白そうか。だったら、一緒にやってみるか?」


「うん、やってみたい!」


 大喜びするティオの頭を撫でやり、ティオと楓、カノンと一緒にカオティックアーツを製作することになった。

 取り残されたブラスは、「は、まさかティオは!」などと言っていたが、楓は無視することにした。


「すっごく、すっごく面白いです。お兄さん!」


「がうがう!」


「おお、そうかそうか。

 それは良かったよ。じゃんじゃん作っていこう。

 わからないことがあったら聞いてくれ」


「は~い」


「がうがう~」


 カノンに聞かれたらどうしよう、と若干不安に思いつつ、カオティックアーツの開発は順調に進んでいった。


 ティオとカノンが手伝ってくれることで、全てのカオティックアーツが完成した。

 ブラスは体育座りをしながら、天井のシミの数を数えていた。

 若干、目がうつろだったので、楓とティオとカノンは見なかったことにした。

 ティオが、楓の腕にしがみついて、興奮のためか、若干頬を染めながら「楽しかったです。お兄さん」などと行ってきた。


 ティオは甘えん坊だな、とティオの頭を撫でる楓の姿は、まさに、お父さんだった!

 いや、年的には、お兄さんであっているが、傍から見ると、父に甘える息子と、息子を褒める父にしか見えない。

 少なくとも、ブラスの目からそう見えていた。


「いやぁ~いいお湯だったよ!」


 湿った髪をタオルで拭きながら、パジャマ姿のクレハが、楓の部屋に入ってきた。


「なぁクレハ。部屋、間違えてないか?」


「え、間違えてないけど?」


 頭を抱える楓は、ティオに視線を向ける。

 きっと、ティオなら何か知っているだろうと思ったからだ。

 だが、ティオの反応はクレハに抗議するような感じだった


「クレハ姉さん。僕とお兄さんが同室なのに、なんでクレハ姉さんが入ってくるの!」


「ふっふ~ん。今日は寝かさないぞ!

 これで遊ぶのだ!」


 クレハが出したのは、トランプのようなカードだった。

 クレハが言うには、宿屋のお姉さんから借りてきたらしい。

 とっても面白そうだったので、楓のところに遊びにきたのだ。

 そこで、我を取り戻すブラス。


 ブラスは「だったら罰ゲームを考えよう!」などと言い出した。


 ブラスの思考が手に取るように分かる楓は、ディメンションリングから、ハリセンを取り出して、ブラスを殴る。


 楓が思ったブラスの思考はこうだ!

 罰ゲームで楓とイチャイチャしよう!


 それはなんとしても阻止しなければならなかった。

 楓、貞操の危機。

 ブラスの思惑に気がついたのか、クレハも乗り気だった。

 いや、クレハの場合は、ただ遊びたいだけのようだ。


 襲いかかる魔の手。

 それを阻止しようとしたのは、他ならぬティオだった。


「お兄さんに酷いことしないで!」


 ブラスの思惑を理解してしまったからそこ、ティオは泣いてしまった。


「お兄さんに、お兄さんに酷いことしようとしないでよぉ」


 ぽたぽたと垂れる雫が、宿の床をほんのちょっと湿らせる。

 突然泣き出したティオにブラスがオロオロしてしまう。


 まさか、ティオがこんなにも楓を愛していたなんて! などと考えたブラスは、なぜか引き下がろうとしなかった。


「おい、ブラス」


 楓の手には【インフィニティ・マークⅣ低出力版】が握られていた。

 ブラスは後悔した。

 ふざけすぎた、いや、ティオが泣き出した時に引き下がっておけばよかったと。


「子どもを泣かしてまでやろうとするんじゃねぇ」


 楓が放った発砲音が響き渡った。

 大きな音に驚いた、宿の店主が、あわてて楓の部屋にやってくる。


「な、なんじゃこれはぁぁぁぁぁ」


 楓が魔改造した部屋を見て、店主が硬直してしまった。

 倒れているブラス、泣いているティオ。

 ティオを慰めるカノン。

 オロオロし始めるクレハ。

 部屋の中はまさにカオスだった。


 楓は、クレハに目で合図を送ると、クレハがコクっと頷いた。


「「犯人はこいつです」」


 楓とクレハは、倒れているブラスを指さしたのだ。


「ほう、こいつか?」


「俺たちは、この子が泣いてしまったから助けたまでだ。

 全てこいつが悪い。

 部屋は直しておくから、連行するならコイツだけにしてくれ」


「どんな事情があるかは知らんが、まあいい。

 お前の言葉を信じてやる」


 気絶したブラスは、店主に引きずられながらこの場を去っていった。


 静かに合掌したあと、クレハと楓は部屋を戻し始めた。

 片付けを初めて数分後、泣き止んだティオは楓の隣に付いて来て、片付けの手伝いを始めたが、楓の横を離れようとはしなかった。

読んでいただきありがとうございます!


うん、ティオが完全に、楓に懐いてしまった……

プロットには書いていない事態ですよ。

どうしよう、まぁいっか。


そろそろ、化物との戦いかな?


次回もよろしくお願いします!

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