37:冒険者になりまして
「は、俺は一体」
「バカやってたから……殴った」
「楓が殴ったのか!。それはご褒美だ!」
「やっぱり、お二人って……」
それはもういいよ、と思う楓。
だが、受付嬢は疑惑の目を向けてくる。
途端に悲しくなってくる楓。
ブラスもそれを察したのか、黙り込む。
自分の自重が足りないことを薄々気が付いているブラスは、これ以上楓に嫌われたくないと思ったからだ。
「登録は以上になります。これが冒険者の証、冒険者カードになります」
「ありがとうございます」
受付嬢にお礼を言って、冒険者カードを受け取る。
先ほど用紙に書いたことが簡略されて書かれているのと、冒険者としてのランクが記述されている。
楓の世界のもので考えたら、とっくの昔になくなった、運転免許証みたいなものだった。
「あ、もし、冒険者が運営しているギルドに加入している場合は、ここに記入してくださいね。冒険者ギルドに加入せずに、冒険者が運営しているギルドで力をつける人って、結構多いですからね」
「ああ、わかった【ライトワーク】っと」
「俺も、【ライトワーク】だな」
「お二人とも、【ライトワーク】所属なんですか?」
「ええ、今でもたくさんお世話になっています」
「恋敵がいるが、いいギルドだと思うよ」
「こ、恋敵……そちらも男性?」
「いや、女性だ。やつは強敵……」
「バカな話をしてるんじゃない!」
楓は、ブラスの後頭部を殴る。
やはり、その手の話題になると、自重できないところがあり、失敗したと思うブラスだった。
正式に冒険者となた楓たちは、クレハたちが待っているギルドの待合室に行った。
「あ、お帰り。結果はどうだった?」
「俺はBランクになったよ」
「俺はAだな」
「二人ともすごい。私はやっとBなのに、楓は登録してすぐにBなんだ」
「あれ、俺は……」
「ブラス、あんたは元聖騎士なんだから、それぐらい当然でしょ?」
「いや、聖騎士だからって言われてもな。あとで楓に褒めてもらおう」
「褒めるかバカ」
「はは、これで全員が冒険者だ。これで心置きなくギルドの宿を借りれられる。私は宿をとって来るから、ちょっと待っててくれ」
「あ、僕も行きますよ」
「がうがう!」
フレアはティオとカノンを引き連れて、受付に向かっていった。
フレアたちが宿をとりに行ってすぐ、柄の悪そうな冒険者たちが現れた。
「おい、兄ちゃんたち。冒険者になったばかりなのに、こんなところで女と話していていいのかよ」
「こんなへっぽこな奴ら、すぐ死ぬってよ。特にこっちのひ弱そうな奴はよ」
「はは、ちげーねぇ」
柄の悪そうな冒険者たちは、楓を見て笑い出した。
そんな冒険者たちを見て、楓は何も気にしなかったが、クレハとブラスがキレそうだった。
「お前は、どっかのお坊ちゃんですか~」
「こんなきれいな女と、護衛っぽい変人なんか連れてよ。どうせたいしたランクじゃないんだろ。俺たちが指導してやるせ」
「そのかわり、そっちの女をおいしくいただくけどなぁ」
その言葉に、クレハはちょっと恐怖を覚える。
ここでは魔法が使えない。
カオティックアーツを使えば誤魔化すことができるだろうが、場所も悪く、下手したらギルドごと壊してしまう可能性がある。
顔がちょっと青くなるクレハを見て、ブラスと楓が立ち上がった。
「お、やんのかよ。俺はもうすぐBになる実力を持つCランクだし、他の奴らだって、DとかCがいるんだぜ。冒険者になったばかりのお前らに何ができるんだよ」
「こいつら、自分の立場ってもんがわかってないんだよ」
「さっさと女を渡せばいいものを、馬鹿だな。はい、馬鹿決定~」
クレハは、立ち上がった二人の影に隠れるようにどうした。
ゲスな冒険者たちを見て、吐き気すら出てきている様子。
気持ち悪さと恐怖とイラ立ちが渦巻いて、今すぐ魔法を放ってしまいそうだった。
そんなクレハの様子を察した二人は、「これは早くしないとやばいな」と感じ取り、柄の悪い冒険者たちを痛めつけることに決めた。
「楓、こっちの二人はやっとくから、そっちのやつは任せた。早くとお姫様が暴れだしそうだし、さっさと終わらせよう」
「ああ、こっちは任せろ。クレハ、俺たちが何とかするから……暴れるなよ」
「うん、わかった。あっちで大人しくしてる……うう、気持ち悪い人たちみたから気分が悪くなってきた。あとはよろしく」
クレハの反応に少し苛立つ冒険者たち。
「あの、クソアマ。ヒィヒィ言わせてやる」
「その前に、こいつらの始末だな」
「新米冒険者のくせに生意気なんだよ」
柄の悪い冒険者たちが襲い掛かってくる。
先ほどの実力テストとは別なので、本気でやろうとしている二人。
ブラスは【ヴァイブロブレード】を、楓は【インフィニティ・マークⅣ】を取り出して迎え撃つ。
「おもちゃみたいな武器で何ができるんだよ」
ブラスの持っている武器を馬鹿にして、切りかかってきた。
しかし、ブラスが使っているのは、おもちゃではなくカオティックアーツだ。
楓の作ったカオティックアーツの前では、冒険者たちが使っている剣の方こそ、おもちゃみたいに感じられる。
ブラスが、【ヴァイブロブレード】を構えて防御する。
【ヴァイブロブレード】の超振動により、切りかかった冒険者の剣が真っ二つに切れた。
切りかかった冒険者は唖然とする。
「俺の剣は特別なんだよ。さぁ、楓を馬鹿にした罪を償ってもらおうか!」
「ちょっとまて、そんな剣を冒険者ギルドで使ってもいいのかよ。てか、何なんだよその剣は!」
「楓が作ったものだが?」
そういって、【ヴァイブロブレード】で冒険者二人に触れる。
刃が当たらなくても、超振動のおかげで、脳を揺さぶり、気絶させた。
一方、楓はというと、【インフィニティ・マークⅣ】を連射していた。
打たれている冒険者の意識はすでにない。
そんな様子を見ていた他の冒険者たちは、あまりの恐怖に震えあがっていた。
この騒ぎを聞きつけてやってきた受付嬢。
楓は、構かく説明して、相手の冒険者が悪いといったが、過剰防衛で怒られた。
でも、今回の一件は冒険者ギルドでどうにかしてくれるということなので、その場はなんとか収まった。
事態の収拾をしているときに、冒険者ギルドに一人の来客があった。
レインだ。
約束通り、商業ギルドでやるべきことを終わらせて、冒険者ギルドにやってきたレインは、現在の状況についていけず、困惑した。
ちらっと、横を見ると、ぐったりしているクレハを見つけたレインは、急いでクレハの元に向かう。
「大丈夫、クレハちゃん!」
「うう、大丈夫です。ちょっとお腹が……」
柄の悪い冒険者に気分を悪くしたクレハは、少し離れて休んでいると、おなかをすかして気分が悪くなってきたらしい。
「もう、クレハちゃんたら。心配しちゃったじゃない」
「はは、面目ないです……」
クレハに問題がないことを確認したレインは、ほっと安心した。
少ししたら、冒険者の対応をした楓とブラス、宿の予約をしていたフレアとティオとカノンが戻ってきた。
「よし、みんな揃ったし、ご飯を食べに行きましょう」
レインのその言葉に、クレハがハイテンションになった。
そんなクレハの様子を楓がくすっと笑ったので、顔を赤らめて、恥ずかしそうにしてしまった。
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