さん
「それで?どうやってお兄様に取り入ったのかしら?」
パシン。
「取り入った…」
随分な言われようである。
玄関で衝撃の出迎えをしてくれたカテリーナは、公爵夫妻とベルンハルトに挨拶したいと言う私を自室に引きずりこみ、逃がさないとでも言うようにピッタリ横に座ってくる。ティアとも引き離され、カテリーナとさしで話す状況に私は冷や汗が止まらない。
この兄妹はどうしてこう人の話を聞かず、しかも横に座ってくるのだろうか。
そういう血か?んなアホな。
「だってそうでしょう!あのいつもぼんやりして何にも興味がなさそうなお兄様が突然、婚約したいだなんて」
パシパシ。
「は、はぁ。とはいっても私もどうしてベルンハルト様が私なんかに婚約を申し込んでくださったのかさっぱり」
「もう!もったいぶらないでちょうだい!」
パシン!
「ですから、もったいぶるも何も…。カテリーナ様、その扇子でパシパシ二の腕叩くのやめてもらえません!?」
さっきからちょいちょいパシパシという音が聞こえていたと思うが、カテリーナはどうも興奮すると相手を扇子で叩いてしまうらしい。すごく痛いわけではないが、同じところばかり叩かれると地味に痛くて思わず素で文句をいってしまった私は、次の瞬間さっと青ざめた。
や、やばい!と私はすぐさまカテリーナに謝ろうとしたのだが。
「あら、ごめんあそばせ。叩きがいのある二の腕でつい」
案外素直に謝罪したカテリーナは余計な一言があるものの、ちょっと悪そうにしている。それが少し意外で私は呆気にとられた。
うーん。カテリーナ様ってとにかく怖いイメージがあったけど、そんなに悪い人じゃないのかもしれない。
「カテリーナ様こそベルンハルト様から何か聞いていないのですか?」
「いいえ。…わたくしはお兄様と話してはならないから」
「え?」
話さないのではなく、話してはならないと誰かに禁止されているような口ぶりに引っ掛かりを感じたが、カテリーナは何かを熱心に考えていてとても聞けそうにない。
「…そうだわ!まずは馴れ初めよ!ほら、早く教えなさいまし!」
今度は反省を生かしてか二の腕は打たず、行き場のない扇子を振り回すカテリーナ。それはそれで危ない気がするのだけど。
「初めて会ったのは先月の王宮でのお茶会で…」
「あなたあそこにいらっしゃったの?…地味すぎて気付かなかったのかしら」
「それもありますけど、少し具合が良くなくて隅にいましたの」
「ふむふむ、それで?」
「そこにベルンハルト様がいらっしゃって、具合の悪い私を気にかけてくださって、休憩室まで連れて行ってくださったのです」
「ほうほう!!」
もしかしなくても、めちゃくちゃ楽しんでますよねカテリーナ様?
目をキラキラ輝かせて話をねだってくるカテリーナに、お母さまと同じ恋バナ大好き系女子疑惑が浮上してくる。そう思うと、無理かもと思ったけど仲良くなれる気がしてきた。余計な一言と扇子の暴力さえ我慢すれば、案外いけるかもしれない!というか、前世の友達に人の気にしてることズバズバ言う子がいたから私思ったより全然大丈夫!傷ついてないわけじゃないけどね!
「で?」
「私の迎えが来るまで付き添ってくださいました」
「まさかそれで終わりじゃないでしょう?」
「終わりです」
「ええー!?」
恥ずかしがらずに白状なさい!と食い下がるカテリーナに両肩をつかまれ、グワングワン揺すられる。ちょ、カテリーナ様!吐く!このままじゃ私、話じゃなくて胃の中のものを吐いちゃう!でも本当に話すことなんて…。あ!
「手!!手を握ってくれました!」
「まあ!!」
た、助かった…。危うく美少女に向かってマーライオンするところだった。そのあと自分がどんな目にあうかより女として大切なものを失うかと思って怖かった~。
「お兄様もやっぱり男なのですね!わたくしもエドウィン様と……。あら、リジーア様顔色が悪くてよ」
「だ、大丈夫です」
主にお前のせいだよと突っ込みながら乱れた髪を整える私を見て、カテリーナはふっとまた悪いことをしてしまったという顔をした。
「嫌だわ。わたくし、すぐ夢中になってしまって」
「カテリーナ様…」
なんとなくだけど、この子は謝り方がわからないのだと思った。公爵の娘で、同世代で彼女より偉いのなんて彼女の兄か殿下くらいだ。謝らなくていいと、そういわれて育ってきたのかもしれない。
「カテリーナ様はツンデレなのね」
「つんでれ?」
「一部の男性にはとても好まれる女性のことですよ」
「エドウィン様も!?」
「それはわかりませんけれど、少なくとも私はカテリーナ様のことが好きになりました」
好きになりましたってもとは好きじゃなかったってことだから、ちょっとずるい言い回しだったかもしれない。けれどカテリーナは気付いているのかいないのか、綺麗な青い目を嬉しそうに瞬かせた。
「あなた、優しいのね。決めたわ!特別にわたくしのことお姉様と呼んでよろしくってよ」
なるほど、呼んでほしいんですね。
だんだん扱いがわかってきたぞ。むしろ高飛車な言い方しかできない彼女を微笑ましく思えるようになってきたくらいだ。
「はい、お姉様」
お姉様と微笑みながら呼びかけると、カテリーナは恥ずかしいのか扇子で口元を隠しながら嬉しそうに笑い返してくれた。
「ではリジーア、服をお脱ぎなさい!」
「んん?」
短めになってしまいましたが、カテリーナと仲良く?なれました!次はベルンのターン。