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幕間

暴力表現注意です。閲覧は自己責任でお願いします。


時は少し経って。

リジーアとベルンが立ち去ったあと、ドナルドは依然として椅子に縛られ放置されていた。

もちろん見張りとしてイオニアスが付いており、しっかりと縛られていなくとも脱走など不可能な状況だ。

しかも顔面と左の人差し指が燃えているように熱く、強烈な痛みが引いては押し寄せる波のように断続的に続いている。気を抜くと無様に泣いてしまいそうだった。

これから自分はどうなってしまうのだろう。本当に平民として生きていくのだろうか。もうライラには会えないのだろうか。


どうして、俺はこんな馬鹿げたことをしてしまったのだろうか。


そんな思いが雲間にさす光のように、ドナルドの胸に突如として去来した。

彼は戸惑いながら、自問自答する。

どうしてこんなことになってしまったのだろうか。自分はただ純粋にライラが好きだった。けれど彼女は殿下を慕っていて、殿下も彼女を。だから、ライラが幸せになれるよう見守ろうって。それがどうして。

そうしてふと思い出す。

『君に真にライラを愛する気持ちがあるのなら、きっと上手くいくさ。彼女の憂いを取り除くんだ。リジーア・リートベルフを』

そう言ったアロイスのあざ笑うような表情。何かに怯え塞ぎ込むライラ。リジーア・リートベルフがいなくなればライラは元気になる。すべて上手くいく。何故そう思った?頭に靄がかかったように思い出せない。アロイスに連れていかれた小部屋は、むせかえるようなどぎつい甘い匂いで満たされていた。あの時もこんな風に、頭がぼうっとして、それで。


「はっはっはっ!よかったねぇ、リートベルフさんが優しくって!そうじゃなかったら、今頃ベルンハルトに殺されていたよ、君~。いやぁ僕も、君の死体を処理しなきゃいけないかと思って随分頭を悩ませたんだよ?」

答えの出ない問答をつらつらと繰り返していたためにドナルドは降って湧いたようなその声に一気に現実に引き戻された。

体型を隠すようなだぼっとしたローブに、濃い紫のぼさぼさ頭の嫌に陽気な男。変人で有名なこの学園の美術教師、ルーカスだ。

「ミュラー君、見張りご苦労。これは僕が引き取るから君はもう休みなさい」

「はい」

ルーカスはにこにこと何が楽しいのかは分からないが、イオニアスを下がらせドナルドを戒める縄を解いた。どうやらルーカスはただの美術教師のくせにイオニアスは逆らえないらしい。

固定されていた体勢から解放され、どっと疲れやら関節の痛みが襲ってくる。

とりあえず、もう痛い目には合わなくて済む。

自問自答を一時中断し、これからの不安はひとまず置いて安堵するドナルドに、ルーカスが肩をかして立ち上がらせてやる。

ずっと曲がったままだった膝がいきなり伸ばされてギシギシと軋んだ。

思わずといった風にふらついたドナルドの肩をグッと引き寄せ、君も馬鹿だねぇなんてルーカスは軽口をたたき朗らかに笑う。

そして次の瞬間、その朗らかな声はぞっと鳥肌が立つほどに無機質なものに変化しこう言った。


「ま、ベルンハルトも僕に比べればよっぽど優しいとは思うけどね」


ドンッと右胸に衝撃が走る。

「へぁ?」

ドナルドには自分の身に何が起こったのかわからなかった。

呆然と見下ろす自身の胸部から、何か細長い見慣れないものが生えていた。

繊細な銀細工の柄があかりのなかぼんやりと浮かび上がっている。もしかしなくともナイフだ。ナイフが刺さっている。

なのに不思議なことに痛みも出血も全くなくて、そのくせ背骨が氷柱と取り換えられたかのように寒くて寒くてたまらなくなる。つま先から徐々に感覚が鈍くなっていって、ついには立っていられず彼は床に膝をついた。

「君みたいなのはさ~、余計な慈悲をかけて生かしておくと、またいつ良いように使われてこちらに泥をかけるかわかったもんじゃない。処分しておくに、こしたことはないよね。ああ、そうそう!君の死体を処理する方法は実はもう思いついているんだ。君にしかできない大仕事だ」

ドナルドにはルーカスの言うことは何一つとして理解できなかった。

ただ自分がこれから死ぬのだということだけは、現実味のない事実として彼の目の前にあった。

感覚も思考も現実もすべてが遠のいていく。


なぜルーカスに自分は殺されるのか。その真意すら知ることなくドナルド・マッキンという一つの命はこうやって静かにこの世から消されたのだった。


ドナルドに入刀しちゃうのかという感想をいただいたのですが、入刀しちゃったのはルーカスでした。私もびっくりです。

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