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じゅういち


最近、展開についていくのに忙しくて、私何もしてない気がする。

ベルンに私って役立たず?って聞いたら、リジィはいるだけでいいよって言われた。

それ何の役にも立たないから何もしないでいいっていうか、何もすんなってあれだろうか。いやいや、そんなまさか。

ここが魔法ありのファンタジーだったら、私もバンバン活躍してただろうに。

アイスとかアイスとか作って、スイーツ界の風雲児になってだな。

…無理だ。前世でもお菓子作りなんて出来なかったのに、転生したからってできるわけがない。

料理は出来るのだが、いかんせん大雑把すぎるらしい。大昔に一度だけクッキーを作ったけど、なぜか生地がでろんでろんで型で抜けなかった。何を言っているかわからないと思うが、私にもよくわからない。

それに比べて、きっとベルンは凄い魔法使いになるだろう。一歩間違えたら国を亡ぼす的な。暗黒の魔術師!みたいな。

「ダリウスは意外と炎系とか使うんでしょ」

「何言ってんだお前」

本当に何言ってんだって感じだよね。わかる。でも正直、疲れてて頭が馬鹿になっている気がする。

「魔法使いになりたいなぁって」

「それで飛んで逃げるってか?」

「いや、スイーツ界の風雲児になる」

めちゃくちゃ呆れた顔をされた。

「それで?くだらない妄想をして、決断から逃げてたってわけか」

ダリウスはすっと無表情になった。こうしてすましていると、見た目の神秘的な色合いと相まってちょっと人間ばなれした容姿である。

「いやいや、ちゃんと真面目に考えてたよ」


埃っぽい地下の物置らしき部屋で、私たちは向かい合って座っていた。ちょうど容疑者と尋問官みたいな感じで。

もとからこの部屋にあったのか、ダリウスが運び込んだのかわからない木の椅子はあまり座り心地が良くない。


ダリウスに面白いものを見つけたと誘われ来てみたら、そこは何もない物置で、おっかしいな〜と思ったらベルンを第二王子派に引き込む手伝いをしろと言われた。

よく考えてみれば、彼の姉は第二王子の母で、第二王子は彼の甥っ子にあたる。ゲームでだって、今みたいに第二王子派への勧誘活動をしていたではないか。

けれど彼がその手の話をしないものだから、私はすっかり彼だけは安全だと勘違いしていたのだ。

とりあえず手伝いについては断ったのだが、それでそうですかとなるほど世の中甘くはない。

私から良い返事を引き出すまで、ダリウスにはこの部屋から私を出すつもりはないのだと言う。

つまり、私はダリウスの要求をのむまでここから出られない。

閉じ込められているという表現が正しいかよくわからないが、ダリウスが出られないように扉の前に陣取っているのだから、いちおう合っているということにしておこう。


そんなこんなで数時間。私の腹時計的にはもう夕食の時間は過ぎている。

誰か私を探してくれているだろうか。ベルンとかカテリーナとかクラリッサとか。

でも今日はベルン、外に行くって言ってたし、カテリーナもクラリッサも放任主義なところあるからなぁ。

私も私で学校終わってすぐ部屋に帰って、こもるタイプじゃないし。

ダメだ。あと数時間は経たないと誰も探してくれそうにない。ここに来て友達の少なさがあだになるとは…。

「お前も案外強情だな」

「そうかな?」

「ああ、もっと流されやすいやつだと思っていたよ」

失礼な。そりゃ元日本人だから、君たちに比べたら流されやすくみえるかもしれないけどさ。

「私は流されやすいんじゃなくて、協調性があるの」

「物は言いようだな」

ダリウスは呆れたように笑う。

それがあまりにいつも通りの笑みだったので、余計この状況が異様に感じてしまう。

こういう囚われのお姫様みたいな役割が自分にも回ってくるとは、本当に生きているといろんなことがあるっていうか、平穏な人生を目指していたころからすると随分遠くまで来てしまった。


それにしても暇だ。暇すぎる。

ダリウスとのおしゃべりは楽しいけど、もうさすがにネタも尽きたし、何よりお尻が痛い。

そうだよ!この椅子硬すぎるんだよ!絶対ダリウスも痛いよね。なんでもっと良い椅子用意しなかったんだろう。そんなに私ってすぐ説得される根性なしに見えたのか。

「暇。あとお尻痛い」

「じゃあ、とっとと頷けばいい」

「う~ん。…そうだ、ダリウス踊ろう!」

「はぁ?」

「このままじゃお尻から根っこが生えて椅子人間になっちゃうよ」

ガタガタと椅子を隅に避けだした私に、ダリウスは警戒の色を濃くしたが彼もずっと座っていることに嫌気がさしていたのか、同様に椅子を隅に片づけだした。

ふふふ、引っかかったなダリウス。お前がじっとしてるのが苦手な人種ってのはばれているんだ。

よもや私が逃げ出せると思っていないのだろう。…まぁ、逃げるつもりで踊ろうなんて言ったわけじゃないんだけど。

相手の話の腰を折って、主導権を握るベルンの真似をしてみたのだが、案外うまくいくものである。


椅子を隅に避けると、部屋の中央になんとか踊れるくらいの狭いスペースが出来た。

「前から思っていたんだけど、貴族の子供がダンス踊れないわけないのに、どうしてダンスの授業があるんだろう」

「さあな。でも、変わりに国史が増えるよかいいんじゃねぇのか」

「そっか」

左手をダリウスの肩に乗せ、右腕を肩から水平に伸ばして肘から上だけ少し上に曲げる。

「おい、姿勢」

ダンスをする度に姿勢が悪いと注意されてしまう。ダリウスは意外と几帳面だ。

「お前下手だから、ゆっくりなテンポにしてやるよ」

「おだまり」

しっかりとホールドを決め、1、2、3とゆったりとしたリズムを互いに口ずさみ私たちは踊り始めた。ムーンリバーとかそこらへんの音楽が合うようなスローなワルツだ。

場が狭いので、割かしターンが多めになる。クルクルと回る私たちの様子を上から見たら、自動掃除機の動きにちょっと似ているかもしれない。


「ダリウスはさ、このために私と仲良くなったの?」

「…そうだ。お前はブルンスマイヤーの唯一の弱点だったから、仲良くなっておいて損はないと思った」

「ダリウスのくせに難しいこと考えてたんだね」

「俺は野心家なもんでね」

右、左、右。左、右、左とステップを踏み続けながら、お互いの顔を見ることなく私たちは話続ける。

仲良くしていたつもりだが、ダリウスと家の話をするのは初めてだった。

「最初はこういう手段をとるつもりはなかった。手荒なことをしてブルンスマイヤーを怒らせるのは得策じゃない」

「とかいって、今閉じ込められてるんですけど」

「そうだな。あのアロイスとかいう男を見くびっていたのかもしれない」

「なんでアロイス?」

「ライラは人というか空気の扱いはうまいが、それだけだ。裏で工作しているのはアロイスだと俺は考えている。俺が家のためにいろいろやっているのと同じように」

「へー」

「俺はこんなところで終わらない。必ず、第二王子を王にしてのし上がって見せる」

「……」

左、右、左、ターン。

「だから、お前は一言ブルンスマイヤーに言ってくれればいい。リートベルフは第二王子派につくと」

「言わないって言ったら?」

「なんとしてでも、言ってもらうさ。お前はブルンスマイヤーの特別だ。無下にはされない」

別にダリウスが私に純粋な友情を抱いていなかったことはショックではなかった。寂しい気はするけど、仕方のないこととも思う。

だって、ダリウスはいつも全力で悪戯に付き合ってくれたし、いまだって強気な発言のわりには閉じ込めておしゃべりする以外何かをする気配もない。

まぁ所詮、十五歳だしね!お子ちゃまよ!私も十五歳というつっこみはなしだ。

「ライラが殿下にうまく取り入ったと聞いた時は、しめたと思ったんだがな」

取り入ったってなんか懐かしい表現だな。私も初めてカテリーナに会った時そう言われたんだっけ。

「わざわざ逢引きの手伝いもしてやって、自滅させようと思ったがうまくいかないもんだ」

殿下とライラの逢引きの手伝いって何してたんだこの人。草葉の陰から見守ってたのか。あ、草葉の陰って死んだ人にしか使わないんだっけ?

どうりで殿下とライラが仲良くなるペースが速いと思ったよ。

「ふーん。大変だった、ね!」

と言いつつ思いっきり足を踏んづけてやった。今はこれくらいしかできないけど、カテリーナ、仇はとっておいたよ!

「ってぇ!?…そうだろ?だから、俺への友情と同情に免じてブルンスマイヤーに言ってやってくれよ。どうせお前の親父はどっちにつこうが興味なしだろう」

「それとこれは別かな~…うっ!」

しれっとした顔で足を踏んだことにすまんすまんと言うダリウスを睨みつける。踏んづけ返してやろうと思ったが、うまくかわされて一人ドタバタしているみたいになった。きいいい!

「あのさ、ダリウス。こんなしち面倒なことしないでさ、ベルンに直接話しなよ」

「それでお前手伝ってくれんかよ?」

「アイスくれたらいいよ」

「知らねーよ!てか何だよそれ!」

使えない奴だ。


「っていうか、もうやった」

「え、何?一度振られ済み?え~かわいそう」

「お前が花の蜜吸いすぎて腹壊した話を広めてやろうか?」

「はぁ?あれだけ吸っておなか壊さないダリウスもおかしいと思う」

花の蜜ってほんのり甘くて、凄い美味しいわけじゃないのに一度吸いだしたら止まらないのなんでだろう。

そんなことはおいといて。

そうか。ダリウスは一度ベルンに勧誘していたのか。それで見事断られたと。

だから、ベルンと一緒にいる時は寄ってこなかったわけだ。へたれか。


「あのね、ダリウス」

「なんだよ」

「私は臆病だから、出来れば誰のことも嫌いたくないし、誰にも嫌われたくない。だけど手伝うことはできない。ごめんね」

すっとホールドが解かれ、ダンスは静かに終わった。

ダリウスは困ったような仕方のないような顔をしていた。

「でもベルンには友達として紹介してあげるから、あとは自分で頑張って」

私はダリウスのことが好きだ。もちろん友達としてだけど、彼にどんな思惑があったにしろ私たちが過ごした時間までもが嘘になるわけではない。それに、ご丁寧に自分の事情まで話しちゃう馬鹿なのだ。

心配しなくても今度こそダリウスの提案はベルンに受け入れられるだろう。だって裏生徒会は―――。


バキッ!という荒々しい音を立てて、ドアが開いた。

ドアをおそらく破壊して現れたベルンの姿に、私たちはそろって声をあげた。

「「あ」」

「話はすんだかな?」

え、嘘、ドア閉まってたんだ。ていうか平然とした顔をしているけど、破壊したんだよ、ね…?え、こわ。

「え、こわ」

ダリウスも同じことを言ってちょっと呆然としている。

「わ、わー!助かったね、ダリウス!私たち閉じ込められて困ってたんだよ」

ぴょんぴょん跳ねて生還の喜びを表してみたけど、なんか馬鹿っぽさが凄い。や、やめときゃよかったかも…。

「そう」

「これ、ダリウス。私の友達」

だから、怒らないであげて欲しい。

ベルンは対外用の微笑みを浮かべているから、よくわからないけど、これが私にできるダリウスへの最大の援助だ。がんばれ、ダリウス!きっと悪いようにはなるまい!

「リジィ。僕はこいつと話があるから、すぐに会室でイオニアスかヘレナと合流するんだ。僕もすぐ行く。絶対寄り道はしないで。いいね」

「わ、わかった」

いつになく強い調子のベルンに気おされながら返事をする。

えーと、なんだか嫌な予感がする。もしかして、私の知らないところでまた事態が動いたのか。

とりあえずささっと部屋から抜け出した私の耳に、ベルンの地を這うような低い声が聞こえた。

「あまり僕を怒らせるな、ヴェーナー。…お前の余計な行動の落とし前はつけてもらうぞ」

さよなら、ダリウス。いい奴だったよ…。墓前には毎年野イチゴを供えてやろう。

でも、なんでベルンはそんなに怒っているのだろう。


私がいては余計だろうと逃げ…気を利かせて地下の謎の物置から出た私は、言われた通りすぐに裏生徒会室に向かった。

そこにはメンバーが勢ぞろいしていて、なんだか物々しい空気が立ち込めていた。

「もう!どこに行っていたのよ!」

「い、いや~ちょっと~」

珍しく小走りで寄ってきたカテリーナは少々慌てているように見えた。

もしかして、心配して…!

「大変なことになってしまったの。落ちついて聞いてちょうだい」

「ん!?」


大変なことって!?って思っている方、大丈夫です。私もナンダッテー!?って思いながら書いてます。

たくさんの閲覧、ブクマ、そして感想ありがとうございます!

ワルツについて感想で教えていただいたので、少し修正しました。

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