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二人初めての冬のこと

「寒くなって来たね」

 少し赤くなった手を擦り合わせながらも、ちょっとだけ嬉しそうに君はそう言った。

 そんなことを言って笑う君は、本当に可愛い子だね。


「へっくち!」

 小さな手で口元を覆って、君はクシャミをして、少し鼻を啜った。

 そんな姿も、やっぱり可愛いよ。もう可愛いよ。


 でも、可愛いけれど心配だな。大丈夫なのかな。

 冬を楽しむのは良いのだけれど、風邪を引いたりはしないようにね。

「気を付けてね」

 そう言った僕に、

「大丈夫だよ。えへへ」

 なんて笑ってまたクシャミをした君。

 クシャミをしながらの大丈夫って言葉に信憑性は全くなく、だけど可愛くて僕は何も言えなくなっちゃうよ。


 冬至の夜、長い夜で寒い夜。

 こんな夜には、柚子のお風呂で温まりましょうか。


「冷えた体も、温まるね」

 僕の言葉を聞いているのか聞いていないのか、ふわりと微笑んでから君は柚子で遊んでいた。

 こんな柔らかな時間には、心も温まるよね。

 この素敵な香りに包まれていきながら。


 心も体も温まって、最高に良い心地だね。

 一年間蓄積した疲れだって、癒してくれるよねこの温もりが。きっと。



 冬の夜は、寒いし長いし。夏に比べて冬は暗い時間が多いから、気分も少し暗くなりそうだよね。

 だけど真っ暗な夜が長いからこそ、輝きは際立つんだ。

「イルミネーションを見に行こう」

 誘った僕に対して、君は不思議そうな顔をして着いて来た。そしてそれを見た途端に、嬉しそうに跳ね回ったんだ。

 光る玩具を買ってあげると、それを物珍しそうに見て、君はクルクルと回っていた。

 その姿は他の何よりも輝いている、そんな風に僕には見えていた。

 やっぱり君は可愛いんだな。


 家にいたところで、寒いのはどうしても変わらない。

 温かいのはわかるけれど、君は炬燵に潜ってゴロゴロ。

「炬燵には潜るな」

 なんて叱りはするけれど、やっぱりゴロゴロしている君も可愛くて、娘をちゃんと躾けられないようじゃ僕も駄目だなって思うよ。


 でも、心配だな。この甘やかし方じゃ完全に親バカだと自覚はしているけれど、どうしても君が可愛くて仕方がない。

 大丈夫なのかな。

 風邪を引かせたりはしないよう、しっかり気を付けないといけないね。


 冬至の夜は寒くて、お風呂には長く浸かって温まりたいね。

「柚子のお風呂に入って温まりましょうか」

 服を脱ぎたがらない君を懸命に風呂場まで連れて行って、柚子湯に入れたら喜んでくれたね。


 だけど君を叱ることも多くて、喜ばせてあげたいのに……。

 君を成長させる為にはちゃんと悪いことは悪いって教えなきゃいけないんだけど、それで君に嫌われちゃうのは嫌なんだもん。

 駄目な父親だよね。

 ドンドン親の型に嵌り切っていってしまうし、堅苦しくなってしまったこの頭。

 だけど素敵な香りに包まれたなら。


 もっと柔らかくなるようにと、融通の利くようにと、解してくれるよねこの温もりが。

 きっと、きっとね。

 妻はいなくなってしまったから、君だけを愛そうと僕は尽くすことしか出来なかったけど。

 でも僕は君を大切にするからね。


 二人初めての冬のこと。

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