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 僕は君に思うことがある。

 優しくて皆の為に努力を欠かさない君に、思うことがある。

 それを本人に伝えたところで何も変わらないこと、わかっているけれど、僕は君が心配で一人枕に言ってみた。

 ちょっとした愚痴のようなトーンで、枕に言うようにした。

「君はいつもいつも、頑張り過ぎなんだよ」

 頑張り過ぎているくらいに頑張る君の姿を見る度に、その夜は枕にそう言った。

 当然、それによって何かが変わる訳じゃない。だけど壊れてしまいそうな君に、僕が壊れてしまいそうだから。

 僕は枕に言うのであった。

 皆の為に努力をすることが悪いことだとか、そう言う訳じゃあないんだけれど。


 わかって? 僕の気持ち、わかってくれないのかな。

 頑張るくらいならばいいんだけれど、君は頑張り過ぎているんだよ。

 君はいつもいつも、いつだってそうだ。

 頑張るんじゃなくて、無理するくらいにまで頑張っちゃうんじゃん。そこなんだよ。

 だから僕は、君がまた無理をしてしまわないかと、心配でならないんだよ。

「もう!」


 君の気持ちが一つも理解出来ない訳ではないんだ。

 一度だけ君に「頑張り過ぎないで」と告げたときに、君は「働くのが好きだから」ってそう言ってくれたよね。

 働くのは何も苦だけじゃないし、僕だって働くことは嫌いじゃないからさ。

 だから、君の気持ちは理解出来ているつもりだ。

 でもだからって、それで無理をしてしまうのはいいことじゃない。

 僕は君が優しくて、人の為の努力が好きなのも知ってる。

 人が喜んでくれる、その顔が好きなんだって君は昔からそう言っていた。その気持ちだって、僕にもわかるよ。

 だけど無理して頑張ってくれたって、人は喜んじゃくれないんだよ。

 それに君が頑張り過ぎることによって、不安になる人もいるんだってことを考えて。心配する人の気持ちも考えて。


 募っていくのは君への想い。積もっていくのは手に付かない仕事。

 このままじゃ、更に君へと負担を掛けてしまう。少しでも君に楽をさせてあげたらと思って、僕は仕事を引き受けた筈なのに。

 頑張り屋さんな君だから、僕の為にと言って手伝ってくれてしまうだろう。

 でもね? でもね? わかってよ。

 はっきりしない僕が悪いのかもしれないけれど、少しくらいは察してくれてもいいじゃないか。

 僕にとっては、君が何よりも一番に大事なんだよ。

 他の誰よりも僕は君を大事に想っているから、君が疲労する姿や君が衰弱する姿は、出来れば見たくないんだよね。

 いつでも君には元気でいて欲しいもん。


 皆の為。いつだって、君はそう言うよね。

 その言葉がどれほど皆の役に立っているか、君は知っているから頑張るのだろう。

 その言葉がどれほど僕を不安にさせるのか、君は知らないから頑張り過ぎるのだろう。

 見ているこっちが不安になるほどに頑張っちゃうんだから、自分でも限界には気付けるようにしないとでしょ?

 周りの状況にはとても敏感なのに、自分の現状に鈍感過ぎるよ。

 努力のし過ぎだ。優し過ぎるんだ。

 いつも、いつも。


 疲れたって、君が自分から口にすることはないよね。

 そのことがどれほど皆に罪悪感を感じさせないか、君は知っているから言わないのだろう。

 そのことがどれほど僕を心配させ不安にさせるのか、君は知らないから言わないのだろう。

 だけど君の体は、君の為にあるんだ。

 他の誰がどうしていいものじゃない。君の体は君だけのものなんだから、疲れたときには疲れたと言いな。むしろ言わなくても、君が休んでいることを責める人はいない。

 全てを皆の為ではなくて、君は君の為に生きてもいいんだよ?

 疲れたときには、君の為に休んだっていいんだよ?


 どうして君はそれなのに、そんなにも健気に頑張ってしまうのだろうか。

「君の体は君だけのものじゃないんだから」

 もっと仲間を信頼してくれてもいいのに、君はちょっと何もかもを一人で背負い過ぎてしまう傾向にある。それでは良くない。

 周りには、君を心配している人がいるということを、わかってよ。

 勿論、僕だってそうさ。そして僕以外にも、君を想っている人は数多くいるだろう。

 だから疲れたときには、休んでくれないと困るんだ。

 君は他人の為にしか動けないと言うのなら、君の為にとは言わないから、僕の為に休んではくれないかな。

 心配で心配で仕方がないから、僕は休んで欲しいんだよ。


 わかってよ。

 届けたいけれど届けたくない、届いて欲しいけれど届いて欲しくない。複雑な想いをどこにぶつけていいのか、僕は知らなかった。

 いつか、気付いてよ僕の気持ち。

 そうは思うのだけれど、気付かれてしまったときに、僕はどうなってしまうのかわからない。

 疲労と痛みのせいか歪んでしまっている、その優しい微笑みが痛々しいよ。

 また無理して、それを隠して微笑わらう。そんな君を見ていられないよ。



 言葉の通り、君の頑張りが実ったのではないか。

 そう思うほど、今年は特に豊作だった。

 これだけ採れれば少しくらいは贅沢も出来るだろう。だとか、とにかく皆で喜び合って。


 努力をしている分だけ、豊作と言うのは嬉しいことなのだろう。農業の辛さや凶作の年の苦しみも知っているから、素直に大きな喜びを語れるのだろう。

 喜んでいる、その誰もが努力をした。

 それくらいのことは、僕だってわかっている。

 僕だって自分で頑張ったなって思うし、自分を褒めてあげたくもなる。

 それでも、一番頑張ったのは君だ。

 誰だってそのことには気付いている筈。僕だけじゃないでしょ? どれだけ君が皆の為に頑張ってくれたかは、君以外の皆が知っていることの筈。

 それなのに、どうして誰も君が一番だと、認めてはくれないのだろうね。

 頑張り過ぎたくらいに頑張った君に、僕は称賛を送った。

 すると君は嬉しそうな表情と共に、驚いたような表情も見せてくれた。それが、誰も君を認めていない証拠だよね。

 僕には君を認めてくれない皆が、それが悔しくて仕方がないんだよ。

「もう!」


 これは、休むことを許可されている国民の休日。

 他の日には休んじゃいけないという訳じゃないけれど、この日さえも休まないのは頑張り過ぎなんじゃないかな。

 一生懸命に働いた者に与えられる、休みの日なんだよ。

 沢山の実りを祝ったり、それを授けてくれた神にお礼を告げたりもする。

 収穫後秋の日に存在している、休む為の日なんだ。

 休んでもいい日なんだ。


 休めばいいと言っているのに、どうして君は今日すら休まないんだい?

 神へお礼を告げるのはいいことだ、祈りを捧げるのもいいことなのだろう。神は信仰していない僕だけど、それくらいのことはするべきだと思っている。

 でもね? でもね? 僕にはわかる。

 これは神が授けてくれたものと言うより、君の努力を実らせたものなんだ。

 だから神に感謝するそれよりも、実際に働いてくれた勤労者に感謝をしなきゃいけないんじゃないかな。

 勤労者に感謝をするべき。いいや、勤労者に感謝をするのが先なんじゃないかって、僕は思うんだ。


「皆の為だから」

 そう言って、君は必要以上に働いていた。

 君のせいだよ……。

 徐々に皆は君に任せきりになっていってしまった。

 決して君はお願いを断りはしない。そして、無理をしてでも全てをやり遂げようとしてくれる。

 そんな君の優しさに付け入って、皆は何もしないくらいになっていってしまったよ。

 まだ君は気付いていないの? まだ君はそうして、何も知らない顔をして笑っていようと言うの? どうして君は怒ったりもしないの?

 やがて自分の仕事さえも君に押し付けて、皆は平日にも休み始めるんだよ。

 このまま怠けていったら、この村は駄目になってしまう。

 協力をしなくちゃいけないのに、君のせいだよ……。


 君の体は君のものなんだから。

 君は君の仕事さえやっていれば、それ以上を強要する権利も手伝わなかったことを責める権利も、誰にもないんだ。

 一人で頑張るだけが、優しさな訳じゃないんだよ?

 少しその辺りを君は考えてみた方がいいのかもしれないね。

 それに働き続けていたらストレスも溜まってしまうから、たまには遊んだりして、思い切り笑ってもいいんだよ?

 その行動を恐れる必要なんてないんだから。


 もう働く必要なんてないんだよ。お願いだから、少しくらい休息を取って。

 君の体は君だけのものじゃないんだから。

 まっすぐ前を見据えているのもいいけれど、ほら周りも見てごらん?

 君のことを心配している人がいる。君の笑顔を見たい、そう思っている人だっている。

 勿論、僕がそうさ。少なくとも僕がそうなんだから、そういう人がいるということに間違いはないんだ。

 だから君は、僕の為に笑ってくれればいいんだよ。

 僕の為に笑えと言うのもどこか変だけれど、でもやっぱり、君には笑って欲しいから。

 君の笑顔の理由になれるのならば、僕は何でもするよ。


 気付いてよ。

 本当はもう気付いているんじゃないか。そう思ってしまうほどに、君は他人の事情に敏感で自分のことには鈍感だった。

 でもいい加減気付いてくれてもいいんじゃない。ねえ、僕の気持ちを。

 目を逸らさないでよ。そう言ったのは僕なのに、君がこちらを向くと僕が目を逸らしてしまう。

 お互いに曖昧な距離に立ち、それでもまだ君が気付いていないと言うのなら、僕は……。

 少なからず悲しみを抱く僕に、君は微笑み掛けてくれた。

 その優しさに溢れた微笑みを、見ていられないよ。悲しくて。


 僕だけじゃないさ。皆だって、そうだろう。皆だってきっと、もう気付いているんだろう。

 それでも気付かないふりをしているんだ。

 いつになっても文句の一つも言わないで、君が無理に笑顔を浮かべてみせているからだよ。それがいけないこととは言わないけれど、遠慮だけが優しさじゃない。

 優しい君の苦しみに気付いているくせして、君の方から反論をしないからって。

 皆は勝手にお祭り騒ぎで、何もせずに毎日遊び呆けていて。

 君が優しいからって、君が頑張ってくれるからって、君に甘えてばかりで、仕事をすることさえも忘れてしまったのか。

 そして挙句の果てに、頑張っている君を遠ざけるの。

 努力からも優しさからも、逃げる為なのだろうか。それとも、それとも――。


 皆が君のことをどう思っているのか。君が皆のことをどう思っているのか。

 そんなことは考えたって、僕にわかることではない。

 でもね? でもね?

 僕の気持ちなら、僕が君のことをどう思っているのかは、よくわかっているよ。もう完全にわかった、全てに気が付いた。

 僕にとっては、どんなものよりも君が大事なんだよ。

 何よりも、君だけが大事なんだよ。


 君は「皆の為」なんていつも言って、皆の為に頑張り過ぎる必要なんてないのに。

 他人の為の努力は大切なことだけれど、何事もやり過ぎに良いことなんてないんだ。どうして君はわかってくれないの。

 見ているこっちが不安になるほどに、頑張るんだよね。

 それによって、不安になっている僕の気持ちも考えてくれないと困るよ。


 優しくて頑張り屋で、君は本当に素敵な人。

 その性格から考えて、無理をしちゃうってそれくらいのこと、皆だってわかっているくせに。

 わからないよ。皆は君の姿に、頑張るその姿を見ていて、心が痛みはしないのだろうか。

 君も君だよ。避けがちな皆の姿を見て、心が痛みはしないのだろうか。腹が立ちはしないのだろうか。もう止めようとか、思いはしないのだろうか。

 一人は皆の為に。皆は一人の為に。

 その言葉の通り、君が皆の為に働いた分だけ、皆だって君の為に働くべきなんだ。


 皆。皆々、残らず村の全員が。

 そう、勿論僕だって例外じゃあないよ。

 確かに皆とは違って、僕は遊んだりはしていない。僕も僕の仕事くらいは自分できちんとやっている。

 確かに皆とは違って、僕は君を遠ざけたりなんかしていない。少しでも君を支えられたらと、君の傍にはいるようにしている。

 だけど、そういう問題じゃないよね。

 僕だって傍観者となっていて、全てを君に任せきりなんだから、それは同じことさ。

 結局は優しいふりをして、君を少しも助けられてはいないんだから。

 僕だって君の為に、働くべきなんだ。


 僕だったらそう思うんだけど、君は違うのかな。

 これは優しくない僕の気持ちだから、優しい君としては違うのだろうか。きっと、そうは思わないのだろう。

 わからない。

 君の気持ちがわからないよ。

 大好きな君だから、君のことを知りたいと思っているから、それなのに君の気持ちがわからなくって。

 だってその優しい微笑みは。その優しさは、その微笑みは、本当に幸せそうにも見えるから。

 一概に作り笑顔と言い切ることは出来ないくらい、その笑顔は輝いているから。


 でも、ね? でもね? でもね?

 いつも勇気を出すことが出来ない僕。普通の顔をしていることが優しさと信じて、最後まで逃げ続けていた僕。

 だけど、今日だけははっきりと伝えるの。


 皆で皆の仕事を感謝し合う。

 皆で皆の仕事を感謝し合おう。

 支え合って、生きている僕らだから。支え合わなきゃ、生きていけない僕らだから。

 神様じゃなくって、君にも感謝するよ皆。


 少しだけ待って。

 臆病な僕の心の準備を、待ってはくれないかな。

 今日だけは伝えるよ。

 僕が日々君をどう見ているのか。普段の僕が何を思うか、君にきっと届けるからね。この大切な気持ちを、今日だけは伝えるからね。

 さあ、皆で、せーっの!


 ありがとう。

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