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第五章 アルフレッド・マクニール 1・2

 第五章 アルフレッド・マクニール


 1

 

 その二歳馬は、アルフレッドが父の牧場で調教助手となってから初めてひとりで調教を任された馬だった。

 幼い頃から父によって馬産や相馬の知識を叩きこまれていた。父は仕事に厳しく、くじけそうになるときもあったが、期待を掛けてくれることは誇らしかった。いつか自分が父の牧場を継ぐのだと、子どもながらに誓いを立てていた。

 だから、牧場にいる二歳馬から一頭を選んで好きに育ててみろと父から告げられたとき、これは父からの試験なのだとすぐに分かった。父の後継者としてふさわしい相馬眼が自分に備わっているのか。それが試されているのだ。

 数十頭に上る若駒の中からアルフレッドが選んだのは、鹿毛の牡馬だった。体型は申し分なかったし、手先のバネが目を引いた。そしてなにより、瞳を輝かせて走る姿が気に入った。

 アルフレッドはその牡馬を手塩にかけて育てた。馬は期待に応えてくれていた。夏を迎える頃から体格はぐんぐんたくましくなっていたし、調教では非凡なバネを見せはじめていた。この馬ならばきっと将来、大きなレースで活躍してくれる。そうなれば父も自分を認めてくれるはずだ。アルフレッドは期待に胸をふくらませながら日々の調教に励んだ。

 あるいはそんな野心と甘えが、おごりを生んだのかもしれない。

 その日アルフレッドは、自分が手がける二歳馬を坂路で追わせてほしいと父に申し入れた。その日は一歳上の牝馬が坂路で調教することを知っていたので、その併せ馬のパートナーに自分の馬を勧めたのだ。この併せ馬を通して、アルフレッドは自分のここまでの成果を父に見せるつもりだった。父は黙って許可をくれた。

 調教が始まった。アルフレッドの馬と相手の牝馬はともにスタートを切り、坂の中腹までは並走する。牝馬とはいえ相手は育成も進んでいる三歳馬。しかし自分の馬も負けていない、とアルフレッドは感じた。傾斜がきつくなる。相手か抜け出しをはかった。調教パートナーとしての役目はここで終わりでよかった。こちらはこのまま遅れをとっても問題ない――だが。

 アルフレッドは自分の馬にペースアップを促した。ここで相手に食らいつけば、父の目に止まるはず。そんな思惑に囚われたのだ。

 アルフレッドの鞭に応え、馬はぐんと加速した。前の馬が迫る。すごい手応えだ。これは前に追いつくどころが、追い抜くことだって――。

 しかしそこでアルフレッドの視界は大きく揺らいだ。急にふわりと体が軽くなる。次の刹那に、鼻の頭がカアッと熱くなり――。

「――っ!」

 生暖かい感触を頬に感じ、アルは不意に目を覚ました。慌てて顔を上げると、湿った馬の鼻が目の前に迫っていた。

「そうか、俺はおまえを……」

 昨夜はパースニップを連れて山の中をさまよった。そのうちに疲れて目についた木にもたれかかったのは覚えている。どうやらそのまま眠ってしまったらしい。

 冷え込む山の朝だというのに額にはじっとりと汗を掻いていた。嫌な夢を見ていた。

 起き上がり、あたりを少し探索する。すっかり明るくなっていて、夜のとばりが下りていたときには分からなかった周囲の状況を掴むことができた。どうやらかなり山の中へ分け入ってしまったようだ。自分たちが切り立った崖の上にいることを知り、アルはゾッとする。灯りもなく、昨晩はほとんど周りが見えなかった。下手をすればここから足を滑らせていてもおかしくなかった。

 昨夜、リアの屋敷を飛び出して厩舎へ向かったアルは、衝動的にパースニップを連れだしてしまった。行くあてなどもちろんなかった。だから、厩舎を飛び出してすぐにぶつかった道へ考えもなく駆け込んだ。それは、ミースフォード家の裏手に広がる山へ続く道だった。

 なぜパースニップを連れだすなどという暴挙に出たのか、自分でもよく分からない。いや、これはごまかしだ。自分は逃げ出したのだ。自分の未熟さから。そして、あの男から……。

 あの男――オリヴァー・マクニールがパースニップの欠点を見抜いていたと知らされたとき、アルは自分が五年前となんら変わっていないのだと思い知った。

 アルの脳裏に、あの男とたもとを分かつきっかけを与えたひとことがよみがえる。

 ――才能があっても、それを使えないのならば無意味だ。

 アルが見いだした二歳馬を売り払ったと聞かされたのは、落馬から三日後、ようやく目を覚ましてすぐのことだった。その馬は素晴らしいバネを持つと同時に、生まれつき腱に弱さを抱えていた。当時の自分はそれを見抜くことができなかった。

 それでも自分に育てさせてほしいという思いは強かった。だから父に直訴した。たとえ欠点があったとしても、うまく育ててレースで勝てる馬にしてみせると。しかし父は、馬鹿をいえと答えた。満足に調教もできなくなった馬を、マクニール牧場の生産馬として売り出せるわけがないだろうと。父が見込みのない馬を淘汰していると知ったのはそのときだった。

 体の回復を待たず父のもとを飛び出した。父のやり方が許せなかった。そして馬喰の仕事を始めた。自分が見つけて育てた馬で、あの男の馬に勝つ。そんな野心を抱いていた。

 自分が馬に乗れなくなっていることに気づいたのは、馬喰として働きだしてすぐだった。はじめは落馬の後遺症で感覚が戻っていないだけかと思ったが、すぐにそんな生易しい問題ではないことを自覚した。馬に乗ろうとすると、激しい吐き気に襲われた。体の問題ではない。気持ちの問題だ。自分のおごりのせいで一頭の馬の未来を奪ってしまった。その罪の烙印が、自分の精神に焼きつけられているのだ。

 贖罪が遂げられぬ苦しみ。それを忘れるために、馬探しに没頭したのかもしれない。おの男も気づかない才能を秘める馬を見いだすことで、あの男を否定する。そんな暗い感情に突き動かされながら仕事に打ち込んだ。

 そしてとうとう、パースニップという素晴らしい才能の持ち主に巡りあった。さらに、あの男の生産馬として評判になっているベイトニアンに挑もうという馬主に声を掛けられた。チャンスだと思った。これ以上の千載一遇はない。ついにあの男に一矢報いるときが来たのだ。

 しかし、パースニップもまたあの男の元で生まれた一頭だった。しかも前を走る馬に怯え、レースで力を発揮できないという重大な欠点を抱えた馬だった。決定的なのは、その欠点を見抜くことができず、この馬ならあの男に一泡吹かせられると調子づいていたおのれの間抜けさだ。なんのことはない、ダスティとかいう男がいっていたとおりなのだ。結局自分はあの男の手のひらの上で踊っていたにすぎなかった。「ターフの錬金術師」などという看板も、実際にあの男の威光に当てられただけでもろくも崩れ落ちてしまう薄っぺらな張りぼてだったのだ。

「悪かったな、おまえまで巻き込んじまって……」

 探索から戻ったアルは、おとなしく待っていたパースニップの鼻筋を撫でてやった。パースニップは心配するように顔をすりよせてくる。人懐っこいところは出会ったときからなんら変わっていない。競走馬としてでなければ、皆に愛される馬になっていたことだろう。そんな未来を奪ってしまったのは間違いなく自分だ。

 巻き込んでしまったのは、パースニップだけじゃない。リアたちだってそうだ。ベイトニアンを相手に競馬に挑むというリアの境遇を自分の復讐のために利用したのだ。それだけならまだしも、勝ち目のない馬をあてがい、しかも直前までいらぬ期待を抱かせてしまった。向こうにすれば、まったく迷惑千万な話だろう。

 探しにこないところを見ると、やはりリアも愛想を尽かしたということか。

「……当然、か」

 アルが自嘲気味に笑う。そんなアルを見つめ、パースニップは首をかしげた。

 ……こいつだけでも、リアの元へ戻してやらなけばならないな。

 売買契約を交わした以上、パースニップはリアの所有馬だ。冷静に振り返ってみると、自分は今、馬主の愛馬を勝手に持ちだしてしまっている。返さないわけにはいかない。なにより、こいつだってあのお嬢様の側にいたほうがきっと幸せになれる。

「もう少し待ってろ。道を探してくる」

 パースニップにそういいふくめると、アルは再度、崖の際へ向かった。

 木の枝に捕まって身を乗り出し、ふもとを見下ろす。木々の隙間から見覚えのある家並みが見え隠れしていた。この道を下っていけば迷うことなくリアの屋敷までたどり着けそうだ。

 そのとき、後ろからガッガッと蹄で地面を掻く音が聞こえてきた。前掻きは、馬が腹を減らしているときにする動作だ。

「待ってろ、すぐに下へ連れていって――っ!」

 振り返ろうとしたアルは、急に体の支えをなくしたような感覚に襲われた。

 右手で掴んでいた木の枝が折れかかっていた。とっさにもう一方の手を伸ばすが、その動作は逆効果だった。木の枝は完全に折れ、左手は宙しか掴めなかった。踏ん張ろうとするも、足場はもろくも崩れ去った。体が後ろへ傾く。

「――っ!」

 アルは声も出せないまま、崖を転げ落ちた。


 *


「さあ張った張った! ワンオアザフィールド(勝ってなんぼだ)!」

 下見所の外から大きながなり声が聞こえてきた。

 ブックメーカーが次のレースの賭けを募っているのだろう。今日も大勢の民衆が競馬場に詰めかけていた。

「勝ってなんぼ、か……」

 つられてつぶやいてしまった汚いフレーズが、妙にしっくりときた。

 そう、このレースに勝たなければ、自分たちはなにもかも失ってしまう。しかし……。

 もう数レース後には自分たちのレースの番がやってくる。エドワードは焦れる気持ちを抑えきれず、正門の方角を見やった。求める人影は見えなかった。

「……いくら眺めたって同じだぞ。来るもんは来るし、来ないもんは来ない」

 後ろからぼそりと声をかけてきたのはメリッサだった。花壇に腰掛けたメリッサはミースフォード家の勝負服に身を包んでいた。うつむきかげんで険しい顔。レースに向けて集中力を高めているようだった。

「そう……だよね。ごめん……」

 エドワードがうなだれると、メリッサは顔を上げて小さく微笑んだ。

「まあ気持ちは分かるけどな。オレだってレースのことを考えてなけりゃ、きっと落ち着いていられない」

 一瞬だがメリッサが悲しげな表情を見せた。彼女だって気丈に振舞っているだけなのだ。

「……マルタちゃんは、どうしてる?」

「今はサムと一緒に繋ぎ場にいるよ。さっき顔を見せに来たが、もう落ち着いたみたいだ」

 メリッサは後方をちらりと見た。

「そうか……、よかった」

 エドワードは少し安心した。マルタは昨晩、アルがいなくなってからずっと泣きじゃくっていた。マルタがアルと過ごしてきた時間は、エドワードたちよりもずっと長い。それだけに突然姿を消されたショックはひときわ大きかったのだろう。

「マルタも、あいつの昔のことは知らないみたいだったな……」

 メリッサが悔しげにつぶやいた。エドワードも顔を伏せる。

 マルタがアルと行動をともにしだしたのは一年ほど前らしい。それ以前のことはアルがあまり話したがらないのを察して訊かないでいたのだという。マルタは自分を責めていたが、それは彼女の優しさだと思う。

「……アルが馬に乗れないというのも、今回の件となにか関係があるのかな?」

 エドワードはぽつりと漏らした。昨日から少し気になっていたことだ。マルタもアルが馬に乗れないことは知っていたが、その理由までは把握していないようだった。

 メリッサも考えこむしぐさを見せたが、すぐに頭を振って立ち上がった。

「止めだ、止め。過去のことなんか詮索したってどうなるもんでもない」

 メリッサは苛立ちまぎれに自分の頭をかきむしった。

「そう……だね。今はアルを信じて待つしかない」

「ああ。マルタにはオレがついてる。あんたはお嬢さんのところへ行ってやんなよ」

 優しげに微笑んだメリッサに礼をいってから、エドワードは馬主席にいるリアの元へ向かった。


 *


 観戦席のなかでも、ウイニング・ポストに近く、レースの全体を見渡せると同時にゴールシーンを余すところなく目撃できるその一角。上流階級のみが入ることを許された「メンバーズ・リング」と呼ばれる席に、リアはいた。燕尾服やドレスを着込んだ紳士淑女たちが競馬や闘鶏の賭けに熱中している横で、リアはオールコックを従えて、ひとり席に座っていた。エドワードに気づいたリアは曖昧な笑みを浮かべる。

「エドワード……、あなたも来たのね」

「隣、いいかな?」

 リアがうなずくのを待って、エドワードは彼女の横の席に腰を降ろした。

 エドワードはリアに掛ける言葉を探した。が、なにも思い浮かばないうちに、頭上から無粋な声が降りかかってきた。

「これはラングドンさん! あなたも一丁どうです?」

 ダスティは自分の後ろで開かれている賭場を指さした。

「こちらへ来て賭けに混ざりませんか? 我々のレースまで暇を持て余すこともありますまい」

「いえ、結構。リアも僕も、そんな気分じゃないんだ」

 すげなく誘いをつっぱねて相手を追い払おうとしたのだが、ダスティは逆に粘着質な笑みを浮かべてエドワードに絡んできた。

「ははあ、レースを前にナーバスになっているということですか。まあ、仕方のないことかもしれません。なにせ、戦わずして負けが決まるかもしれないのですからなあ!」

 ダスティの大声は周囲にも聞こえたようで、エドワードたちをチラチラとうかがいつつ内緒話を始める者もいた。一部の者にはすでに、リアが出走させようとしていた馬が行方知れずになっていることも知られているらしい。

 この期に及んでまだリアを笑い者にする気なのか。エドワードは腸が煮えくり返りながらも必死で怒りをこらえた。リアは、下唇をきつく噛んで、屈辱に耐えていた。

「……パースニップは、必ずレースに出走させます。アルが……私の仲間が、きっと連れてきてくれます」

 リアは涙さえ浮かべながらいいかえす。

 ダスティはそれを強く鼻で笑った。

「仲間ですと! 聴いて呆れるとはこのことだ! 自分の馬を持ち逃げしたような男を、あなたはまだ仲間などとおっしゃるのですか? おめでたいにもほどがありますな!」

「ア、アルは! 逃げたわけじゃ……」

「強がりはもうよしたらどうです、リア様」

 しぼんでいったリアの声は、ダスティによって完全にかき消された。詰問を受けたリアの肩が、びくりと震える。

「あなたもお分かりになっているはずだ。あなたにはもはや勝ち目などないのです。よしんば馬が戻ってきたとして、それでどうなるというのですか? 前を走る馬を怖がって走るのを止めてしまう――それでどうやってレースに勝つつもりなのです? 他の馬が見えないように、大外でもぶん回してみますか? まあそうなればこちらから寄っていくだけですがね。ああ、だいいちそれだけ距離をロスしていればハナから勝負になりませんか!」

 ダスティの高笑いにつられて、周囲の者もクスクスと笑いが漏らした。

 リアはキッとダスティをにらみつけた。なにかいいかえす気だろうか。しかし――。

「リ、リア!」

 リアは弾かれたようにダスティに背中を向け、手の甲で口元を抑えて走りだしてしまった。

「お嬢様! お待ちください!」

 オールコックが慌てて呼び止めるも、リアは振り向きもせず、人波へ突っ込んでいく。

「フハハハッ! ベイトニアンが単走で走るレースの前には、ぜひともお戻りいただきたいですな!」

 リアが走り去った先に手を伸ばしたまま動けないエドワードを尻目に、ダスティが嘲笑を投げかけた。


 *

 

 人混みの中を駆けながら、リアは鼻をすすった。涙が止まらなかった。堰を切ったように瞳からこぼれ落ちる涙は、リアの頬をぐしゃぐしゃに濡らす。

 悔しいのか、それとも悲しいのか。乱れた心のまま、リアは場内をさまよった。

 気がつくと、馬場の近くまで来ていた。足を止めて周囲を見渡す。馬場と下見所を結ぶ馬道の終わり――ここは、いつだったかパースニップに踏まれかけたリアを、アルが助けてくれた場所だった。

「……っ」

 胸が一杯になって、リアはその場にうずくまってしまった。両手で顔を覆う。思えばあのとき、リアはパースニップとアルと同時に出会ったのだ。しかし今この場に彼らはいない――。

 そのとき、リアの背後から、スッと人影が差した。

「リア・ミースフォード様ですね?」

 聞き覚えのない、渋みかかった声だった。リアは反射的に立ち上がって振り向く。

 穏やかな顔つきでリアを見ていたのは、ハットの下から白髪をのぞかせた男性だった。

「あなたは……?」

 慌てて目元を拭いつつ誰何すると、男性はハットを脱いでリアに会釈をした。

「お初にお目にかかります。馬産家のオリヴァー・マクニールと申す者です」

「マクニール……! ベイトニアンの」

 リアが驚いて見つめると、マクニールはわずかに目を細めた。

「知っていただけているとは光栄です。あなたのお祖父様――先々代ミースフォード卿は、競馬に深い見識をお持ちの名士でした。あなた様がお祖父様の厩舎を引き継がれておられると聴いております」

「え、ええ、まあ……」

 いやに慇懃な相手の態度に、リアは困惑を覚えた。この人はなぜ、いよいよリアが窮地に追い詰められたこのタイミングで声をかけてきたのだろう? まさかダスティのように自分を馬鹿にしにきたのか? しかしマクニールの態度はダスティなんかよりもよっぼど紳士的に思える。

 ラチ沿いまで歩いていったマクニールは、馬場を見渡すように少し視線を上げた。

「そちらの馬喰が、馬を連れて出ていったそうですね」

 いきなり核心を突かれ、リアは身をこわばらせた。やはりリアをからかいに来たのか。それとも、なにかを探りに来たのだろうか。リアは慎重に言葉を選んだ。

「……アルのことをご存知なんですか?」

 振り向いたマクニールは、ほんのわずか口角を上げた。

「競馬の世界はそう広くない。長くこの世界にいれば、噂というものは嫌でも耳に入ってくるものです」

 それを聴いてリアはハッと思い出した。そういえばこの人は、パースニップのことも知っているのだ。

「パースニップは、あなたがお作りになった馬なのですよね? あの子を手放したのは、やっぱり気性難で競馬に勝てないから、ですか?」

 マクニールはさして驚いた様子も見せなかった。ダスティが内幕をべらべらと喋っていることなど承知しているということか。

 マクニールは穏やかな表情を浮かべ、リアをじっと見つめた。まるでリアの胸の奥を覗き見ようとしているかのようだった。リアは緊張したが、目はそらさなかった。

 やがてマクニールはリアから視線を外し、薄く雲がかかった空を見上げた。

「パースニップは、素晴らしい素質を持った馬です。できることならば、この手で育ててみたかった」

「え――」

 意外な言葉だった。目を丸くしたリアを見て、マクニールがかすかな微笑みを浮かべた。

「人と人がそうであるように、人と馬にも相性というものがあります。どれほど強く相手を思おうと実らぬ愛があるのと同じで、どうしたって自分には御せない馬はいるのです。しかし、そんな馬も別の者の手にかかれば嘘のように大成することがある。そうであるならば、人は自分の手に負えないその馬を別の者に引き渡すべきでしょう。違いますか?」

「そ、その馬のことを思うのならば、それも仕方のないこと、とは思いますけど……」

 突然の問答に戸惑いつつも、リアは正直な考えを答えた。

 マクニールは、達観したような顔つきで、ゆっくりと首を振った。

「わずかでも自分が関わった馬を簡単に手放せるならば、結局はその馬のことを真に思ってはいないということです。また、自分よりもうまく馬を育てた者に嫉妬しない者は、馬作りに対する情熱など残ってはいない、ということです」

 マクニールはリアに向けてしゃべっている。しかしそれは独白に近いように感じられた。

「なにを……おっしゃりたいの?」

「私のような人間が今でも馬を作り続けているのは、あの男がいるから、ということです」

 リアはますます困惑した。あの男というのは――アルのことなのか?

「あなたいったい、アルとはどういう……?」

 リアはいぶかしげな目をマクニールに向けた。しかしマクニールは謎めいた言葉の真意を口にしなかった。代わりに、ゆっくりと踵を返し、下見所へ続く道を開けた。

「そろそろ参りましょう。次のレースの装鞍と検量が始まる頃合いです」

「え、でも……」

 次はリアたちのレースだ。しかし、ベイトニアンはともかく、パースニップはこの競馬場にいない。アルだってまだ――。

 戸惑うリアに向けて、マクニールは優しげに微笑んだ。

「心配いりませんよ。このレースは、きっと良いものになります」

「あなたは……どうして私のところへいらしたのですか?」

 リアの問いかけに、マクニールは口元を斜めにする。

「生臭い理由です。私は馬を売る商売人だ。無事にレースが終わって懐が潤われた暁には、あなたにもぜひ私の馬を買っていただきたい。そう思ってお願いに上がったまでですよ」

 そういいのこすと、マクニールはリアを置いて歩きはじめた。


 2

 

 体を動かそうとすると、全身に痛みが走った。

「っ……」

 倒れたまま身悶えする。そうすると苦痛は全身に広がり、そのせいでかえって痛みの感覚は鈍っていく。派手に崖を転がってきたが、どこか骨が折れているということはなさそうだ。そんなふうに自分の身を冷静に診断するのがおかしくもあった。

 おそらく意識は途切れていない。自分の身になにが起きたか、鮮明に思い出せる。崖から足を滑らせた。岩肌の斜面を転げ落ちた。体中を擦りむいているようだが、たいした怪我はないようだ。知らず知らず身を守っていたということだろう。

 どのくらいの距離を転げ落ちてきたのだろうか。そう低いところまで落ちてきたわけではないだろうが、かといって元いた場所のすぐ近くというわけでもあるまい。痛みもあるし、上に戻るとなると少し厄介――。

「――パースニップ!」

 アルはそこでようやく、パースニップとはぐれてしまったことに気がついた。慌てて体を起こそうとする。強い力で押しつけられるような痛みで体が硬直する。だが、そんなことに構ってはいられない。

「……っ、パースニップ! どこだ!」

 痛みに耐えながらアルは叫んだ。しかしその声は木々のざわめきの中へむなしく消えていく。どのくらい離れてしまったか分からないが、パースニップが動かずにいたならばはるか崖の上にいるはずだ。いくら声を張り上げたところで上までは届きそうにない。

 とにかく、迎えに行かなければ。アルは足を一歩踏み出した。

 だが途端に膝ががくんと折れてしまう。足に力が入らず、その場にくずおれる。怪我はないと思っていたが、やはりダメージは残っているのか。一刻も早くパースニップを探しにいかなければならないのに、体は動いてくれない。

「くそ……」

 悔しさをにじませたそのときだった。

 カッカッカッ……。

 かすかにだが、蹄鉄の音が聞こえた気がした。

 アルはハッと顔を上げる。音はだんだんと近づいてくるようだった。山道の先へ目を凝らす。

 木々の合間から現れる、見慣れたシルエット。

「パ、パースニップ!?」

 驚いて声を上げると、少しキョロキョロしていたパースニップは素早くこちらを向いた。アルを見つけると、パースニップは一直線に山道を駆け下りてきた。

「お、おまえ、どうやって俺のことを……?」

 アルは痛みをこらえて起き上がり、駆け寄ってきたパースニップを迎えた。パースニップはアルの体を気遣うように頬をすりよせてくる。

 アルは困惑した。パースニップは自分だけで山道を降りてきたのか? しかし鬱蒼と木々が茂るこの山中では、崖の上からであってもアルの姿を目視することなどできなかったはずだ。

 やみくもに山を下ってきたところに運良くアルがいた、というだけなのか? それとも――。

「あっ――!」

 そのときアルの脳裏に、ひとつの考えが浮かぶ。次々と蘇ってくる、パースニップの姿。セリング・レースの日は、野次を飛ばされて突然足並みを乱した前の馬に驚き、パニックに陥った。併せ馬をしたときは、前を走る馬に接近した途端、急に身をすくめてしまった。そして今、パースニップは呼び声に応えてこちらを見つけた――。

「そうか、そういうことか……」

 すべての事象がひとつの理屈によってつながった。アルは興奮を覚えた。ようやく分かったのだ、パースニップがなにを恐れているのかが。

 だが、どうする? 原因が分かっただけで、問題が解決したわけではない。なにか対策を打たなければ、やはりレースを走らせるわけには――。

「――あ、あれか!」

 アルは大きく目を見張った。これが天啓というやつかもしれない。昨日、エドワードが持ってきたあれを使えば、根本的な解決にはならずとも、応急処置くらいにはなるかもしれない。

 アルの考えは固まった。しかし、こいつはどうなんだ? アルはじっとパースニップの瞳を覗きこんだ。

「パースニップ……、おまえ、走りたいか?」

 五年前、アルは自分のひとりよがりのせいで一頭の馬を壊した。自分はまた同じことを繰り返そうとしているのではないか? なんの確証もないともいえるとっさの閃きにパースニップを付き合わせていいのか……。

 不安にさいなまれながら、アルはじっとパースニップを見つめた。パースニップが出した答えは――。

「……フーッ!」

 パースニップは鼻腔を大きく開き、短く気を吐いた。見返してきた目には力強い光が宿っていた。アルに発破をかけようというのか、パースニップは頭を上げていななきを放った。パースニップ、おまえ……。

 もう迷いはなかった。アルは自分を励ましてくれたパースニップの首を抱く。先月出会ったばかりのこの馬が、まるで十年来の親友のように思えた。

 彼らはともに前を見据えた。怪我の功名というべきか、崖から転げ落ちたおかげでさっきよりもリアの屋敷に近づいている。この道を少し下ればすぐたどり着けるはずだ。

「……よし、行くぞ!」

 決戦の場へ向けて、アルとパースニップはまず第一歩を踏み出した。


 *

 

 からになった馬房の掃除を終えると、少年は一抹の寂しさに襲われた。

 昨晩までここにいたあの馬は、今はもういない。あいつもここを気に入っていたみたいだから、もう帰ってこないかもしれないと思うと本当に残念だ。

 パースニップを持ちだしたアルの兄貴はどこへ行ってしまったのだろう? あの人は誰よりもあの馬のことを気に掛けていた。リアお嬢様に黙ってあの馬を持ち出すなんてにわかには信じられなかった。きっと、のっぴきならない事情があったに違いない。

 鍬を片付けようとしたとき、奇妙な形の面がふと少年の目に留まった。馬用の兜だ。それを拾いあげた少年の頬が思わず緩む。最後の調教をした日、エドワードさんはレースであいつにかぶらせたいといって、骨董品のようなこの兜を熱心に磨いていた。その案は結局採用されなかったみたいだが、少年にとってはいい思い出だ。今ではあれがなんだか遠い日の出来事に思える……。

  少年の胸に寂寞の思いがこみあげたとき、厩舎の裏手から、大きな物音が聞こえてきた。

「な、なんだ?」

 少年は慌てて音のしたほうへ向かう。今日は留守番を任された自分以外は、リアお嬢様たちも師匠も競馬場へ行っているはずだ。馬の足音も混じっていた気がするが……、いったい誰だ? 盗人か? 少年は警戒しつつ厩舎の裏口から外へ飛び出す。

 そこにいた人馬を見て、少年はギョッと目を見張った。

「ア、アルさん!? それに、パースニップ!?」

 見間違えようもなかった。忙しなくあたりを見回しているのはアルの兄貴で、その傍らにいる栃栗毛の馬はパースニップだ。

「兄ちゃんか! リアたちはどこにいる?」

 少年に気づいたアルは、切迫した声で問いかけてきた。

「お、お嬢様たちなら競馬場ですけど……って、アルさん! どうしたんですかっ。怪我してるじゃないですか!?」

 アルは全身擦り傷だらけだった。頬骨や肘のあたりは擦りむけていて血が滲んでいる。パースニップは無事のようだが……いったいなにがあった?

「俺のことはいい! それより探してほしいもんが――って、それだ!」

 介抱しようと寄っていった少年の手元を指さし、アルは叫んだ。少年は例の馬の兜を持ったままだった。

「貸してくれ! ――いや、兜はいらない! 必要なのはこれだけだ!」

 アルは少年の手から兜を奪い取ると、裏に貼りつけられていた布を剥ぎとった。

「な、なにをしてるんですか、アルさん!?」

 怪訝な顔をする少年に構わず、アルは目の前でおんぼろの布を広げた。そんなもの、いったいどうするつもりなのだ?

「よし……これならいけそうだ」

「あのう、本当にどうしちまったんです?」

 困惑を通り越して心配になった少年を尻目に、アルは今度はハッと顔をこわばらせた。

「レースは!? まさかもう終わったりしてないよな!?」

「えっ、そ、そうですね……。今くらいなら、ちょうど下見所に馬を入れるところじゃないでしょうか?」

「ならギリギリ……いや、ダメだ! パースニップを曳いて競馬場に向かったんじゃとても間に合わねえ! 誰かがあいつに乗っていかなきゃ……」

 そうつぶやくと、アルは少年を見た。が、すぐに悔しげに首を振る。

「ダメだ……。走らせるにしても、レースまでに疲れを残さないように運んでいかなくちゃならない。パースニップを抑えきれないこの兄ちゃんじゃ無理だ……」

 アルの言動は依然として不可解だったが、パースニップを急いで競馬場に連れて行かねばならないことだけは、かろうじて理解できた。

「あの、街へ行って誰か呼んできましょうか? ちょっと待っててもらえれば……」

「いや、ダメだ。そんな時間を食うわけにもいかない。くそ、どうすれば……」

 アルは苛立たしげに頭をかきむしった。

「あの……」

 少年がいたたまれなくなってなんでもいいから声をかけようとしたとき、アルは突然自分の腿を拳で打ちつけた。アルの深刻な表情に、少年は驚く。

「やるしかねえ……手綱を貸してくれ! 俺がパースニップに乗っていく!」

「えっ?」

 少年は耳を疑った。アルの兄貴はたしか、馬には乗れないって話じゃあ……。

「心配すんな。これでも昔は、牧場の馬丁じゃいちばん馬乗りがうまいって褒められてたんだぜ?」

 振り返って少年に白い歯を見せると、アルは手綱を掴んでパースニップの背中に飛び乗った。


 *

 

「もう少し! もう少しだけ待ってください! ちょっと到着が遅れているだけなんです!」

 エドワードに食い下がられ、職員は明らかに困った顔を見せていた。ベイトニアンはすでに馬装の点検を終えている。ところがリアたちは一向にパースニップを下見所に連れてこようとせず、あまつさえ発走時刻を遅らせてくれといいだす始末。今日のレースで執行委員を任された役人からすれば迷惑きわまりないことだろう。

「アップルビー騎手! 早く天秤にお乗りなさい! どれだけ錘を確かめれば気が済むのですか!?」

「だってよ、なーんか錘が削れてる気がするんだよな。このまま検量したらコーセーな競馬ってやつができなくなるんじゃねえの?」

 一方、その傍らでは、メリッサが検量係を困らせていた。天秤が壊れているとかなんとかイチャモンをつけて、なかなかレース前に義務づけられた検量を受けようとしないのだ。もちろん、ベイトニアン騎乗のスティーブンス騎手はすでに検量を終え、ごねるメリッサを冷ややかに眺めていた。

 リアは自分の腰にすがりつくマルタを抱き寄せた。決断のときは迫っていた。

「あなたたち、いい加減にしなさい! これ以上レースの進行を妨害するつもりならばジョッキー・クラブに報告を――」

 とうとう職員はエドワードたちを諌めようと声を荒らげた。が、手を差し入れて職員を制したのは、ダスティ・キーガンだった。

「そろそろ観念なさったらどうです? これ以上の引き伸ばしは、ミースフォード家の品位を貶めるだけですぞ」

 リアを見下すダスティの目には、憐れみすら宿っているように思えた。

「で、でも……」

 悔しいけどダスティのいうことももっともだ。なにもいいかえせないリアは、ダスティの背後に付き従う人物を窺った。

「……」

 オリヴァー・マクニールは黙ってなりゆきを見つめていた。マクニールは下見所に到着するとすぐダスティの一行に加わってしまったから、もう言葉を交わす機会はなかった。彼の真意は依然、杳として知れぬままだった。

「もう潮時でしょう、リア様。さあ、おっしゃいなさい、『このレースを回避する』と。なに、あなたの勇気あるご決断を責める者などどこにもいますまい」

 リアは苦しげに眉根を寄せ、固く目を閉じた。潮時……か。そうかもしれない。これ以上、エドワードやメリッサの手を煩わせるのも忍びなかった。馬がいなければ勝ち目もなにもない。だったらいっそ、ここで負けを――。

「……来たか」

 低いつぷやきが不意に耳に届き、リアはハッと目を開けた。声の主は間違いない、マクニールだ。マクニールはわずかに口元を緩めると、おもむろにダスティから離れた。

 マクニールの姿が人ごみに消えたそのとき、正門の方角がにわかにざわつきはじめた。

「あ?」

 ダスティのいぶかしげな声をかき消さんばかりに、人々のどよめきは大きくなる。そして、そのどよめきをも切り裂くように、小気味いい蹄鉄の音がこちらに近づいてきた。往来の人々を横に飛び退かせ、下見所の前に駆けつけたその人馬は――。

「――アル!」

 真っ先にその名を叫んだのはリアだった。

「き、来た! パースニップもいる!」

「へっ……遅えんだよ」

 ついでエドワードとメリッサが、我先にと人馬のもとへ駆け寄る。

「わりい、ちょっと遅くなった」

 弱々しい声でおどけたように応えると、アルはパースニップの背から降りた。そこでリアはハッと気づく。

「アル、あなた、馬に――!?」

 状況からして、アルがパースニップを走らせてきたとしか思えない。しかしアルはたしか、馬に乗れない体質だったはずだ。

「アル、大丈夫ですか!?」

 よろめいたアルをマルタが支えた。エドワードも慌てて反対側に回りアルに肩を貸す。よく見えば服はあちこち破れ、体中に擦り傷を作っている。

「パースニップは……大丈夫だ。勝手に連れていったりして、本当に申しわけなかった」

 うなだれるように頭を下げるアル。リアの瞼には涙がこみあげてきた。

「いいのよ、もう。それより、早く体を休ませないと……」

「なに……いってんだ。先にやることがあるだろう」

 そういうとアルは、エドワードから離れて下見所内にいるダスティのところへ向かった。

「なにを今さら……。そのまま尻尾を巻いて逃げればよかったものを……」

 ダスティは見るからに忌々しげな目つきで、満身創痍のアルをにらんだ。

「へへ、悪かったね。往生際が悪いのが昔からの性分でね……」

 皮肉を返したアルは、レースの執行委員を見つけると、パースニップを指さした。

「今からそいつに馬装を施すから、点検してくれ! 大急ぎで済ませるから、時間はとらせない!」

 きょとんとした表情でアルとパースニップを見比べる委員を見て、リアも前へ出る。

「その馬がパースニップです! リア・ミースフォードの所有馬として、ダスティ・キーガン氏所有のベイトニアンとのマッチレースに出走させますわ!」

 リアの宣言で我に返ったらしい委員の男は、ようやくパースニップに取りついた。パースニップはすでに下見所の中に引き入れられ、マルタとメリッサの手で鞍を乗せられるところだった。 

「……だってさ、旦那。これで当初の約束どおりだ。文句はねえよな?」

 アルが不敵に告げると、ダスティは悪魔のように醜く顔を歪めた。

「好きにしろ! どうせそんな駄馬、ベイトニアンどころか、どんな馬相手でも勝ち目はないわ!」

 口汚い罵りは、リアにパースニップの抱える問題を思い出させた。

「ア、アル、パースニップは……」

 パースニップは前を走る馬が迫るとパニックに陥ってしまうという悪癖を持つ。それが解消されないことには、ダスティのいうとおりパースニップに勝ち目はない。パースニップを連れてきてくれたのはもちろん嬉しいが、それだけでは……。

「手は、ある。しかし、うまくいくかは正直、分からない。でも……」

 アルは言葉を切り、深く腰を折った。

「勝手に馬を持ちだしておいた俺がいえた義理じゃねえかもしれねえが……、リア、頼む。俺にあいつを任せちゃくれねえか……?」

 リアは大きくため息をつく。返す答えはとうに決まっていた。

「なにいってるの……はじめからそのつもりよ! 思う存分、やりなさい!」

 リアが発破を掛けると、アルはもう一度深々と頭を下げた。そしてダスティと委員のほうに向きなおる。

「すまない、ひとつだけ、パースニップに馬装を加えることを了承してもらいたいんだ。負担重量にも影響はないし、規則上も問題はないはずだ」

 ダスティと委員が怪訝そうな表情を浮かべるなか、アルはポケットから一枚の布切れを取り出し――それをパースニップの頭にすっぽりとかぶせた。

「それは……?」

「見てのとおり――覆面さ」

 馬の顔の形をした覆面――数日前にエドワードが持ち出してきた馬用の兜の裏地だった。

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