日常
耳障りな生徒たちの笑い声がする・・・。
龍輝は通学路の長い登り坂を上っていた。
今日もあの悪夢で目を覚ました。
ここ何日ずっと続いている。
おかげで寝不足だった。
欠伸を咬み殺しながら龍輝は登校していた。
海からの潮風が綺麗に脱色された龍輝の金色の髪をもてあそぶように流れていった。
潮の香りにつられて漁港を見降ろせばまだ漁港には朝靄がかかりそれはまだ目覚めていない街をすっぽりと包み込んでいるようにも思えた。
海から昇ってきた日の光が靄と海の青に反射してキラキラと輝いている。
それは通学路を登れば上るほど輝き、そして登れば上るほど耳触りなこの雑音は大きくなる。
なんかそれがとても残念で…。
はぁ…。
龍輝は深いため息を一つついて足を進めた。
他の生徒が楽しそうに話すなか彼はペースを速め、黙々と山道を駆け上がった。
この雑音を一緒に奏でていたくなかったし、奏でているように思われたくはなかった。
坂道を登り終えると最終的に着くのは白いお城の様な豪華な校舎と無駄に大きな校門。
ここが龍輝の目的地だ。
門には細かい天使や悪魔の装飾がほどこされ優しそうな天使達が生徒たちを見下している。
真ん中には聖女の銅像があり青い空に向かって手を上げていた。
天気の悪い日にみると聖女は雷を呼んでいるようにも見えるそんな恥ずかしい校門が立っている。
こんな校門をくぐるのはかなり気が引けるが、周りの生徒は堂々としたように龍輝を追い越し潜って行く…。
こいつらと同等に思われるのはイヤだが、入らないわけにはいかない…。
恥ずかしい校門を抜けるとこんな田舎街にあってもいいのかと思うほど豪華な白いお城のような建物が見えてくる。これがこの学校の校舎だ。
中性のヨーロッパのお城をイメージした左右対称の校舎でこの辺では珍しい6階建ての建物だ。
壁は白くここにも無駄に豪華な装飾が施されていた。中庭の木なんて綺麗に切りそろえられ、テディーベアーの形をした木が生徒達を出迎えていた。
ここが龍輝の通う海東明高校だ。
海東明高校この辺では有数の進学校であり、全国からこの高校に生徒があつまってくるらしい…。
だから、寮まで設備されている。
それが龍輝には興を成した。寮があるおかげで仲の悪い伯父と離れることができたのだから、それに関してはこの学校に感謝している。
この学校に来てもう5年になるが学校には何の愛着も湧かなかった。
学校になじめずにいたというのが最大の理由だろうと自分でも思う。
坂西 龍輝。それが彼の名前だ。
龍輝には外見に少々難があった。
髪は生まれつき綺麗に脱色されたような金色をしており瞳は青。
でも顔つきは東洋人でハーフ顔ではない。このギャップゆえに酷く苦労してきた。
地毛の髪には脱色容疑をかけられ、この瞳にはカラーコンタクトをしているなど勘違いをされ、しまいにはこの顔と風貌のせいか、ガラの悪い連中とつるんでいるなど根も葉もないうわさが独り歩きをし、そんな子と関わり巻き込まれたくないという私立特有の考えにより誰もが龍輝を避けるようになっていった。
入学当初は馴染もうと努力していた龍輝だったがそれもいつのまにか諦め、今ではどんどん道を踏み外していった。
制服を着崩し、この学校の校風にはそぐ会わないといえるほど外見はすんごいチャラい。
でも龍輝には誰も何も言わない。
見た目のせいでPTAに因縁をつけられたりしたが、さすが私立の親達だけある。
龍輝が全国模試で一位を勝ち取ってみせると何も言って来なくなった。
これほど滑稽なことがあるだろうか?
この学校は自分より成績の高いやつは皆、偉いらしい。
本当に笑える…。
全てがつまらない。
学校もこんな生徒も親も授業も全てだ。
「おい!坂西」
下駄箱まで来たところで声をかけられた。
その声には聞き覚えがあった。
あーもう・・・うんざりした顔で振り向く。
「またやっちゃったみたいだね?」と言ったのは柳 香だった。
彼は龍輝の同級生だ。
男のくせに大きな目にゆるいカーブの入ったくせのある栗色の髪で明朗的で活発で先生受けも良く、その上成績も良く学年3位の成績で男子からも女子からも人気のある奴だ。
「お前、また学年トップだぞ!すげーな」と 香の後ろから大江 郁が龍輝に言った。
こいつも龍輝の同級生で香同様、学年2位の成績を持つ。くっきりした二重にきりっとした切れ長の瞳。教師受けは良い方ではないが先輩受けがよく、こいつが歩くたび女子が大騒ぎするという学校一のイケメンだ。
二人があるくたびに人だかりが出来る。
そしてこの二人は残念なことに仲がすごく良く
だれもが龍輝を避ける中、彼らは面白半分で龍輝を見るたびに目の敵のように絡んできた。。
この風貌ゆえに出来れば目立ちたくない龍輝には迷惑極まりなかった。
「なんの話?」と龍輝はため息をつきながらそう尋ねた。
香は女の子に手を振りながら「週末にやった模試だよ」と女のような大きな瞳をこちらに向け笑った。
「ああ。あれね…」と返事を返す
興味ない…と思いながら靴を下駄箱しまい、下駄箱から履きなれた上履きを出す。
「興味なそうだね」と郁が首に巻き付いている香をはがしながら尋ねた。
はがされた香は不服そうに郁を見た。
「龍輝はどの大学狙いなの?」
「決まっているだろ?こいつのことだから絶対国立大学狙いだよ」
「大学?」と龍輝は返事を返した。
そういえばこの学校進学校だったな…とうっすらと思いだす。
大学に行くことなんて考えてもなかった。
「もしかして考えてなかったとか??」と香は驚いた顔をする。
「進路調査書明日までだぜ?」と郁が言う。
「あ…」と龍輝は言葉に詰まる。
「まったく…お前はわかった俺が龍輝にあいそうな大学探してやるよ!」と郁が自身満々にそう言った。
「お前、金ないからやっぱ特待制度があるところがいいよな?」と郁が尋ねてくる。
その言葉が勘に触った。
金がないから…。
「それくらい自分で探す!!もう俺に関わるな!!」と龍輝はそう怒鳴って近くの窓を勢いよく殴った。
窓のガラスが砕けちる音と共に甲高い悲鳴が廊下に流れる。
香と郁はその様子を動けずに眺めていた。
「龍輝…」と香が呟く声を無視して教室に入ると自分の席に座る。
廊下で教師と香と郁が話す声が聞こえてきたが龍輝は窓の外に目をやった。
窓の外を見つめるといつものように海が太陽に照らされキラキラ光っていた。
この学校は高台に立っているのでその様子が良くわかる。
「大学か…」
大学に興味なんてなかった。
この学校に入ったのも伯父から逃げるためだけの目的だった。
お金もないしなりたい職業があるわけでもない。
正直、高校はタルイ、勉強、勉強と教師は言うが、教師どもの教えていることなど龍輝にとってはすでに知っていることにすぎないし、教科書の内容なら何故か読んでもいないのに頭の中に入っていた。
龍輝にとってテストは無意味だ。
なぜ、皆がこんな問題すら解けないのか?
不思議でならない。
龍輝にはこの世界の成り立ちが全て当たり前だった。
なにを覚えようとしたわけでもない。
なぜか知っている。
それは大昔からそれを知っているような感覚で思い出とよく似ていた。
海はどこまでも広く龍輝を見つめていた。
あの向こうに行けたらどんなにいいのだろう?
龍輝の肉親は父親しかない。
母親は誰か知らない。
でもなんとなくだが母は外人ではないと思う。
まぁ根拠はないがなんとなくそう確信していた。
父親は龍輝がまだ赤ん坊の時に伯父の家の前に龍輝を置いてふいっと消えた
父親の兄であるおじは小さい頃からなんでも出来て秀才だった弟である龍輝の父が大嫌いだった。
当然、その子供の龍輝はおじとは上手くいくわけもなく、お酒を飲むたびに殴られて蹴られて…。
父の悪口を聞かされ育った…。
そして、家を飛び出すようにこの全寮制のこの学校に入っというわけだ。
元々、成績が良かった龍輝は何の苦労もすることなくすんなり入試をパスした。
なぁ?とうさん…。
なんで俺を置いていったんだよ…
龍輝は空を見上げた。
父さんのことはうっすらと覚えている。
空のような瞳と髪を持った人…だったと思う。
主人公は龍輝です。
彼は秀才というよりこの世界の全てを知っています。知らないなんてないのですヾ(>ω<。
全てを知っているのはつまらないことでしょう。知るのは楽しいことなんだから…。