悪夢。
それは何日も続く悪夢。
同じ映像が何度も何度も夢のなかで繰り返されていた。
遠くで鐘の音がした…。
なんだ…これ…?
目の前に広がる光景に悲鳴を上げそうになる。
しかし、全ては鐘の音にかき消された。
彼はそこに立っていた。
そことは小高い丘の上にだ
そこから見下ろして眼下に広がる戦場を見下ろしていた。
頭上には墨で黒く塗りつぶしたような黒い空。黒い動く生物が空一面を覆い尽くしていた。
それは何万羽という数のカラスだった。
カラスは下で繰り広げられている戦闘を煽るようにギャーギャーと耳触りな奇声を上げている。
目が開けられないほど強い刺激臭が辺りに立ち込めていた。
それは生き物の焼ける酷い匂いと吐き気の催す生臭い腐った生き物の死臭だ。
彼はとっさに鼻と口を手で覆った。
そして丘の下で繰り広げられている惨劇を彼は茫然と眺めていた。
なにも言えなかった…。
なにも声にならなかった。
ただ叫びのような音が耳に響く。
丘の下では銀色の鎧が1列に並び行進している。
その手には銀色に輝く武器が握られていた。
武器…。
それはファンタジーにでてくるカッコイイ武器とはまったく違う。
どれもこれも生々しい。おそらく…いや、間違いなくヒトを殺傷するほどの能力を持っているだろう。
魔法使いの杖のような大木を削って作られたものを持つものもいれば王道な鋭い剣や長い弓を身につけている鎧もいた。その武器にはそれぞれ赤や青の炎がメラメラ灯っていた。それはみるからに邪悪そうだった。
中には武器をもたず炎のみを手に宿しているものまでいる。
あれもヒトを殺すものだ…と彼は直観でそうおもった。
銀色の鎧達はまるで西洋のゲームに出てくる銀に輝く騎士団の行進のようだ。
いや…そのものなのかもしれない。
鎧と鎧がぶつかりあうガチャガチャという音にザッザッと鎧が土を踏みしめるリアルな音が混ざり、見るからに重々しい雰囲気が漂っている。
そして、そんな異様な鎧集団に向かい打つのは生身の人間だった。
中学生か?高校生か?10~20代くらいの年齢の男女が銀の鎧目掛けて突っ込んで行く。
それはまるで弾丸…。
人間弾丸と言ってもいいかもしれない。
彼らは一切防具をつけていない。そればかりか武器という武器を持っていなかった。
まるでふつうに農作業をしている人々に思えた。
着ている服は粗末なもので薄汚れているし、飾り気は一切ない。まるでドラマに出てくる貧しい村人達のようで決して兵士の姿はしていない。
鎧の様なものを着た者は一切見受けられなかった。
10~20代くらいの若者が無防備な姿で武器すら持つことなく狂ったように銀色の鎧に次々と特攻していく…その光景は言葉で表せないほど恐ろしい。その後何が起こるのか想像するのはたやすいことなのだから。
異形の獣や鎧集団は彼らを容赦なく切り裂いていく…。
どこを見ても噴水のように上がる血。
銀の鎧は血受けくすんだ色になっていく。
人々は次々と地面に落ち、血を吸ってどす黒い地面はまた鮮明に赤に染まる。
鎧は赤く染まったその足で屍を乗り越えなお進んで行く。
赤く巻きあがる血の中で、弓で射られ、剣で引き裂かれ、体がバラバラになっても人々は狂ったように鎧集団に襲いかかっていく人々。
彼らの眼はギラギラと赤く光り、どこか虚ろで何かに突き動かされているようだった。
それはまるで死に人の特攻と言ってもいいのではないだろうか?
業火で皮膚は爛れ落ち鎧を切り裂く手は血だらけ…
これをヒトと果たして呼べるものなのだろうか…。
…化け物と呼ぶのでは?。
その光景に彼はもう一度同じ言葉を呟く。
なんだ…これ…?
ほんの数時間前までは普通に高校生をしていたはずだ…。
(そんな感情が心の奥から溢れて止まらない。)
なのに、今は赤く染まりゆく戦場を見つめているのだ。
(理解が出来ない。なぜこんな気持ちになるのか…。)
異世界ってもっとわくわくする場所じゃないのか??
なんでこんなことが起こっている?
どうしておれはここにいる?
全てはあの男達に会ってしまったことから始まる。
こんな世界つまらないと思ったから彼の手を取った。
(あの男達が全て悪い!!しかし、それが誰のことか分からない…。)
どうしてあの時手を取ってしまったのだろうか??
あんな手取らなければ良かった!!!!
(黒く歪んだ感情が心を支配していく。。)
彼は黒い空を見上げた。
黒い空の隙間からちらりと見える青い空…。
(見たことのないほどそれは綺麗な空で…)
それはとても綺麗なのにすぐに烏に覆い隠されてとても儚くて…。
帰りたい…でも帰れない…。
(いったいどこへ…帰りたいのか分からない)
選んだのは自分だからだ。
全てがくだらない…。
何もかもつまらない…。
そう思っていたんだあのころは…。
(なにを後悔しているんだ?俺は…)
赤い炎がメラメラと目の前を囲んで行く。
まるでその映像を全て消すように…
(熱い…燃えるように熱い)
「あああああああああああ!!!!!!」
悲鳴と共に彼は飛び起きた。
血が脳内を逆流し、自分の鼓動が耳まで来ている。
赤い炎…そこでいつも目が覚める…。
まるで自分の体がその炎に焼きつくされるようなそんな感覚で目を覚ます。
体は熱く、嫌な汗が体を伝い、荒い息を整えながら彼は頭を抱えた。
「夢だ…あれは夢だ…」
夢なのに全てがリアルで細かなところまで鮮明に記憶していた。
そんな彼を嘲笑うように携帯のアラームが鳴り響いた。
私の携帯のアラーム、ディズニーオーケストラーの美女と野獣ヾ(>ω<。
ディズニー携帯さすがだよね♪♪ディズニー音楽取り放題☆ミ