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「メール」

作者: 木村 公

2014/08/15


 深夜、僕はスマホでネットサーフィンをしていた。

 一人暮らしの人間がその寂しさを紛らわせるために、それがすっかり習慣となっていた。半ば生活リズムが乱れつつあったものの生活習慣とは恐ろしいもので、この頃の僕はすっかりそれをせずには落ち着いて眠ることができずにいた。

 薄暗く夏のジメっとした部屋の中。なんとか心安らかに眠りに就こうとするその儀式の最中、ふいにメールが来たことで集中力を乱される。


 (なんだこんな夜中に…どうせ迷惑メールだろ)


ここ最近なぜか頻繁に迷惑メールが来るようになっていた僕は少し苛立っていた。

 そのまま放置することもできず、かといってアドレスを変える気力もない。結局メールが来るたびに削除している。妙なところが神経質だと損だ。せめてもの救いは一括で削除できることくらいだったが、技術とはやはり便利なものだ。夏の暑さのせいか、これまたなんともズレた称賛を送っていた。

 編集ボタンを押す、来たメールにチェックを付ける、削除をする。少し長く、スマホが動作中を示すマークを出す。そろそろ替え時だろうか。不必要なものは全て消したと妙にスッキリしたその時、またメールが一通来た。


 (消した側からこれか、参ったな)


 メールをタッチするが開かない。下にスワイプしても無くならない。おかしい。新手の迷惑メールだろうか?変なウイルスをもらっても困る。よくよく日付を見ると1970/01/01と書いてある。1970年といえば、パソコンはおろか携帯電話ですらまだまだ普及していない。ネットも一般に広がっていない時代、自分がまだ生まれてもいない過去から突然メールが来たわけだ。


 (開けたい…)


夜中のジットリした暑さといきなり来た意味不明なメールのせいで、僕の頭はすっかりおかしくなっていた。

 タッチする、無反応。スワイプする、無反応。編集、チェック、無反応。削除する、無反応。


 開かないとなると俄然開けたくなる。人間の好奇心とは厄介なものだ。段々操作する指の力が強くなる。しかし、相手は情報の集まりにしか過ぎない。押し方を変えたところで開かないものが開くわけではない。分かっていても、やめられない。押しても押してもウンとも言わない。ふいにパソコンのアドレスに転送することを思いつくものの、開けられなければ転送すらできない。仕様とは不便なものだ。

しかし開けられないと思えば思うほどに開けたくなってしまう。なぜ開けられないのか?訳が分からない。


(開けたい)


タッチする、無反応。スワイプする、無反応。編集、チェック、無反応。削除する、無反応。


(おかしいな)


タッチする、無反応。スワイプする、無反応。編集、チェック、無反応。削除する、無反応


(やめられない)


タッチする、無反応。スワイプする、無反応。編集、チェック、無反応。削除する、無反応


(止められない)


タッチする、無反応。スワイプする、無反応。編集、チェック、無反応。削除する、無反応


無反応、無反応、無反応、無反応。



…………………無反応


何度も何度も指が操作してしまう。


段々と頭の中が真っ白に広がっていく。視界も眩しくなりチカチカと光が明滅を繰り返し始め、ついに光が辺り一面に広がったその瞬間、僕の中で何かがパンッと弾けた。

 

 消えゆく意識の中で、もしあれが開いたらどうなるのかを考えていた。ウィルスだろうか、中の情報が抜き取られるのだろうか、はたまた、過去の誰かが必死に何かを伝えようと送ったのだろうか、もう何も、分からない。

 翌朝、布団の中でぼんやり暑さを感じ始めていると、昨日のメールのことを思い出し、すぐさまスマホに手を伸ばす。フォルダを開けるが、メールはもう、どこにもなかった。

実際の体験を基に書いてみました。あの時の感覚を伝えたいです。

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