プロローグ 時代の波
21世紀半ば アメリカのとある軍港
老人「はぁ……」
軍港の桟橋に一人の老人が“何か”を見上げながら悲しげにため息をついている。視線の先には数年前に退役し、解体を待つだけとなったニミッツ級空母ハリー・S・トルーマンがあった。
実はこの老人、元ハリー・S・トルーマンの艦載機パイロットである。就役直後からF/A―18ホーネットに乗り、艦載機がF―35に替わったあともずっとこの空母の上で飛び続けた。そして20年程前に体が加齢により限界をむかえ、空母より一足先に退役した。
後輩「こんにちは、最近元気ないですね」
老人「あたり前だ……」
老人のもとに一回り若い男性が近づいて声をかけている。ちなみに彼も元艦載機パイロットであり、老人の後輩のような立場であった。彼もまた老人程でないにしろ、少し寂しげな顔をしている。
後輩「解体、か……こいつの姿ももう見納めですね」
老人「見納めなのに誰も見に来てないわい」
後輩「しかたないですよ。“時代遅れ”になってしまったんですから」
老人「………………」
そう、補助的なヘリ空母などは別として、艦隊の主戦力としての正規空母は時代遅れとなってしまったのである。かつて見学ツアーを開催すればチケットが即完売するほど大人気であった空母は、今や解体間近にも関わらず、当時働いていた一部の退役軍人ぐらいしか見学に来ないほどまで地位を堕としていた。
では空母を王者の座から引きずりおろした兵器とは?
西太平洋
「対水上戦闘用意!」
「全艦、敵艦隊へ30秒後に一斉射撃」
「データ入力完了」
「主砲斉射5秒前、3……2……1、斉射っ!」
ドドドォーン……
答えは装甲を備えた大型の砲艦……
つまり『戦艦』である