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自動書記探偵

「コックリさん、コックリさん、お出で下さいませ。もしお出で下さいましたらお進み下さい」

 

 目の前には横向きに置かれた画用紙。そこには私が書き付けたひらがなの五十音、中央上辺に鳥居の記号、それから底辺に「はい」「いいえ」。


 ずず……。ゆっくりと鳥居の上に置いた人差し指、その下の果たして十円玉が小刻みに動きだし、「はい」へと移動を始める。


 どうしても知りたいことがあった。この謎を解ける名探偵は知り合いにいない。オカルト研究会に所属し根の暗い私には相談できる友人すらいない。頼れるのはコックリさんだけだ。


「私の好きな人は誰ですか?」


 十円は不規則な動きをみせ五十音の「た」「か」「し」と、それぞれの文字で止まっては移動を繰り返した後、停止した。

 柏木孝司。私と同じオカルト研に所属する一学年上の先輩の名前と一致した。

 回答に間違いはない。

 半信半疑の儀式がすこしだけ信用できる気持ちに変わる。

 だがこの質問はただの小手調べに過ぎない。もう一度質問して答えが本当なら信じることにしようと心の中で決める。


「たかし君は今どこにいますか?」


 意を決して声を出すと、すぐにまた十円がゆっくりと動き始める。この質問はできればしたくなかった。


「あ」「の」「よ」


 私のなかで確信に変わる。間違いない。これは占いごっこではない。コックリさんは本物で私の質問に答えてくれている。

 あの世。そう彼は屋上から飛び降りて死んでしまった。屋上にはスニーカーが残され遺書めいたメモ書きもあり、警察には「模試の結果に悩んだ末の自殺」と勝手に判断されてしまった。


「答えてコックリさん」


 私の頬をいつの間にか涙が伝っていた。

 名探偵に知り合いはいない。頼れるのはあなただけだ。

 解けない疑問があった。彼が自殺とは思えなかった。前日まで元気に学校にきていた。そしてその放課後、私に告白してくれた。私たちは恋人になるはずだった。


「彼は本当に自殺なの?」

「た」「さ」「つ」


 他殺?


 私はその答えにひどく動揺する。

 彼の自殺を信じてはいなかった。

 とはいえ彼が殺されたという事まで想像できていなかったのだ。

 彼はオカルト趣味はあっても人当たりがよかった。恨みを買うような人ではなかった。犯人は誰なのか。なぜ犯人は彼を殺したのか。どんな方法で警察の目を誤魔化せたのか。

 心のなかに無数の疑問が湧き上がる。


「犯人はどこにいるの?」

「こ」「こ」

「学校? 犯人はこの学校の関係者なの?」


 十円は下方へと移動し「はい」へと停止する。

 頭のなかを、無数の顔がよぎっていく。担任の教師、クラスメイト、先輩。犯人は私がよく顔を

 この先、これ以上の事件の真相について知ることが恐ろしくなってきた。だがそれでも質問を止めることができない。指先だけではなくまるで口まで支配されてしまったように勝手に声が出てしまう。


「犯人はだれですか?」

「さ」「き」


 私は下唇を噛む。心当たりはひとりしかいない。

 同級生の雨本沙樹。

 同じオカルト研究会のメンバー。彼女はオカルト好きというよりは傾倒していた。「悪魔を呼び出すため」という名目で野良猫を平気で殺したり、気に入らない相手を「呪い殺すため」に常に五寸釘と藁人形を携帯していたり等、素行にも問題があった。目に余るその数々により謹慎処分を受けて以来、現在不登校になっていた。

 他にもたかし君を「運命の人」と呼び過去ストーカー紛いなことをしていた事があったのを思い出す。彼女が犯人だったなんて。


「ちょっと待って」


 重要なことを見落としていた。不登校ならば何故コックリさんは、犯人すなわち沙樹が学校にいると回答したのだろうか。もう一度先ほどと同じ質問をしてみることにした。


「犯人はどこにいますか?」


 十円はまるで嫌々をするみたいに意味もなく「はい」と「いいえ」の間をふらふらした後、諦めたかのように五十音へ向かい始めた。

 口にしてから私はこの質問をした事を後悔していた。そもそもこんな儀式を始めてしまったことを後悔し始めている。

 私は他人の目を気にする性格だ。ここでオカルト紛いな遊びをするにあたって一応だれも居ないことは確認している。掃除用ロッカーのなか、厚めの黒いカーテンの後ろ、机の下も一応、点検済みだった。

 どんなに耳をすませても息づかいや、衣類の擦れる音なんてしなかった。人の気配なんてどこにもなかった。

 それでも背中がじっとりと嫌な汗をかき始めていた。

 十円玉が動くのを止めて、コックリさんのお告げが完成した。


「お」「ま」「え」「の」「す」「ぐ」「う」「し」「ろ」。


 私はゆっくりと振り返った。

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