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刻まれた想い



………乱れた褥の上、汗を浮かべた艶やかな肌を、己の腕に閉じ込め、蓮は摩南に話し掛ける



「やっぱり、後悔しそうだ……

こうして、摩南の肌に触れた事が忘れられなくて、他の事が考えられなくなりそうだよ…」



摩南は、汗ばんだ肌に顔を寄せたまま、

「私だって同じ…

でも…忘れたくはないの。

だから、他の人みたいに術を掛けたりしないで。


夢としてなら、覚えておいても構わないしょう?」

と、呟くように答えた。


そっと面を上げ、上目遣いに自分を見つめる彼女の瞳に、蓮の胸は一層苦しさを増す。



「私達…もう、逢う事も出来ないのかな?」


「いや、姿を見せる位なら簡単な事。

僕と摩南の波長は、良く合う筈だからね…


そう…今から考えれば、真っ先に、摩南と引き合ってもおかしくなかった位なのに…不思議だな。」



蓮の頬を指先で撫で、摩南は自分の想いに耽る。


…また逢えたとしても、私達はどんな関係なんだろう?


全然知らない蓮の世界。


只、顔を合わせ懐かしい話をするだけなの…?



物憂げな表情の彼女を見つめながら、蓮は摩南の髪を指先で梳く。

彼女は、頬に触れる、優しい指先の感触に身を任せている。


「…引き寄せられた日以外で、蓮に抱かれるとどうなるの?」

摩南の唇から零れ落ちた言葉に彼は少し切なげな笑みを面に浮かべた。






「僕の精を受ける相手の身体から、生気を抜く事になる。

勿論、すぐに衰弱させるまでには至らないだろうが…


同じ性質の者は、話にしか聞いた事が無いから、詳しくは判っていないんだよ。」


「他の龍は?


昔話や言い伝えに残ってるのは人の世の作り話なの?」


蓮は、その言葉に首を振る。



「遠い昔に、龍と結ばれた者が居るのは真実。


畏れ敬われたのが、神と呼ばれる者だからね。

解釈次第で話も変わるだろうが結ばれ、子を残した者もいるだろう。」


…遠い昔か。


まだ、自然と人が密接だった時代なんだろうな。


「僕が、他の龍体と同じなら…

結界以外で、摩南に出会えていたら…側にいてくれた…?」


蓮は、切なげな溜め息を漏らし呟いた。


摩南の髪に唇を寄せ、囁く様に話し掛ける。



「矛盾だと判っても、そんな風に思うよ。


只の龍ならば、幼い日に人の世で一人遊ぶなど無いから、出会う時期は違ったかもしれない。

一族の幼い者同士で集い、目上の者の導きでしか、次元を超える事は無いけど…」


摩南を抱く手に力が籠る


「少なくとも…

いつでも、愛しい人を抱けるのだろうな。」


「蓮…」


…もしかしたら、同じ人を引き寄せ無いのは、情が移らない方が楽だからなのかもしれないね。



人の命の方が短いなら、想いを残す龍の方が、一層辛いのかもしれない。





…一年に一度しか、身体を交える事が出来ない辛さ。


でも、相手に会え、側にいるのならば、それだけで安心し、幸せを感じる事も出来るかもしれない。


だけど、龍は……


人が早く亡くなるのを知っていて、見送るのを覚悟しながら、生きていく。



先に逝くよりも、残され長い時を生きる龍には、遥かに酷だとしたら?


その自分の考えに、摩南の心が揺れる。



身体を繋ぐ直前にも、お互いに自分の執着に戸惑い、一瞬躊躇した二人だった。



反対に、残されるのが私なら?



…もしも、突然蓮の身に何か有っても、私は会いに行く事も、誰かに話を聞く事も出来ない。



蓮と会っていたのは、只の夢だと笑って過ごせる?


二人の時間が長くなり、濃密になる程、取り残される哀しみは増すんだよ…


摩南は、自分の考えに身震いした。


…蓮があんなに躊躇したのは、長い時間に取り残される想いを知ってたからなのかもしれない


それに、逆の私の立場も考えて?…


髪に寄せられた蓮の唇が摩南の瞼に落とされる。


「摩南?」


心配そうに彼女の瞳を覗き、そっと摩南の唇を塞ぐ。


優しく舌先を忍ばせると、摩南の舌先が蓮を誘い絡み付いた。

甘い吐息を交わし、深く激しく探り合った唇を離せば、銀色の糸が一筋お互いを繋いでいた。


「…色んな考えが溢れて来ちゃったの。

もし、このまま蓮と会うようになっても、何か起これば理由も判らずに一人になるんだって。」


潤んだ眼で、淡々と語る彼女の言葉が、蓮の胸に響いた。







「それに…蓮と私がずっと想いが変わらなくて側に居ても、先に私はいなくなる。


蓮が、取り残される時間は、私よりも長いんでしょう?」


蓮は摩南の頬を撫で、静かに語り出す。


「そうだよ…摩南の言う通り、龍の生きる年数は、人とは比較にならない。

その中でも、僕は特異な者。


秘められた潜在能力が目覚める毎に、生命力も高まってゆくだろう。」


「人といても寂しさが残るだけなの…かな…」


「人と同じで、先の事は僕にも判らない。


これから、摩南が運命だと思う相手と巡り逢えば、僕との出会いは、懐かしい不思議な思い出に変わる可能性だって有るんだ。

そうして、昔の話が伝えられ、形を変えて残っているんだからね。」


「そうだね。ごめん。


何だか、余計な事ばかり頭に浮かんでる…」



蓮は、指で彼女の顎を上げ、瞳をじっと見つめて言った


「摩南の疑問も不安も当たり前の事だ。


知っていて事に及んだ僕とは違うのだから…

だから、謝まるのは僕の方だよ…」



御免よと呟きながら、蓮は腕を回し彼女の身体を抱き締める。

摩南も、蓮の腰へと腕を回しながら、紅い跡が残るくちづけを彼の胸元に残していた。


ちりりとちいさな刺激が肌に走り、摩南の唇の痕跡が残される毎に、心が締め付けられる蓮。




…あんなに何度も果て、求め合ったにも関わらず、まだ足りない位に摩南が欲しくて身体が熱い。



彼女の身体を、この熱で貫いて溢れる蜜の奥に沈み、悶え啜り泣く悦びの声が聞きたい。


耳元で、絶え切れずに漏れる甘い吐息を、もう一度聞かせて欲しい…


既に、かなりの時間が経っている。


摩南が、快感に意識を翔ばし、気怠い身体を清めた後にも、見つめ合い唇を重ねれば、互いの身体を欲していた二人だった。


蓮はふと、薄闇に漂う炎に目を向ける。


枕元に揺らめく白い炎の色が、薄い蒼色になっている。


「この色が蒼になれば、宵闇の儀式は終わる。


あちらでは、そろそろ夜明け…

摩南を、此処から送り出す時間だ。」


「色が変わり始めてる…

もうすぐなんだね。」


二人は炎に顔を向け、静かにそれを見つめていた


蓮は身体を起すと摩南の腕を取り、起きる様に促した。


互いに何も纏わぬ裸のまま、瞳を交わす蓮と摩南。


蓮は、彼女の指先を持ち上げて言った。


「僕からしか、摩南に逢えない訳じゃない。」


そう言うと、彼女の右手に光る指輪にもう片方の手を添えた。

それは、乳白色のムーンストーンが嵌め込まれたカレッジリングだった。

自分で形と石を選び誂えた、お気に入りの指輪。





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