惹かれる心と身体
二人は、しばらく無言のまま見つめ合っていた。
不意に、蓮の身体が前へと傾く。
「えっ…」
白く輝く髪が、摩南の額に掛かったと思った瞬間、彼女の唇は蓮の唇によって塞がれていた。
摩南の肩を空いていた手で引き寄せ、ゆっくりと味わうかの様に唇を奪う蓮。
「っん…っん…ハアッ…」
合間に漏れる摩南の吐息が、蓮の背筋をぞくりとさせる。
そっと唇を離すと、蓮は素直な気持ちを摩南に告げた。
「お願いだ、摩南。
このままだと、自分を抑え切れない。
摩南だからこそ、大事にしたいんだ…僕の勝手な都合で、抱いたりはしたくないから…」
摩南の顔を隠す様に、自分の胸に閉じ込め、強く掻き抱く。
細身だが、しなやかな筋肉が付いた逞しい蓮の身体。
すっぽりと包まれた腕の中、顔を寄せた胸からは速まる鼓動が聞こえる。
蓮の熱い身体、掠れた声
そんな彼に、摩南の身体も徐々に熱が高まる。
重なった唇の熱さが、摩南の心と身体を震わせた。
…嫌じゃない。
遥か昔に会っただけなのに、蓮の側は心地良くて。
初めて会った時もそうだった。
そして、蓮が急に帰ると姿を消した後、ぽつんと一人取り残され泣きそうになった私。
あの後、おばあちゃんに話を聞いても、「近々、引っ越しをする家は聞かんなぁ。
山向こう言うても広いし…」と言われた。
「大丈夫。
摩南と同じ様に遊びに来た子なら、誰かに聞いたらすぐに判る筈やわ。」
でも、おばあちゃんが知り合いに聞いても誰も知らなかった。
「その年頃の男の子なら、すぐ判る筈やけどねぇ。それか、墓参りか、神社にでも立ち寄っただけなんかもしれんなぁ?」
それでも、小さな私は田舎に行く度に、あの川や裏の里山の祠へと足を運んだ。
自分の名を教えながら、はにかむ蓮の笑顔がもう一度見たかったから。
あの川で、水飛沫を掛け合う時の無邪気な彼と、もっと知り合いたかったから…
いつの間にか諦め忘れ去っていたあの男の子が、今、私の側にいる。
幼い時の面影を残しながらも、凛々しく眩しい青年の姿で。
そして、私の唇に触れ、身体を熱くさせているのだ
これが夢と言うならば…
「…夢なんでしょう…?
蓮がそう言ったんだよ?それなら…構わない…」
摩南は、蓮の腕に閉じ込められたまま、囁く様に想いを伝えた
彼女は、柔らかな腕を彼の背中へ回し、そっと力を込め身体を密着させる。
摩南の思いがけぬ言葉に驚き、面を上げ、彼女の顔を見下ろす蓮の瞳。
顔を胸に埋めたまま、摩南は蓮に語り掛けた。
「蓮が言った通り、私だって大人になったんだよ
だから、蓮が私の事大切な思い出だって言ってくれる気持ちも判る。
でもね、すぐにまた違う人を抱かなきゃいけない…
それが、虚しいって言うなら…私を抱いていいよ…」
摩南は、そっと顔を上げ、蓮の瞳を見つめ返した。
どくりと胸の鼓動が上がり、自分の身体の中心に熱が集まるのを蓮は感じた。
自分の身体に抱き付く、しなやかな摩南の身体。
そして、押し付けられた、柔らかな胸の膨らみが、彼の欲情を引き出す要素となる。
そして、くちづけた甘い唇から優しく零れる摩南の言葉。
「これが、
夢だから…か?」
「只の夢じゃないよ。
蓮との夢だから…
私ね、蓮の側にいるのが好きだったみたい。
だから、また夢で会えて、大人の蓮に抱かれるなら良いって思ったの…」
摩南は首を伸ばし、蓮の頬に優しく唇を落とした
彼女が唇を離した瞬間、蓮の唇が素早くそれを塞ぐ。
摩南の唇を啄み、顔の角度を変え、幾度も幾度も柔らかさを求め、唇を貪る彼。
彼女は、彼の求めるままに唇を許し、そして、自分の想いを伝えるかの様に、自らも唇を尖らせ蓮の唇を挟みくちづけを返す
ハアッと息を漏らし、唇を解放した二人は互いに求め合っているのだと知り安堵する。
甘い沈黙を破ったのは、蓮の言葉だった。
「初めてだ…
結界の時の流れが緩いのが、こんなにも嬉しいものだなんて。」
…そう、初めてだ。
此処で、自分の望む相手と身体を交える事も…
蓮は腕を解き、摩南の頬を掌で包み引き寄せた。
「…蓮…」
彼の名を呼び、摩南は近付く唇に再び瞼を伏せる
蓮は、尖らせた舌先で摩南の唇の縁をそっと舐め上げ、優しく唇を割り開き、温かな口内へ舌を這わせた。
…蓮の優しくて熱い唇。
なんて、気持ち良いんだろう。
こんなにも胸がときめいて、もっともっとと求めてしまう。
初めて会うに等しい人に抱かれたいなんて思えたのは、蓮だから…
お互いの事、何も知らないのに好きだって言えるのも彼だから
夢でも…こんな幸せな夢、初めてかもしれない。
零れる吐息と甘い声に反応し、蓮の舌先が、摩南の舌を誘う様に深く絡み付いてくる。
蓮は唇を合わせたまま、摩南の身体を柔らかな褥にゆっくりと誘った。
摩南の首の下に腕を回し、もう片方の手で彼女の背中を撫で、彼女の肌の温もりを堪能する蓮。
くちづけを交わし合う最中も、悦びと現実を確かめるかの様に微かに瞼を開くと、互いの瞳がぶつかりあう。
交わす想いの甘さ、
刹那の時の哀しさ、
様々な想いが揺らめく瞳
そんな想いを伝えながら、素直に反応を現す身体に、二人は益々蕩けてゆく…
摩南のシャツのボタンを一つ外す度、蓮は彼女の露になる肌に唇を落としきつく吸い上げた跡を残す。
ちりっと刺激を受ける感触に、小さく声を上げる摩南が愛しくて堪らない
蓮の残す紅い華が、摩南の首筋から胸元まで散りばめられてゆく。
そうして、纏っていた服を全て脱がせ、薄闇に摩南の白い肌がうっすらと浮かぶ様に、蓮は思わず息を飲んだ。
初めて裸体を見つめられ仄かに染まる柔肌の色。
彼女は、華奢な腕で、豊かな胸の膨らみを押さえ、脚を捩じり下半身を隠し、蓮の食い入る視線を全身に受け肌を染める。
「ねぇ…蓮も脱いで…?
私だけなんて…恥ずかしいから…」
「あぁ…」
と、掠れた声で頷き、彼は腰紐へ手を掛けしゅるりと解く。
彼は、緩んだ浅葱色の袴を、腰に引っ掛けたまま、真白な着物の紐を解き、胸元を裸けた。
そして、摩南の肩を優しく一撫ですると、ばさりと着物を脱ぎ腰を上げ袴から脚を抜く蓮。
「摩南…」
背後から抱き込まれ、耳元で囁く声に、摩南の身体が反応する
彼女の耳朶を優しく甘噛みし、蓮は白い肌へと手を伸ばした。
宵闇の結界に響く、摩南の甘い吐息と、蓮の優しい囁き。
二人の重なる身体の下では、柔らかな衣擦れの音。
互いの熱を感じ伝えながら、白い肌が闇の中で絡み合っていた…………
※ムーンライト
【闇の恋歌】にて、二人の甘い睦言を執筆予定。
活動報告にてお知らせいたします。