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◆◆◆◆

摩南は、いつもの様に仕事を終え帰宅していた。


残業で、思いがけない時間まで会社に残った彼女は、冴え渡る夜空を見上げながらゆっくりと家路を辿る。


「はぁっ、集中し過ぎて疲れちゃった。

ま、一区切り付いて代休くれたしね。」


…それにしても綺麗な月

なんだか、癒されるなぁ


ぼぉっと空を見上げ、立ち止まる。



「本当、私って昔から月眺めるの好きだよね。

綺麗過ぎて、涙が出ちゃう時も有る位…

不思議だよね。」



マンション脇の公園の

大きな樹々。

街灯が照らす公園の上には、ぽっかりと丸い月が浮かんでいた。


ふと視界に入る、見慣れぬ光。


樹々の間、公園奥にゆらゆらと立上ぼる淡い光に摩南は目を止めた。


「誰かライトでも持ってるのかな?」



深夜の訝しげな明かりに少し身構えながら、摩南はじっと明かりを見つめる。


小さな光は公園奥から近付き、人影など無いまま宙に浮かんでいた。



びくっと摩南は身体を強張らせ、その場に立ち尽くした。


…あれって、人魂とか鬼火とか呼ばれる物…じゃないの?


なぜか、怖さなどは無く逃げようとも思えなかった。


摩南の瞳は引き寄せられる様に、その光を見つめ続ける。





光は徐々に大きさを増しその中に影を写し出し始めている。



僅かの時間の間に、それは淡い光を纏う背の高い人影となり、真っ直ぐに摩南の元を目指して歩いていた。


「誰…?何なの…?」


戸惑いの言葉が、口から零れ落ちる。


彼女よりも遥かに長身の男の姿。

輝きの中から、すっと手が差し延べられた。



「僕との時が重なった…

申し訳無いが、夢を見たと思って、僕と一夜過ごして頂きます…」



眩さに目が慣れず、男の顔さえも分からない。


摩南に判るのは、差し出された細く長い指先と、着物の袖口ぐらいなものだった。


「ちょ…っと…

えっ?一体な…に…」


言葉の途中で摩南は、光の中へとぐいっと腕を掴まれた。

と同時に、彼女の身体は細身だが逞しい胸へと包まれる。


耳元で、彼の優しく囁く声が聞こえた。


「今宵一夜が過ぎれば、こちらの世界に戻れます

御安心を…」


緩やかに身体の力は抜け落ち、意識がまどろみへと誘われる。


彼の唇が、耳元から頬を掠め、摩南の唇へと重ねられた。


「んっ…あっ…」


突然の事に、息を漏らす摩南。


そっと唇を離された後に彼女はまどろみの中、問い掛ける。


「…本当に…誰?

何者………な……の?」



「……説明しても、理解して頂けるかどうか。


せめて、名だけでも……。

蓮…と、御呼び下さい。」




「レ……ン?……」


「そう……

しばしの間、眠ってて下さい……話は後で…」


摩南は、その言葉を聞きすぅと意識を手放した。


何処か物憂げな表情で摩南の顔を見つめ、蓮は片手を空へと掲げる。


掌から一瞬強い光が放たれると、身体を包んでいた淡い光はすぐに闇へと融けてゆく。

二人の姿は、あっと言う間に影も形も無くなった



深夜の公園は静けさを取り戻し、普段と変わらぬ風景となる。



通りすがりの者も気付かぬ、一瞬の出来事。



満月の下、何事も無かったかの様に、樹々のざわめきだけが響き渡っていた………






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