9.壊す
『壊す』
心くんはリナを横抱きにしたまま、寝室のドアを足で押し開け
た。
広い部屋。
柔らかなベッド。
薄暗い間接照明。
その中央に、リナの身体が静かに下ろされる。
ふわりとシーツが沈んだ。
「心くん……待って……」
リナが言いかけた瞬間、
心くんの手がベッドの横に落ちていたリナの手首を取った。
逃げ道を塞ぐように。
「待たない」
低く、静かな声だった。
でもその声の奥には、
今まで見たことのない熱が滲んでいる。
「何年待ったと思ってんの」
心くんはゆっくりリナを見下ろした。
その瞳は暗くて、深くて、
どこまでも底が見えない。
「俺さ……」
指先がリナの髪に触れる。
優しく梳くように撫でながら、吐き出すように言った。
「リナにはずっと優しくしようって決めてたんだ」
「リナの前では普通でいようって」
「怖がらせないようにって」
指が頬に触れる。
そのまま顎をすくい上げられる。
距離が、近い。
息が混ざる。
「でもさ」
心くんの眉が少し歪んだ。
「今日、あの男と笑ってるの見た瞬間」
喉の奥で、低く笑う。
「全部どうでもよくなった」
リナの心臓が大きく跳ねた。
「俺がどれだけ我慢してたか……リナ知らないでしょ」
手首を掴む力が強くなる。
「七年だよ」
「七年」
「リナが居なくなってから、ずっと」
ゆっくり顔が近づいてくる。
「欲しくて欲しくて……」
額が触れる。
「狂いそうだった」
そのまま強く抱き寄せられる。
逃げようとした瞬間、
背中に腕が回され、完全に閉じ込められた。
「ほら」
耳元で囁く。
「震えてる」
リナの身体をぎゅっと抱きしめながら、
心くんは息を吐いた。
「怖い?」
少しだけ声が優しくなる。
「大丈夫」
でも次の言葉は、
ぞっとするほど甘かった。
「壊さないよ」
「ただ……」
指がリナの背中をゆっくりなぞる。
「ちゃんと覚えてもらうだけ」
「リナが誰のものか」
胸の奥がざわつく。
「心くん……」
名前を呼んだ瞬間、
唇が塞がれた。
今度は逃がさないように。
長く、深く。
何度も重なる。
「……はぁ」
唇が離れたあと、
心くんはリナの額に額を押し付けた。
息が荒い。
「ねぇリナ」
低く囁く。
「俺以外の男と二人で出かけるの」
指がリナの顎を持ち上げる。
「もう二度としないって言える?」
沈黙。
その一瞬で、
心くんの目の奥の色がさらに濃くなった。
「言えないならさ」
くすっと笑う。
でも目は笑っていない。
「仕方ないよね」
ゆっくりリナをベッドに押し戻す。
シーツがまた沈む。
「体で覚えてもらうしかない」
耳元で甘く囁く。
「大丈夫」
「すぐ俺しか見えなくなるから」
抱きしめる腕は強くて、
逃げる隙なんてどこにもない。
心くんの声が、
暗い夜の部屋に溶けていく。
「リナ」
「七年分……」
小さく笑う。
「全部もらうね」




