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51.真の回想

『真の回想』


あの時は…


マジでヤバかった…


真は、廊下の壁にもたれながら心のなかで呟く。


目の前では——


「真、どっちがいいと思う?」


スマホを突き出してくる男。

画面には指輪の写真が並んでいる。


「プロポーズなんだからさ、ちゃんとしたの選びたいんだよね」


少し照れくさそうに笑う。

真田心。

今は。

恋人に浮かれている、ただの男。

柔らかい空気。

甘い声。

穏やかな目。

だが。


真の頭の中には——


全く違う光景が浮かんでいた。


(……リナさんが消えた時)


(あの時のボス)


真はゆっくり目を閉じる。

思い出す。

あの地下室。

あの空気。

あの男。


(正直)


(近づくだけで殺されると思った)


誰も。

組織の人間でさえ。

あのボスには。

そして。

真の記憶は、静かに過去へ沈んでいく。


_______________



地下室。

白い蛍光灯が冷たく光っている。

時間の感覚は、もうない。

鳳沙織の視界は揺れていた。

体は震え、呼吸は浅く乱れている。

目の前の男だけが。

最初から。

何も変わらない。

黒いシャツ。

整った姿勢。

静かな顔。

まるで会議でもしているようだった。

だが。

机の上には血の付いた布。

床には倒れた椅子。

空気は鉄の匂いを含んでいる。

真田心は椅子に座り、脚を組んでいた。


「ねぇ」


静かな声。


「まだ言わないの?」


沙織の唇が震える。


「……知らない」


その言葉が落ちた瞬間。

部屋の空気が、さらに冷えた。

心はゆっくり息を吐いた。


「そっか」


小さく笑う。

だが。

笑っているのは口元だけだった。

彼は立ち上がる。

コツ。

コツ。

靴音が響く。

沙織の前に立つ。

そして静かに言う。


「俺のリナ」


一拍。


「どこやったの?」


沙織は首を振る。


「知らない……」


次の瞬間。

机に拳が落ちた。

ガンッ!!

金属音が地下に響く。

沙織が悲鳴を上げる。

だが心の表情は変わらない。

怒鳴らない。

暴れない。

ただ。

静かに壊れている。

心は机に手を置いたまま呟いた。


「ねぇ」


低い声。


「俺」


「そんなに甘く見える?」


沙織は震える。

心はゆっくり顔を上げる。

そして。

ぽつりと言った。


「そういえば」


「面白いこと聞いた」


少し笑う。


「俺が」


「お前抱いたって?」


鼻で笑った。

本当に。

くだらない話を聞いたように。


「それ」


「リナに言ったの?」


沙織は目を逸らす。

それが答えだった。

心は肩をすくめた。


「まぁ」


淡々と言う。


「リナに再会する前はさ」


「性欲処理くらいはしてたよ」


机に置いてある物を見ながら言う。


「使い勝手のいい穴なら沢山いたわ」


軽い口調。

だが目は冷たい。


「でもさ」


ゆっくり沙織を見る。

声が低く落ちる。


「お前みたいな」


一拍。


「めんどくさいタイプ」


口元が歪む。


「絶対抱かないけどね」


沙織の顔が歪む。

涙が溢れる。

心は興味なさそうに視線を外す。


「勘違いしないで」


机に寄りかかる。


「お前と婚約したのだって」


「ただの契約」


「お前自身に」


「価値なんないのに」 


「調子に乗って」


「リナに手を出すとか」


「どんだけ頭足りなないんだよ」


その言葉は。

どんな暴力よりも残酷だった。

沈黙。

やがて。

心はスマホを取り出す。

画面を開く。


「そうだ」


淡々と言う。


「会社」


沙織の瞳が揺れる。

心は画面を見せた。

株価チャート。

急落している。


「昨日」


指で画面をなぞる。


「鳳のメイン銀行」


「融資止めた」


もう一枚の画面。


企業リスト。 


「今日」


「主要取引先」


「全部引かせた」


さらに別の資料。


「あと」


少し笑う。


「税務署」


「金融庁」


「労基」


「全部行ってる」


沙織の呼吸が止まりかける。

心は続けた。


「トップ企業って言ってもね…」


少し考えるように。


「綺麗に見えるけどさ」


指を立てる。


「銀行」


「取引」


「信用」


三本。

「この三つ」


「折れば」


静かに言う。


「一晩で崩れる」


スマホが震える。

メッセージ。

心はちらっと見る。

そして。

小さく笑った。


「ほら」


画面を見せる。

鳳グループ株、ストップ安。

沙織の顔から血の気が引いた。 


「……やめて」


涙が落ちる。


「もう……やめて」


心は反応しない。

ただ見ている。

沙織は崩れた。


「〇〇のコテージ……!!」


叫ぶ。


「鳳の……山のコテージ……!!」


呼吸が荒い。


「だから……」

涙を流しながら懇願する。


「もうこんなことやめて……!!」


「鳳にも手を出さないで……!!」


地下室が静まり返る。

数秒。

心は動かない。

そして。

ぽつり。


「……やっと」


視線を落とす。


「話した」


スマホを耳に当てる。


「真」


扉の外。

真の声。


「はい」

心は淡々と言った。


「鳳」


一拍。


「潰して」


沈黙は一瞬だった。


「了解」


沙織が絶叫する。


「いや!!」


「話したでしょ!!」


「鳳には手出さないって——」


心はゆっくり振り向く。

そして。

笑った。

冷たい笑み。


「そんなはず」


首を傾ける。


「ないでしょ」


一歩近づく。

声が低く落ちる。


「俺のリナに」


「手出したんだよ」


目が狂気に染まる。


「俺のに」


「手出したんだよ」


沙織の顔が絶望に変わる。

心は静かに続けた。


「殺してくれって」


小さく笑う。


「懇願するくらい」


声が沈む。


「地獄」


「味あわせてあげる」


沙織は泣き崩れる。


だが。

心はもう見ていない。

視線は遠く。

空っぽ。

ぽつり。

呟く。


「リナ……」


声だけが柔らかくなる。


「迎えに行くよ」


そして振り向く。


「真」


「はい」


「迎え行く、車出して…」


「それと…」


「この女」


興味のない声。


「俺の視界に入れるな」


「了解」



____________


真は目を開けた。

目の前では。


「やっぱこっちの指輪かな」


なんて言いながら笑うボス。

真は苦笑する。


(……ほんと)


(あの時はヤバかった)


リナがいないボス。

あれは。

人間じゃなかった。

もし。

リナが見つからなかったら。


多分——


鳳だけじゃ済まなかった。

真は心の中で呟く。


(ほんと)


(リナさんがストッパーだわ)


そして静かに言った。


「それ、いいと思いますよ」


「リナさん絶対喜びます」


(リナさん…ボスが世界を壊さないように…頼むからもう離れないでください)


真は切実に祈った…



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