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40.同窓会 ― 前準備

『同窓会 ― 前準備』



ある日――


リナのもとに、一通の封筒が届いた。

差出人は高校の同級生。

中には、同窓会の案内状が入っていた。

心が孤児院を出たあと。

リナは普通の高校に通った。

特別仲の良い友達がいたわけではない。

部活に打ち込んだわけでもない。


けれど――


人懐っこいリナは、

クラスの誰とでも柔らかく話すタイプだった。

だからこそ。

久しぶりに大人になったみんなに会えるかもしれない。

そんな想像だけで、少し胸が弾む。

昔は制服で並んでいた教室。

放課後の廊下。

文化祭の準備で騒いだ教室。

その頃の皆が、

どんな大人になっているのだろう。


けれど同時に――


一つの問題があった。

心に相談しなければいけない。

心がいない場所に、

リナが一人で出かける。

それは今までほとんど無かったからだ。

その日の夜。

組織の本拠地。

心の執務室。

書類を整理している心のところへ、リナがやってくる。


「リナ?どうした?」


「ん?」


「なんか…そわそわしてる?」

クスッ


リナは少し躊躇してから封筒を差し出した。


「これ…」


心は封筒を受け取り、中を見る。


「ん?」


「同窓会?」


少し首を傾げる。


「行きたいの?リナ」


リナはもじもじしながら視線を落とす。

心がいない場所。

自分一人で外に出る時間。


それは――


今までほとんどなかった。

だから。

期待と不安が入り混じる。

上目遣いで心を見つめながら、小さく言った。


「行ってみたいの…」


「どうかな…心くん」


心は少し考える。


「うーん」


リナの胸がドキンと鳴る。

そして。


「まぁ…」


「たまには息抜きも必要だしね」


にこっと笑う。


「いいよ」

「楽しんでおいで」


ぽんぽん、と優しく頭を撫でた。

リナの顔がぱっと明るくなる。


「ありがとう!」


心不在の同窓会。


それを許してもらえたことが――


信頼されているみたいで嬉しかった。

誇らしい気持ちさえある。

そんなリナを見て、心はふっと笑った。


「行くならさ」


「服とか…もろもろいるよね?」


リナは首を振る。


「いいよ」


「あるの着ていくから」


心はすぐにツッコミを入れた。


「最近リナ、スーツしか買ってないじゃん」


「俺」


少し悪い笑みを浮かべる。


「リナの可愛い服着たの見たい」


そう言うと。

どこかへ電話をかけ始めた。 


「もしもし」


「あぁ…真田です」


「今からいいですか?」


「……ええ、はい」


「じゃあよろしくお願いします」


電話を切る。


そして――


リナの手を取った。


「じゃあ行こっか♡」


「え?」


(どこに…?)


リナは上機嫌な心に連れられて

そのまま車に乗せられた。

しばらく走り。

車はとある場所で止まる。

高級デパート。

しかも。

都内でも有名なハイブランドが並ぶ場所だった。

運転席を降りた心は、

リナのドアを開けて手を差し出す。


「どうぞ」


完全にエスコート。

リナは戸惑いながら手を取った。


入口の前には――


スーツ姿の紳士。

腰を折って深く頭を下げる。


「真田様、お待ちしておりました」


「手はずどおり整えております」


心は軽く手を振った。


「支配人、今日はよろしくね」


リナの肩を軽く抱き寄せる。


「この子の服とか靴」


「たくさん欲しいんだ」


支配人は一瞬目を見開く。

そしてすぐに笑顔になった。


「真田様が女性をお連れになるなんて…」


「初めてですね」


「誠心誠意、対応させていただきます」


中へ案内される。

扉をくぐる。


――静か。


誰もいない。

客はゼロ。

店員だけが並んでいた。

綺麗な服。

高そうなドレス。

ワンピース。

アクセサリー。

全部が高級品。

リナは小声で言う。


「ちょっと…心くん」


「ん?」


「何?どうしたのリナ」 


「なんで…誰も居ないの?」


心はさらっと答えた。


「そりゃ」


「かわいいリナの服見るのに」


「ゆっくり見たいじゃん」


「支配人に頼んで貸切してもらったから」


「周り気にせずゆっくり選んでいいよ」


「貸切って…そんな…」


リナは近くのワンピースを手に取る。

何気なく値札を見る。

そして。

固まった。

桁が。

二つ三つ違った。

リナは心の耳元でこそこそ言う。


「なぁに…リナ?」


「甘えたくなった…♡」


「そうじゃなくて…!」


小声で焦る。


「こんな高いの私買えないよ…」


「支配人さんには悪いけど…」


「他のお店…」


心は即答した。


「何言ってんの!」


「リナが着るやつなんだから」


「俺が出すに決まってるでしょ!」


リナは首を振る。


「だめだよ!」


「こんな高いの…受け取る理由ないよ」


心は少し近づく。

そして低く囁く。


「理由欲しいの?」


「まだ分かってない?」


「俺の愛する人の服」


「リナが可愛くなるなら」


「俺いくらでも出すし」


そしてウインク。


「可愛いの着せるのも」


「脱がすのも」


「彼氏の特権でしょ?」


リナの顔が一瞬で真っ赤になる。


さらに追撃。


「まぁ」


「リナは何も着なくても可愛いけどね」


「さすがに他の人に見られるから」


「裸はねぇ」


「リナ」


髪の毛を指でくるくる弄びながら

耳元で囁く。


「っっ……」


リナは真っ赤になって黙る。

さらに心は言う。


「それにさ」


「同窓会でしょ?」


「同窓会の服くらい」


「俺に買わせてよ」


少し寂しそうな顔。


「俺」


「甲斐性ないって思われちゃうよ」


その顔を見て――


リナは。

根負けした。

椅子に座らされる。

そして。

ここから。

心の独壇場。


「じゃあどんどん持ってきて」


「支配人」


「かしこまりました」


そこから。


リナはまるで――


着せ替え人形。

次々と服を着せられていく。

清楚。

淡い色。

儚い雰囲気。

露出多めのものは――

全部。

心によって却下された。


「リナはこういう淡い色で」


「清楚な感じが似合うから」


「甘くしすぎないで」


「同窓会で男刺激するの嫌だし」


「上品な感じで」


「アクセサリーと靴も」


「合いそうなの持ってきて」


「かしこまりました」


支配人が一着持ってくる。


「こちらはパリのデザイナーの作品で」


「一点物でございます」


心は目を細めた。


「おぉ」


「それいいね」


そしてさらっと言う。


「あっ」


「リナに既製品着せたくないから」


「全部一点物だけにして」


支配人は一瞬固まった。


「……かしこまりました」


リナが慌てて言う。


「ちょっと…心くん」


「ん?」


「何リナ?」


「ほんとに…最低限にして…」


「お願い!」


「私…同窓会の服だけで…」


心はきょとんとした。


「何言ってるの?」


そして笑う。


「支配人泣いちゃうよ…ねえ…」


支配人

ふふふっと、笑いプロの顔…


「だめだめ…こんなに…」


リナは必死に止める。

すると心がさらっと言った。


「あのね」


「これは俺がリナに着せて」


「鑑賞するために買ってるの」


「つまり俺の趣味」


「だから俺が買うの」


「当たり前でしょ♡」


もう何を言っても止まらない。

途中からリナは諦めた。

値札を見ると心が痛くて

罪悪感で胸が苦しくなる。


だから――


途中から

値段を見るのをやめた。


「アクセサリーは服の邪魔しない上品なの」


「バッグも合うやつお願いね」


「かしこまりました」


結局。


数十着の

バッグ

心は全部まとめて

自宅に郵送するよう支配人に依頼した。


支払いは――


同窓会の服やアクセサリーだけで。

おそらく。

三桁を超えている。

全部の値段。

知るのが怖い。

上機嫌な心。


「じゃあ」


「次はメイク用品見よっか♡」


(もう…無理……)


庶民の金銭感覚のリナ。

卒倒しそうな数字が並ぶ。


リナは――


頭真っ白のまま。

着せ替え人形。

メイク。

ヘアセット。

全部終わって帰る頃には。

魂の抜けたリナと。

大満足で満面の笑みの心だけが残った。



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