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39.新田真の地獄

『新田真の地獄』



あの地下室での出来事以来――


新田真の人生は終わった。

いや、正確に言うなら。


地獄が始まった。


数日後。


組織の廊下。

警備任務中の真は、いつも通り周囲を警戒していた。

視線は鋭い。

足音は静か。

廊下の死角、窓の反射、天井の監視カメラ。

すべてを確認する。


だがその警戒の半分以上は――


ボスの気配を探すためだった。


(……今日はいないか)


ほんの少しだけ安堵する。

その時だった。

遠くの廊下から声。


「真さーん!」


ぱたぱたと軽い足音。

遠くから手を振りながら走ってくる人影。

嬉しそうに手を振って走ってくる。


(あっ)


(終わった)


如月リナだった。

満面の笑み。

完全に友達認定済みの距離感。


「お疲れ様です!」


ぺこっと頭を下げる。


「この前はありがとうございました!」


「え……あ……はい……」


真の声は死んでいた。


(来るな)


(頼む) 


(ボスさんどこかで見てる)


(絶対見てる)


(絶対見てる)


だがリナはそんなこと知らない。


「真さん今日も警備なんですね」


「いつもありがとうございます」


「いや……仕事なんで……」


真は半歩下がる。


(距離取れ距離取れ距離取れ)


だが――

リナは半歩近づく。

距離ゼロ。


「そうだ!」


リナが身を乗り出す。


「この前心くんがね」


真の背筋が凍った。


(その話題は)


(ダメだ)


(やめろ)


リナは気づかない。

以前の襲撃の時。


リナは―― 


真に「友達だと思っている」と言った。

そして真は。

否定しなかった。

否定できなかった。

なぜなら。

背後にボスがいたから。


それ以来――


リナの中で。


新田真=おともだち


が完全に成立していた。

しかも。

もともと真は心に心酔している。

リナと話す時は。

自然と話題が心になる。

共通の話題。


そして――


好きな人の話を聞いてくれる相手。

それが嬉しくて。

リナはますます懐いた。

結果。

現在。

地獄。


「聞いて下さい…心くんが…」


(やめろ)


「夜中にアイス食べてて」


(やめろって)


「バレたら怒られるからって」


(その話題やめろおおおお)


「一緒に隠れて食べたんです」


リナが楽しそうに笑う。


「かわいいですよね」


真の脳内。


(聞きたくない)


(それ俺が聞いていい話じゃない)


(絶対俺聞いちゃダメなやつ)


だがリナは続ける。


「心くんって」


「普段怖いのに」


「こういうとこ可愛いですよね」


(可愛い)


(ボス)


(可愛い)


真は天井を見た。


(俺にとっては可愛くない…)


(どこまで聞いてる)


その時だった。

廊下の奥。

黒い影。

心。

真の背中に冷たい汗が流れる。

心は立っていた。

腕を組み。

無表情で。

完全に。

聞いてる。


(ああああああああああああ)


真の脳内が崩壊する。

だがリナは気づかない。


「それでね」


「この前も――」


心と真の目が合った。

心はニコッと笑った。

怖い。

怖い。

そのまま。

親指で軽く首を切るジェスチャー。


(死ぬ)


真は悟った。

さらに数日後。

警備詰所。

真は机に突っ伏していた。

魂が抜けている。

同僚が聞く。 


「お前最近死にそうな顔してるけど」


真は答える。


「俺」


「人生ミスった」


そこへ――


「真さーん!」


(来た)


リナが入ってくる。

笑顔。

天使。

だが真には――

死神。


「真さん!」


「ちょっと聞いてください!」


「は……はい……」


「昨日の心くんなんですけど…」


(またその話!?)


「私のパソコン作業見てて」


「すごいなって褒めてくれて」


「照れてて」


リナは頬を赤くする。


「かわいいですよね」


真は思った。


(それ)


(全部)


(俺…聞いていい話なのか)


ふと。

背後に気配。

振り向く。

ガラス越しの廊下。

立っている。

心。

腕組み。

無表情。

真を見る。

ゆっくり。

親指を立てる。

下向き。


(処刑決定) 


真の魂が抜けた。

さらに地獄は続く。

ある日。

廊下。

真が歩いていると。


「真さん!」


振り向く。

リナが手を振って走ってくる。


しかも――


心と一緒。


(最悪だ) 


「心くん!」


「真さんいた!」


心がゆっくり視線を向ける。


「へぇ」


ニコッ。


「仲良しだね……」


真の寿命が縮む。

リナは無邪気。


「真さんってね」 


「すごく優しいんですよ!」


(やめろ)


「この前も色々アドバイスくれて」


(それ言うな) 


「すごく頼りになるんです」


(それ以上言うな)


心の笑顔が深まる。


「へぇ〜」


「そうなんだ」


肩に手を置かれる。

「新田…いや真って呼んでいい?…いいよねぇ…」


爪が…

肩に食い込む…


とてつもなく重い。


「真」


「優しいんだ?」


「リナに」


「へぇ…」


背骨が凍る。


「……光栄です……」


声が震える。

リナは全く気づかない。


「それでね」


「この前――」


(またボスの話)


真の魂が空を見た。


(神様)


(俺は)


(何の罰を受けてるんですか)



________

その夜。

地下訓練室。

サンドバッグを殴り続ける真。


ドゴッ


ドゴッ


ドゴッ


ドゴッ


同僚が聞く。


「お前どうした」


真は答える。


「俺」


「ボスの彼女と」


「友達になっちまった」


同僚は笑った。


「いいじゃねえか」


真はゆっくり振り向く。

死んだ目。


「ボスが」


「全部見てる」


同僚の笑顔が消えた。


「……あっ」


真は壁に頭を打ち付けた。

ゴン

ゴン

ゴン


「助けてくれ」



_______________

その頃。

別の部屋。

リナは心に言っていた。


「真さんって」


「すごくいい人ですよね」


心は笑顔で答えた。


「そうだね」


「本当に...」


窓の外。

遠くでサンドバッグを殴る真。

それを見ながら。

心は小さく呟いた。


「さぁ……」

「どうやってお仕置きしてやろうか……」


こうして。

新田真の――

本当の地獄の日々が始まった。



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