3.仕組まれた再会
お仕事編
「仕組まれた再会」
如月リナは孤児院を出てから、
マンション販売と商業施設のテナント紹介を行う会社に勤めていた。
早く孤児院を出たくて始めた仕事だった。
だけど——
今ではこの仕事が好きだった。
家族が住む場所を紹介する仕事。
新しい暮らしを始める人たちの手助け。
自分には縁のなかった“家族”というものを、
誰かのために繋げることができる。
それが誇らしかった。
その日の朝。
リナは上司に呼び出された。
「いいか如月」
腕を組みながら、蒲原が言う。
「今日は大口の顧客が来る」
蒲原は古い考えの男だった。
女は三歩下がって男を立てるもの。
女の仕事はお茶出しと資料準備。
それが彼の考えだった。
この前も——
リナが取った契約を、
男性社員に回された。
「女が営業?笑わせるな」
「色気でも使ったのか?」
そう言いながら、
太ももを撫でられた。
怖かった。
悔しかった。
それでも——
この仕事が好きだったから耐えていた。
「今回の契約は絶対落とす」
蒲原が息を荒くする。
「俺の出世がかかってる」
そして苛立った顔でリナを見る。
「全く……なんで女のお前が担当に指名されるんだ」
今回の顧客は。
なぜか——
リナを担当者に指定してきた。
理由はわからない。
「精一杯頑張ります」
リナは頭を下げた。
応接室。
資料を整え、緊張しながら待っていると。
ドアが開いた。
「失礼します」
低く落ち着いた声。
「少し早く着いてしまいました」
男が微笑む。
「JLT株式会社の——真田心です」
リナの手が止まった。
黒いスーツ。
長身。
整った顔。
そして——
その目。
(心くん……)
七年ぶりに再会した幼なじみが。
そこにいた。
「いやぁお待ちしてました!」
蒲原が慌てて立ち上がる。
「真田様!当社のマンション契約とテナント契約をご検討いただき——」
そしてリナを睨む。
「おい何ぼーっとしてる!挨拶しろ!」
リナは心を見つめてしまっていた。
すると。
心がニコリと笑った。
「はじめまして」
名刺を差し出す。
「如月さん」
リナの胸がドキンと鳴る。
「お噂はかねがね聞いています」
「マンションの説明も、テナント運用の相談も丁寧だと」
「知人から紹介されました」
蒲原を完全に無視して。
心はリナに手を差し出した。
「ぜひ如月さんに担当していただきたくて」
リナは気づく。
——知らないふりをしている。
理由はわからない。
でも。
それに合わせた。
「はじめまして、真田様」
名刺を差し出す。
「本日はありがとうございます」
そこからは。
完璧なプレゼンだった。
資料。
説明。
運用計画。
すべてを丁寧に説明する。
心は楽しそうに聞いていた。
そして。
プレゼンが終わると拍手した。
「素晴らしい」
微笑む。
「完璧ですね」
そして——
テーブルの下で。
そっとリナの手を握った。
「噂以上だ」
小さく囁く。
「うちの会社に引き抜きたいくらい」
リナは顔を赤くした。
「ありがとうございます……」
思わず俯く。
蒲原が慌てて口を挟む。
「では今回の契約ですが——」
だが。
心はゆっくり言った。
「一つ条件があります」
空気が変わる。
「如月さんを最後まで担当者にしてください」
静かに続けた。
「それなら」
書類を机に置く。
「この500億の契約」
「ここで結びます」
部屋が凍りつく。
蒲原の顔が青くなる。
「やはり」
心が微笑む。
「自分の住む場所は、信頼できる人に任せたい」
リナを見つめた。
「これからも相談に乗ってくれますか?」
「如月さん」
リナは真っ直ぐ頷いた。
「はい」
「精一杯お手伝いさせていただきます」
契約は成立した。
社長は大喜びだった。
リナの評価は一気に上がった。
蒲原は何も言えなかった。
——だが。
数日後。
夜。
会社の前。
「おい」
背後から腕を掴まれた。
蒲原だった。
「こっち来い」
強く引っ張られる。
「痛っ……」
「その身体使って誑かしたんだろ」
舌なめずりする。
「じゃなきゃ説明できねぇ」
「無能な女があんな契約取れるか?」
リナは抵抗した。
「やめてください……」
でも力で敵わない。
腕を引きずられる。
その時。
「如月さん?」
聞き慣れた声。
二人が振り向く。
そこにいたのは——
心だった。
「どうしました?」
優しい声。
でも。
目が笑っていない。
蒲原が慌てて言う。
「違うんです真田様!この女が誘惑して——」
心がスマホを見せた。
「今の発言」
冷たい声。
「全部録音しました」
一歩近づく。
「セクハラですね」
目が鋭くなる。
「然るべきところに報告させてもらいます」
その眼光に。
蒲原は震えた。
「……っ」
そして逃げるように去っていった。
静かになった夜道。
リナは俯いた。
「また……助けられちゃった」
悔しい。
情けない。
涙が出そうだった。
その瞬間。
心がリナを抱き寄せた。
「……え?」
「これで」
耳元で囁く。
「見えないでしょ」
強く抱きしめる。
「泣き顔」
リナは知らない。
この“偶然”が。
すべて——
心が仕組んだものだということを。
蒲原の行動も。
タイミングも。
すべて。
遠くで。
黒い車の中。
部下が呟いた。
「ボス」
「予定通りですね」
心はリナを抱きしめたまま微笑んだ。
「当然だろ」
優しく髪を撫でる。
「リナは」
低く囁く。
「俺が守るんだから」
その目は。
愛情と。
狂気で満ちていた。
すべて…仕組まれているが…
気づかない




