27.出張
『出張』
その夜。
広い執務室の奥で、心はソファに座りながら機嫌よく足を組んでいた。
「リナさぁ…」
くすくす笑う。
「俺の傍に居させてってさ…」
思い出しただけで楽しそうに目を細める。
「もう…可愛いなぁ…」
机の向こうに立つ黒服たちは黙っている。
心は続ける。
「他に行く場所なんてさ」
肩をすくめる。
「ぜーんぶ潰してやるのに」
楽しそうに笑った。
「気づかないんだよ」
少し声を落とす。
「愚かで可愛い俺のリナ♡」
そして急に顔を上げた。
「ねぇ」
近くに立っていた黒服を見て言う。
「お前聞いてる?」
黒服はびくっと肩を震わせた。
「はっ…!」
慌てて背筋を伸ばす。
「聞いてます…」
心は少し不満そうに目を細める。
「せっかく俺のリナの可愛いところ話してるのに」
「ちゃんと聞けよ」
しばらく黙ったあと、ふっと笑った。
「まぁいいか」
肩をすくめる。
「リナの可愛さは俺が分かってればいいし」
そう言って、机の上の書類に手を伸ばす。
「で」
軽く伸びをする。
「仕事しますか」
黒服たちが資料を差し出す。
しばらく書類をめくっていた心は、
ふと思い出したように顔を上げた。
「あっ、そういえばさ」
「関西の方の会合」
「これ泊まりだっけ?」
黒服が答える。
「はい」
「一週間ほどの予定です」
心は眉をひそめた。
「一週間?」
書類をぱたんと閉じる。
「何でそんな長ぇの?」
不機嫌そうに言う。
「スケジュール組んだやつ誰だよ」
部屋の空気が一瞬固まる。
そして心は腕を組んだ。
「てかさ」
少し考える。
「俺これ行く必要ある?」
黒服たちは答えられない。
心はぼそっと言った。
「リナと離れたくないんだけど」
本気で言っている声だった。
「行かなくてよくない?」
沈黙。
そのとき――
心の目が急に輝いた。
「あっ」
指を鳴らす。
「いいこと思いついた♡」
黒服たちは嫌な予感がした。
心は嬉しそうに笑う。
「リナ連れてけばいいんだ」
「俺って天才」
楽しそうに言う。
「リナ、俺の秘書だもんね」
黒服の一人が恐る恐る口を開く。
「ボス…」
「今回の会合は…」
少し言いにくそうに続ける。
「裏の会合です」
「リナさんに見せて…大丈夫でしょうか」
その言葉に、心は一瞬だけ黙った。
そして――
ふっと笑う。
「大丈夫」
あっさり言った。
「リナは俺を受け入れるよ」
静かな声。
「もう俺なしじゃいられないから」
黒服たちは顔を見合わせる。
心は楽しそうに続ける。
「もし怖がって逃げても」
肩をすくめる。
「それはそれでいい」
にやりと笑う。
「捕まえて」
少し声を落とす。
「また教えてあげればいい」
まるで当然のことのように言った。
上機嫌なボス。
しかし黒服たちの背中には冷たい汗が流れていた。
――リナが参加する。
それはつまり。
警備体制も、移動も、宿泊も、
すべて組み直しになるということだ。
心は軽く言っただけだが、
現場は大混乱になる。
しかも――
この人は。
リナの安全も含めて
完璧でなければ許さない。
少しでも問題が起きれば。
準備したメンバーは
全員処罰される。
黒服たちは黙ったまま頭を下げた。
「承知しました」
声は揃っている。
けれど心の中では。
皆同じことを願っていた。
――どうか。
ボスが気まぐれで。
リナの同行を
諦めてくれますように。




