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23.アパート

『アパート』


数日後の昼間。


リナのスマートフォンに、一通のメールが届いた。

差出人の名前を見て、少し驚く。


――前に住んでいたアパートの大家だった。


恐る恐る開くと、そこには丁寧な文章が並んでいた。

火災のあと、保険の手続きが進み、

住人への補償も順次進めていること。


そして――


新しい建物を再建する予定で、

以前の住人には優先的に入居案内を出す、という連絡だった。

画面を見つめたまま、リナは長く息を吐いた。


「はぁ………」


小さくため息がこぼれる。

嬉しいはずの知らせなのに、

胸の奥が重くなる。

今の生活を思い出す。

最近、ほとんど働いていない。

家で過ごし、心を待っている時間が多い。


それなのに――


通帳には毎月、

以前の三倍どころではない金額が振り込まれていた。

最初に見たときは、目を疑った。

思いきって心に聞いたとき、

彼はあっさり言ったのだ。


「あぁ…それ?」


まるで何でもないことのように。


「リナの秘書業務で、俺めちゃくちゃ助かってる」


「え…?」


リナは戸惑った。


「だってさ」


心は笑いながら続ける。


「リナが居ると効率いいんだよ」


軽く肩をすくめる。


「俺結構稼ぐからさ。リナいるといないじゃ…稼ぎ億単位で違うんだよ」


「えっ?」


そんなこと、あるわけない。

リナは思わず言った。

けれど心は本気で資料を取り出した。


「ほら」


机に書類を広げる。


「これ、今までの商業成績」


グラフや数字が並んでいる。


「こっちが、俺が関わった案件の統計」


そしてもう一枚の資料を指差す。


「で、こっち」


にやっと笑う。


「リナ膝に乗せたり、リナにちょっかい出しながら仕事した時」


「っ…!」


リナの顔が一瞬で赤くなる。


「リナ真っ赤。かわいい♡」


からかわれながらグラフを見ると、

確かに数字は右肩上がりだった。


「なんで…!」


思わず声が出る。

すると心は平然と言った。


「俺ね、もともと優秀なの」


さらっと言う。


「自分で言うのもなんだけど」


それはリナも知っている。

孤児院にいた頃から、

心は何でも出来た。

勉強も、作業も、人付き合いも。

そしていつも――

リナを助けてくれていた。


「でもね」


心は少し顔を近づけてくる。


「リナが傍にいるとさ」


耳元で囁く。


「早く仕事終わらせたくなるんだよ」


リナはさらに赤くなる。


「だから結果的に効率いいの」


くすっと笑う。

そんな風に言われて、

給料の話はうやむやになった。

一応、リナは言った。


「借りるだけ…ってことで」


すると心は即座に笑う。


「だぁめ」


軽く腕を引かれる。


「じゃあ身体で返して?」


からかうような声。

結局そのまま流されてしまい、

気づけば夜が更けていた。

そして最後にはいつも同じことを言われる。


「また返したくなったらいつでも言って♡」


完全に丸め込まれている。

リナは天井を見上げながら思った。


――このままじゃいけない。


お金も。

生活も。

心に頼ってばかりだ。


せめて――


住む場所くらい、自分でなんとかしないと。

その夜。

帰ってきた心に、リナは思い切って話した。


「心くん」


「ん?」


「前のアパート…」


メールの話をする。

新しい建物ができること。

優先的に入れること。

話し終えると、

少しの沈黙が落ちた。

そして――

心は静かに言った。


「ダメだよ」


リナは驚く。


「でもね、新しいアパート手配してくれるって…」


「なんで離れる必要あるの?」


心の声が少し低くなる。


「せっかく恋人になったのに」


リナは戸惑いながら言う。


「けじめというか…私、心くんに頼ってばかりで…」


その瞬間。

心の表情が変わった。


「頼ってばかり?」


低い声。


「もっと頼れよ」


一歩近づく。


「もっと俺に依存して」


リナの腕を掴む。


「俺以外の事どうでもよくなれよ」


リナの胸がドクンと鳴る。


「やっぱりリナ」

じっと見つめる。


「俺の事汚いと思ってる?」


「だから出ていくの?」


「違う…!」


リナは首を振る。


「違うよぉ…」


涙が浮かぶ。

すると心は、ゆっくり言った。


「リナは出て行かせない」


静かな声。


「どこにも」


そして――

ふっと笑う。


「言ったよね」


リナを抱き上げる。


「俺、逃さないって」


そのまま寝室へ連れていかれた。

その夜。

心は何度も…

同じことを確かめた。

リナがここにいること。

離れないと言うこと。


「ほら…もう行かないって言って」


リナを貫きながら何度も囁かれる。

快楽でドロドロにして

わけのわからないリナに何度も囁く…


リナはそのたびに答える。


「行かない…」


「ここにいる…」


朝になったころ、

ようやく眠りに落ちた。

そして――

リナが目を覚ましたとき。

足首に、

冷たい感触があった。

視線を落とすと、

細く長い鎖が繋がっている。


「……え」


扉が開く。

心が入ってくる。


「おはよ、リナ」


穏やかな声。

リナが鎖を見ると、

心は少し申し訳なさそうに笑った。


「しばらく不便だけど…ごめんね」


優しく髪を撫でる。


「トイレとか生活スペースは届くようにしてある」


そして、少しだけ目を細めた。


「出ていくって気が…ほんとになくなって」


リナを見つめる。


「俺に堕ちるまで」


静かに言う。


「ちゃんと教えてあげる」


指先でリナの顎を上げる。


「俺に飼われてる、かわいいリナ」


小さな箱を取り出す。

そして――

そっと首にそれをつけた。

細いチョーカー。

心は満足そうに微笑んだ。



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