13.翻弄
『翻弄』
それから――
心くんは、まるで失われた時間を埋めるみたいに
何度も何度も私を抱いた。
最初の夜の、少し乱暴で焦ったような心くんとは違う。
今度は――
とても、優しくて。
でも逃げられないくらい甘くて。
「ねぇ…ここ気持ちいい?」
耳元で低く囁かれて、身体がびくっと震える。
「ちゃんとイクとき言うんだよ」
指先でそっと頬を撫でながら、心くんは笑う。
「ほら…」
「我慢しないで」
「いけたね」
額に口づけを落とされる。
「えらい」
優しい声。
「恥ずかしくないよ」
「……あぁ、リナかわいい」
身体の奥まで見透かされているみたいで
顔が熱くなる。
「ほら…逃げないで」
優しく腰を引き寄せられる。
「ここ」
「リナのいいとこ」
囁きながら、逃げようとする私を逃がさない。
「もう…我慢できない」
息がかかる距離。
「出すよ…」
「んっ……」
「まって…なかぁ…だめぇ…」
慌てて言うと、心くんはくすっと笑った。
「何言ってんの」
耳元で甘く囁く。
「昨日もさんざんここに注いだんだよ」
指で顎を持ち上げられる。
「もう遅いよ」
意地悪に笑う。
「あきらめて♡」
「あぁ……はぁ……」
私の声に、心くんはますます嬉しそうに笑った。
「リナかわいい」
髪を撫でながら言う。
「一回で終わりと思ってるなんて」
くすっと笑う。
「無理だよ」
低い声。
「止まらない」
「ほら」
腕を引く。
「逃げないで」
「おいで」
っっっ……///
初心者の私を、
強烈な色気で何度も翻弄してくる心くん。
でも心くんは――
ずっと楽しそうだった。
とても上機嫌で。
***
やっと少し眠って。
朝ごはんを作ろうと起き上がろうとしたら。
「まだ寝てて」
後ろから腕を引かれる。
「俺、何か食べ物コンシェルジュに頼むから」
そして顔を覗き込んできて――
「何、赤くなってんの」
くすっと笑う。
「もう一回する?」
「っ……!」
思わず布団をかぶると、心くんが楽しそうに笑った。
それからも。
夜も昼も――
心くんは私を甘やかした。
「心くん…私仕事…」
恐る恐る言うと。
「あぁ」
軽く答える。
「リナ一応出勤というか在宅勤務扱いにしてるから」
さらっと言う。
「大丈夫」
「俺は一緒に朝…」
時計を見る。
「いや、もう昼か」
苦笑する。
「昼ご飯食べたらちょっとだけ出てくるけど」
頭を撫でる。
「ちゃんとリナは俺が帰るまで休んでるんだよ」
優しく撫でられて――
胸がじんわり温かくなる。
(心くんと恋人になったなんて…)
(夢みたい)
再会してからの出来事が、頭をよぎる
再会して…
仕事先で合って…
セクハラの件で助けてもらって…
仕事先が買収されて、職場一緒になって…
アパートが燃えて、住む場所なくなって…
一緒にすんで…
プレゼント渡して…
告白して…
(偶然にしては…)
(出来すぎている)
しかもその全部に――
心が関わっている。
でも。
リナはまだ気づかない。
「じゃあリナ」
玄関で振り返る心。
「行ってきます」
そして――
軽く口づけた。
「チュッ」
「新婚さんみたいだね♡」
「あはは」
「っ…!」
真っ赤になる私を見て満足そうに笑うと、
心くんは出かけて行った。
ドアが閉まる。
キスされた唇をそっと押さえる。
(あったかい…)
幸せな気持ちで、もう一度ベッドへ潜り込む。
布団にはまだ――
心くんの匂いが残っていた。
***
その頃。
車の後部座席で。
「あぁ……」
心が天井を見上げる。
「リナ…可愛かったなぁ…♡」
部下たちは黙っている。
「何度も俺のこと受け入れて」
うっとりした声。
「締め付けて」
「縋りついて」
ゆっくり笑う。
「良かった」
静かな声。
「ぜーんぶリナに近づく男、ヤッといて良かった」
助手席の男が小さく頷く。
「ボス」
「次の指示は」
心は窓の外を見ながら言った。
「あぁ」
軽い口調。
「早いとこリナを孕ませて」
笑う。
「ほんとに俺のものにしたいんだよね」
部下たちは表情を変えない。
「だから」
少し面倒そうに言う。
「会社邪魔だなぁ」
「なんとかしなきゃ」
考えるように呟く。
「でもリナ仕事好きだし」
「どうやって辞めさせようかな」
小さく笑う。
「仕事なんてさせたら」
低い声。
「俺との時間なくなっちゃうし」
そして。
ふと部下を見る。
「あとさ」
「お前ら」
「はい」
「リナがもう一人で外出するようなことはないと思うけど」
声が少し冷たくなる。
「リナに接触したり」
「可愛いリナを見たら」
淡々と続ける。
「殺るよ…」
「一帯に伝令して」
「了解しました」
さらに心は続ける。
「リナの代わりに抱いてたクソ女ども」
「かわりになんてならなかったけど」
退屈そうに言う。
「そいつらも処理しといて」
「俺に近づいて」
「リナに勘付かせないようにして」
「わかりました」
車が止まる。
心は扉を開けながら言った。
「じゃあ」
「まず仕事しますか」
書類を受け取る。
「西側で抗争?」
ため息をつく。
「この時期ここら荒らすとか馬鹿なの?」
冷たい目。
「俺が出なくても」
低い声。
「それくらい抑えられるだろうが」
リナのことを話していた時とは――
まるで違う。
そこにいるのは。
冷酷な――
裏社会の“心”。
リナの知らない顔だった。




