10.話
『話』
マンションの扉が開く音がした。
「ただいま…リナ。いい子にしてた?」
低く甘い声。
リナはソファから立ち上がる。
「心くん…おかえりなさい…」
次の瞬間、腕を引かれて――
強く抱きしめられた。
ぎゅっと、逃げ場を塞ぐみたいに。
「昨日は無理させたね…」
耳元で囁く声は優しいのに、
腕の力は強いままだった。
「リナが可愛いから止まらなかった…」
指が背中をゆっくり撫でる。
「中に…たくさん…」
リナの耳元で、わざとゆっくり言う。
「ここに…いっぱい注いだよ…」
「っ……!」
顔が一気に熱くなる。
「……あの…心くん」
小さく息を吸う。
「話をしよう…」
その瞬間。
抱きしめていた腕が、ぴたりと止まった。
「リナ…」
低い声。
「もしかしてあの男の事話そうとしてる?」
ゆっくり顔を上げると――
心の目が細くなっていた。
笑っているのに、温度がない。
空気が、重くなる。
「俺…聞きたくないって言ったよね」
静かな声なのに、威圧感が増す。
「ねぇ…リナ」
一歩近づく。
逃げ場は、後ろのテーブルだけ。
「リナがどんなにあの男のこと好きでも」
低く、はっきり言う。
「リナはもう…俺のものだから」
さらに一歩。
「どこにも行けない」
リナの肩が小さく震える。
それを見て、心がふっと笑った。
「何…可愛いなぁ」
頬に触れる指。
「怯えてるの?」
優しく撫でる。
「大丈夫…痛いことなんてしない」
耳元で囁く。
「昨日思い出して」
低く、甘い声。
「リナ初めてだったね」
指先が頬をなぞる。
「はじめてのリナ…可愛すぎた…」
小さく息を漏らす。
「リナがね…おとなしくしてれば」
耳元で。
「気持ちよくしてあげられる」
少し間を置いて――
「でもね」
声が一段低くなる。
「あいつの話して…俺のこと怒らせるなら」
ゆっくり言う。
「リナと言えど…お仕置きしなきゃだよ」
指が顎を持ち上げる。
「ずーっと離さないで」
低く囁く。
「リナが俺覚えるまで…」
「分からせてあげる」
リナは震える手をぎゅっと握った。
「俺はどっちでもいいよ」
心は笑っている。
でも――
目の奥は、まったく笑っていない。
「昨日買い物に行ったのは…」
その瞬間。
「へぇ」
心が目を細める。
「リナ話すんだ」
静かに笑う。
「いいよ…聞いてあげる」
一歩近づき、耳元で。
「この状況で話すなんて」
小さく笑う。
「リナ勇気あるよ」
少し間を置いて。
「俺の部下より断然ね」
リナは震えながらポケットに手を入れた。
「心くんに…」
声が震える。
「お世話になりっぱなしだから…」
小さな箱を取り出す。
「お礼…したかった…」
差し出された小さな箱。
心は、ぽかんとした。
「……へ?」
リナは俯いたまま言う。
「ほんとは…一人で買い物してたけど」
涙が落ちる。
「男物とか買ったことなくて…」
「たまたま同期が通りかかったから…意見を…」
心がじっと箱を見る。
「俺のため?」
リナが小さく頷く。
「いや…」
泣きながら笑う。
「いつもたくさんしてもらってて…」
「お礼にもならないんだけど…」
箱を差し出す手が震える。
「……」
心は数秒黙った。
「俺のため?」
「……うん」
小さく頷く。
心はゆっくり箱を開けた。
中にはシンプルなピアス。
「つけていい?」
返事を待たず。
今つけていたピアスを外して――
ぽいっとテーブルに投げた。
新しいピアスをつける。
鏡も見ずに。
数秒。
黙る。
そして突然。
「なんでそんな可愛い事すんの!?」
頭を抱える。
「でも他の男頼るとかマジで…」
天井を見上げて叫ぶ。
「あぁもう!!」
髪をぐしゃぐしゃにする。
「俺の計画台無しじゃん!!」
リナがびくっと震える。
その様子を見て、心がハッとした。
「……リナ」
静かに聞く。
「俺のこと怖い?」
リナは慌てて首を振る。
「ほんと?」
心は少し不安そうに笑う。
「俺さ…リナのこと」
「ひどく抱いたよ」
小さく言う。
「何度も何度も」
「リナがやめてって言っても…何度も…」
目を伏せる。
「リナ初めてだったのに」
リナは少し迷ってから言った。
「最初…少し怖かった…」
心の肩が強張る。
「でも」
リナは顔を上げた。
「心くんだから」
小さく笑う。
「嫌じゃなかった」
心の目が揺れる。
「居なくなった日から…」
涙がまた落ちる。
「好きだったから」
そして震える声で言う。
「家族じゃないって言われて…」
声が詰まる。
「私…私…」
涙が止まらなくなる。
それを見て心は完全に慌てた。
「わぁー違う違う!!」
両手をぶんぶん振る。
「家族じゃないなんて思ってない!!」
焦って言葉がぐちゃぐちゃになる。
「違うなぁ…その…」
頭を掻きむしる。
「俺のもの=家族…恋人…?」
自分でも分からなくなってきている。
「とにかく!」
勢いよく言う。
「リナがあいつと仲良くしてるの許せなくて…」
目を逸らす。
「でも俺だってずっと好きだったんだ!」
顔を赤くして叫ぶ。
「たぶんリナよりずーっと前から!!」
少し黙る。
「いきなり出てきた男に」
低く呟く。
「笑いかけてるリナ見て…」
小さく息を吐く。
「キレた」
そして、ゆっくりリナを抱きしめた。
今度は、さっきより優しく。
「ごめんね」
髪に顔を埋める。
「好きだよ」
小さく言う。
「許して…リナ」




