第12話 仕上げの空気
窓を閉め、私は寝室に残った空気を確かめた。――軽い。澄んではいるが、このままでは少し落ち着かない。これは冬の空気だ。冷たく、乾いている。そこまで悪くはない。けれど、夜を過ごす部屋としては、少しだけ足りない。
私は指先を擦り合わせる。きしり、と乾いた感触がした。……懐かしい。実家で過ごした冬も、こんな空気だった。水は冷たく、雑巾を絞るたびに指先が痛んだ。荒れた皮膚に水が染みて、何度も息を止めた。だから分かる。このままでは、眠りが浅くなる。
寝室は、長くいる場所だ。一晩を過ごし、何度も呼吸を繰り返す場所。一時的に気持ちよければいい、という空気では足りない。私はベッド脇に立ち、魔力を静かに流した。足すのではない。変えるのでもない。
――戻す。乾きすぎた空気に、ほんの少しだけ湿り気を含ませる。冷たさを和らげるほどではない。ただ、呼吸のたびに喉が引っかからない程度に。香りは加えない。寝室に、強い匂いは要らない。布と人と、夜の気配だけでいい。
天蓋の内側、シーツの上、床の高さ。空気は均等に、静かに行き渡る。一息、吸い込む。胸の奥まで、抵抗なく空気が入ってきた。冷たいが、刺さらない。乾いているが、荒れない。
――これなら、眠れる。私はもう一度、部屋を見渡した。整えたのは、目に見えるものだけじゃない。けれど、それが伝わらなくても構わない。寝室は、これでいい。布巾を畳み、道具をまとめる。
次に向かうのは、書斎だ。派手な部屋ではない。
――けれど、生活には欠かせない場所だから。




