第11話 独自の掃除魔法
手で落とせるのは、ここまで。布巾を替え、敷物をもう一度だけ押さえる。赤紫は薄くなったが、繊維の奥に沈んだ色は、まだ残っていた。これ以上続ければ、毛羽立って、かえって目立つ。私は布巾を端に置き、息を整える。
――次は、魔法。ただし、一気にはやらない。掃除は、段階を飛ばすと失敗する。まずは、水魔法だ。バケツの中に、静かに魔力を落とす。水面がわずかに揺れ、温度が変わる。触れてみる。熱くはない。ただ、冷たくもない。手のひらに心地よく馴染む温度。――うん、これくらい。私は敷物の染みの外側に、薄く水を流した。落とすのではなく、動かす。水は勢いを持たず、繊維の間をゆっくりと進んでいく。
色が、わずかに揺れた。内側へ。外から、少しずつ。私は焦らない。急げば、水は暴れる。暴れれば、色は広がる。何度か同じ動作を繰り返し、布巾で静かに吸い取る。赤紫が、確実に薄くなっていく。――ようやく、目で見て分からない程度まで落ちた。
次に、風魔法だ。私は天蓋の上に視線を向け、指先に魔力を集めた。風を起こす。ただし、舞わせない。強くもしない。ふわり、と空気が動く。埃は散らばらず、布の影から引き剥がされるように、ひとまとまりになって落ちてきた。音もない。舞い上がる気配すらない。私はそのまま、風を止める。集めるだけ。飛ばさない。それだけで十分だった。
ここでやっと窓を開ける。天蓋に埃がたまったまま開けてしまうと、それらも舞ってしまい、掃除の手間が増えるのだ。空気を入れ替えた部屋は、くぐもった匂いも消え、どことなくすっきりとしたように感じた。
最後は、火魔法。私は魔力を切り替え、きれいな空気を温める。当然、炎は出さない。焦がす必要はないからだ。温風が、敷物とシーツを包む。水分だけを飛ばし、布を傷めない程度の熱。シーツをピンと張り、乾燥と殺菌をすれば美しい仕上がりだ。同じ要領で、しわくちゃになっていた天蓋の布の皺を伸ばす。色は少し褪せているが、くたびれていた感じがなくなり、きちんとベッドが整った。
私は一歩下がり、全体を見渡した。天蓋の布は軽やかに揺れ、埃の気配は消えている。床の染みは、意識して探さなければ分からない程度まで薄れた。
時間は、思っていた以上にかかっていた。けれど、私は気にしない。急ぐ理由が、ない。早く終わらせることより、傷めないこと。それが、一番大事だ。私は布巾を畳み、道具を整える。
次は、書斎。まだ終わりではない。でも、順番は間違っていない。それが、私にとっては――普通のことだった。
――最後に、ほんの一瞬だけ、振り返り確認する。
淡い明るさが走り、影が消えた。




